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香港 #23

「実は、なんだか僕も君と以前に会った気がしてたんだ」
私は、彼の瞳を見つめたまま少し首を横に倒した。そして、二人の間に少しの沈黙が流れたあと、
「あっ、そうだあの時の・・・」
二人ほぼ同時に声が出て、自然に笑みがこぼれた。

彼は、私が香港に行って間もない頃、お寺で線香の火を激しく燃やして困っていた時に、消してくれた人だった。
あの日の彼は、眼鏡をかけていなくて、少し髭を生やしていて、ちょっと年上の様に感じたのをおぼろげに覚えている。それにしても先ほど彼が眼鏡を外すまで、同一人物と全く気づかなかった私は、かなりぼぉーっとしていたのだろうか?
逆に、会った気がしてたなんて言った彼は、少し調子がいい人なのだろうかと思う。なぜなら、あの日の私は、普段着姿にすっぴん眼鏡で、長い髪を後ろで一つに束ねていた。今彼が見ている、メイクばっちり、清楚めなお洋服に、黒目が大きく見えるコンタクト、ゆるふわ巻の私とはまるで別人で、誰だってそう簡単に気づくはずないと思ったからだ。


しかしそれはさておき、一度目は私が助けられ、二度目は私が助けた。この奇跡的な出会いに二人共テンションが上がり、益々会話は盛り上がったのだが、楽しい時間ほど過ぎる時は本当にあっという間で、私は時間がとても憎らしかった。

鮮やかなオレンジ色した夕日が暮れ始めると、私の中には、このままアンディと一緒に居たい。そんな気持ちさえ芽生えていたが、是非夕食を一緒にと勧めてくれる彼に対し、祖母が待っているからと丁重にお断りをした。すると、明日の午後に写真を撮らせて欲しいと突然お願いをされた。しかし、それも私は、恥ずかしすぎるし、洋服もないし、まして私なんかにモデルは務まらないと何度も辞退した。でも彼は、僕の目に狂いはないからと折れてくれなかった。そして、
「いつもの格好でいいから、明日ホテルのロビーに13時。必ず来て。あ、すっぴんでOKだよ」
と言った。 

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