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『死んだ山田と教室』の読書感想文:忘れられることの悲しみと人間関係の複雑さ

金子玲介氏の著作『死んだ山田と教室』は、不慮の事故で亡くなった男子高校生が「声」だけになってクラスメイトと過ごすという、なかなか考え付かないような設定に引き込まれる作品です。

序盤はどこかで聞いたような話だと感じつつ、物語が進むにつれて独特の魅力に引き込まれ、終盤にはとても好きな話になりました。
物語の中で描かれる感情や成長の変化、そして死後の影響は深く心に残るものでした。


あらすじ

夏休みが終わる直前、山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれたらしい。山田は勉強が出来て、面白くて、誰にでも優しい、二年E組の人気者だった。二学期初日の教室。悲しみに沈むクラスを元気づけようと担任の花浦が席替えを提案したタイミングで教室のスピーカーから山田の声が聞こえてきたーー。教室は騒然となった。山田の魂はどうやらスピーカーに憑依してしまったらしい。〈俺、二年E組が大好きなんで〉。声だけになった山田と、二Eの仲間たちの不思議な日々がはじまったーー。

Amazon商品ページより出典

感情と成長の描写

山田は死んでいるため何も変わりませんが、クラスメイトたちは成長していきます。
この変化が示すものは、クラスメイトがいつかは山田のことを忘れてしまうという現実です。
しかし山田はそれを理解しながらも、クラスメイトと話すことを楽しんでいました。
彼の未練は、単純に過去に縛られているだけではありません。
物語の終盤で明かされる隠された理由が、私にとって特に感動的な泣き所でした。

クラスメイトたちの成長が描かれる中で、山田の存在は変わらず…彼らとの対比が際立ってきます。

生徒たちが日常で見せるアホっぽい行動や友情の絆がリアルに描かれ、その中で山田の存在がどれだけ大きかったかを実感させられます。
山田の声を通じて彼らがどのように彼の死を受け入れ、前に進んでいくかが物語の核心に。

忘れられることの悲しみと和久津の努力

死んだ人を忘れない…これは難しいことです。
もちろん完全に忘れてしまうわけではありませんが、日常の記憶からは消えてしまいます。
この現実に立ち向かうクラスメイトの一人、和久津の姿が描かれる。
彼は山田を忘れまいと努力し続け、その姿には深い感動を覚えました。
和久津の試みは、忘却の悲しみを乗り越えるためのものであり、その過程で彼自身も成長していきます。
和久津の行動で人間関係の複雑さや、人が持つ記憶について深く考えさせられました。

物語は記憶の持つ力と、その限界についても触れています。
和久津が山田を忘れないように努力する姿は、読者にとっても共感できる部分が多く、亡き友人を忘れないための努力や、その中で見つける新たな意味や価値について考えさせられるでしょう。

笑いと涙のバランス

『死んだ山田と教室』は、笑いあり涙ありの楽しい話です。
物語全体にわたって、コミカルな場面と感動的な場面がバランスよく配置されており、読者を飽きさせません。
私自身は涙を流しませんでしたが、心に響く感動を味わうことができました。
特に、山田とクラスメイトたちのやり取りは微笑ましい場面が多く、読者に笑顔にします。
しかし彼らの成長や別れの場面では、深い感動と共に涙を誘うシーンが多いです。

笑いと涙のバランスが現実の高校生活を反映していて、読者はその中で自分自身の青春時代を思い出すことができるでしょう。
登場人物たちのリアルな会話や行動は物語に親しみを持たせ、彼らの成長を応援したくなる気持ちにさせられます。

高校の舞台設定

偏差値はずば抜けて高いが、やることは結構アホっぽい今どきの男子高校生たちが登場します。
男子校の実情を垣間見ることができる一冊です。
首都圏に住む人ならこの高校のモデルがどこであるかは容易に分かるかも。

一部の読者には共感しづらい部分もあるかもしれません。しかしその中には、現実の学校生活や友情の本質が詰まっていて、読者はそこから多くのことを学ぶことができるでしょう。

社会への問いかけ

この学校を卒業して系列大学へ進学した者たちの多くは大企業に勤め、国家公務員、政治家になる人もいるでしょう。
そう考えると日本の企業風土や政界の有り様も、この物語を同じような空気が漂っていると言えるかもしれません。
著者の金子玲介氏は、それを読者に問いかけているのかも。
山田とクラスメイトたちの関係を通じて、私たちの社会の中での友情や繋がりについても考えさせられます。

結論

『死んだ山田と教室』は、忘れられることの悲しみや死後もなお続く人間関係の複雑さを見事に描き出した作品です。
登場人物たちの成長や感情の変化に共感、そして心温まるエピソード。
死んだ人を忘れないことの難しさ、それを試みる人々の心情に思いを馳せることができました。
笑いと感動が詰まったこの物語は、読む人に深い印象を残します。
物語の中で描かれる感情の機微や人間関係の複雑さは、多くの読者に共感を呼び起こし、心に残る作品として記憶に残るでしょう。

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