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『温泉失格』飯塚玲児著 読了

『温泉失格』(2013年、集英社新書)とは派手なタイトルで驚いた。
2000年ごろ、「日本秘湯の会」の温泉が好きで、そのガイドブックを中心に、よく温泉に入っていた。そのうち松田忠徳さんの温泉本が出始め、ガイドブックではよく“源泉かけ流し”というキーワードを見るようになった。
そのころからわたしは入るなら源泉かけ流しがいいと思っていた。
そこから20数年たって今、また温泉に入る機会が増え、再び温泉に興味を持ちだした。

きっかけは静岡の小さな民宿で、とてもいい湯に出会ったこと。
本物の温泉の力を感じ、これからの人生、数少ない機会に入る温泉は本物を選び続けたい。本物の温泉を味わう旅をテーマにしたいと思ったからだ。

その矢先に、用があって鹿島で温泉を探した。
それほど温泉の多い場所ではなく、探しあぐねて、口コミに“源泉かけ流し”と書いてあったところで入浴した。
入ってみるとそこの湯船には「一部かけ流しの循環風呂です」と注意書きが書いてあった。
一部かけ流しの循環風呂とはどういうことだろう。
そのような中途半端なことをする意味がわからなかった。
その時に手に取ったのが、この本だ。

この本はわたしのような、源泉かけ流し至上主義みたいな人を
源泉かけ流し原理主義者と呼ぶ(笑)。
温泉の現実を知らず、闇雲に加水や加温、循環ろ過や消毒処理を否定することの馬鹿馬鹿しさに気づいてほしいという。

現在の温泉法では、ただのお湯にお猪口一杯の温泉を混ぜれば「温泉」表示が可能となっている。
また、多くの自治体が殺菌を必須としているので(消毒剤を必要としてない泉質もある)、そのに条例に従っているとすれば、多くの温泉は消毒薬によって、源泉の性質から変化している可能性が高い(性質によっては消毒薬が影響しないものもある)。
衛生面で考えると、浴槽は循環の場合も1時間に1回水が入れ替わるのが望ましいとされ、1日1回は水を抜いて清掃することが指針として掲げられているが、現実にはそうはなっていない循環風呂やかけ流し風呂が存在する。清掃頻度については専門家によっては3日に一回でもいいとする意見もある。
2004年の国土交通省の調査(回答1310軒)では、加水、加温、循環なしのお風呂は1割程度だった。2010年の環境省の調査によれば、全国の温浴施設は2万2000軒で、同じ割合を当てはまると、源泉かけ流しの風呂があるのは2200軒程度で、せいぜい温泉地2か所に1~2軒あるか程度となる。
松田忠徳、石川理夫、野口淳(日本温泉遺産を守る会)、斉藤雅樹、郡司勇など温泉の専門家らは、かけ流しの定義として加温、加水を認めるかについては意見が分かれる。松田と野口、斉藤は消毒は認めないとしている。その他は消毒に関しては、条例の定める場合は不問という(実際には条例で定めているところが大半)。
2005年に温泉法が改正され、温泉利用施設に掲示項目が追加された。加水、加温、循環、入浴剤や消毒剤の使用など、理由を添えて掲示することが義務化されたが、掲示を行っていないか不十分な施設も散見される。
体によいものというイメージばかりが先行し、実態や現実は明かされず、浴槽内の温泉の“本当の情報”が入浴者には知らされていないのが何よりも問題だ。

もっとも安全安心に湯を楽しむために著者が提案しているのは、日本温泉総合研究所の「還元系温泉」という指針だ。
源泉から湯船にまでどのような過程を経たにせよ、湯船に入っている湯が源泉と大きく性質を変えることなく提供されているのかどうかを示すことができる数値となる。
このような取り組みを行っているのが別府温泉。別府温泉にはそれぞれの湯に「温泉カルテ」が張り出されている。これは温泉の成分分析表を一般の人でもわかりやすく翻訳したものだ。
行った先に源泉かけ流しがないにしても、せめてこの「還元系温泉」として数値の高いところにお世話になりたいものだ。

巻末の特別付録に安全名湯68軒が紹介されていた。
わたしがこれまで入った温泉のベスト1は、山梨県奈良田温泉の白根館!なのだが、ここもちゃんとリストに入っていたのがうれしい。ここはもちろん、源泉100%かけ流し(季節によって熱交換による温度調整)。湯の色が緑がかったり、透明や白くにごったりと変化する。硫黄臭も強い日と弱い日がある。来るたびに姿を変える湯は生き物そのもので、自然の恩恵ならではと感じさせてくれる。

よく行く場所の近くだと、茨城県の五浦観光ホテル、梅ヶ島温泉ホテル梅薫楼なども掲載されていた。近々伺ってみたい。

この本で読んで思ったのは、数少ない温泉入浴の機会には、やっぱり“源泉100%かけ流し”がいい!ということ。1割しかないというのだから、探してリストアップしていこうと思う。


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