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『藤子・F・不二雄SF短編ドラマ』レビュー#3「アン子 大いに怒る」

藤子・F・不二雄生誕90周年を迎え、実写化された『藤子・F・不二雄SF短編』。そのシーズン2が、NHKBSにてスタートする。『ドラえもん』『パーマン』『キテレツ大百科』の生みの親が紡ぐ、SF(すこし・不思議)な物語とはーー。

本稿では、4月21日に放送された「アン子 大いに怒る」を紐解いていく。 

赤髪のボブヘアに青色の瞳。特徴的なチャーミングなビジュアルをした少女が本作の主人公、アン子(新井美羽)だ。どこか頼りない父(皆川猿時)と比べればしっかり者のように見えるが、パートタイムをパントマイムと間違えたり。少女らしい一面もある。

幼い頃に母親を亡くし、二人暮らしをするアン子たち。父の画家の仕事で生計を立てていたが、インフレのため家計は火の車だった。先のことを考えれば不安のひとつも覚えるはずなのに、アン子は前向き。そしてあろうことか、「家系は私に任せて、お父さんはいい仕事をしてほしいの」と、大人顔負けのセリフを吐く。このアン子の言葉は、父への温かな尊敬と深い愛情が滲み出ていた。

そんなアン子の身に、不可思議なことが起こるようになる。遠くにいる犬の鳴き声を察知したり、洗濯物がひとりでに取り込まれていたり。同級生に相談すると、それは超能力では?ーーと。実は、アン子の母の家計は由緒正しい魔女の名門だった。遺伝により、アン子にも超能力のような力が宿ったというわけだ。

しかし、この超能力は万能ではない。たとえば「ボールよ来い」と念じても、思い通りにはならない。かと思えば、父を詐欺に引っかけた人物に対し、大いなる怒りを覚えるとお金を取り戻せたり。コントロールがきかないことを示唆する場面が度々出てくる。

制御がきかない超能力が指しているものは何なのか。アン子のような少女が成長する過程でコントロールがままならなくなる時期といえば、「思春期」である。超能力とは、「思春期」の暗喩なのだろう。その証拠に、最初は子どもらしく言い間違えの多かったアン子も、終盤にはそれはなくなり、父と家を守る立派な女性に。

また、しっかり者のアン子に対し、父は「頼もしいような、恐ろしいような」と。多感な時期に父と娘の関係が変わることはよくあることである。それを案じての「恐ろしい」ともとれる。そして、超能力に目覚めたアン子に、父は魔法を使わないでほしいと釘を刺す。その言葉には、もう少し子どものままでいてほしいと願う、父の憂いがありありと詰まっていた。

『アン子 大いに怒る』は、父と娘の豊かな絆の物語であり、アン子の大人への第一歩を描いた物語でもあるのだ。

『藤子・F・不二雄SF短編ドラマ シーズン2』 「アン子 大いに怒る」
NHKBS 日曜よる9時45分〜
出演/新井美羽、皆川猿時、矢柴俊博、青木崇高、荻野目洋子
原作/藤子・F・不二雄
脚本・演出/山戸結希

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