月が綺麗ですね

私には同じく剣の道を志している友がおり、密かに彼女に恋心を抱いている。彼女より強くなったと確信した時に打ち明けようとは思っているのだが、ここに一つの大きな壁がある。彼女は途方もなく強いのである。そこにも惚れたので文句は言えないのだが、告白への道は非常に険しいものになってしまっている。
このままでは一生このままだと悩み、私は一つの結論に至る。一ヶ月彼女に勝つための最大限の努力をし、駄目ならその程度のものだと。
そう決めてからはこれまで以上の血の滲むような特訓に励み、これまでの敗戦から(とはいってもほとんど惨敗なのだが)から彼女の傾向を読んで対策を練った。
そうして一ヶ月後、私は彼女を河原へ呼び出した。彼女は「またか、懲りないな」とでも言いたげに気軽に応じてくれた。丁度満月の夜だった。

散歩にでも来たかのような気楽な表情で現れた彼女だが、いざ対峙すると私の文字通り人生を賭けた挑戦への決意を感じ取ったのか、顔を強張らせる。
受けに回ると一方的になると考えていた私は、勝負の合図と同時に攻撃に走る。そこは彼女が一枚上手で軽くいなされ、攻守は逆転する。防戦一方になるが、傾向を読んでいたお陰で今日は何とか対処できている。あとは一瞬の隙を突くだけだと思った瞬間、思いもよらぬ攻撃で私はもんどりうって倒れた…

「大丈夫?いつになくやばくなったから本気出しちゃった」
仰向けに倒れたままの私に声をかけてくる。視線を合わせず空を見ながら
「完敗だ。見たこともない綺麗な突きだった」
と呟くと、彼女は空に目をやり、顔を真っ赤にした。
その後のことはあまり覚えていないので話せないが、私たちは交際を始めることになった。あのフレーズが愛の告白になるとはその時は知らなかった。偉大な文豪のせいで恥ずかしいタイミングでの告白になってしまったものだ。