モクズガニのおっさん

久しぶりに近所でナマズ釣りをしたけど釣れないので帰ろうとしたらおれのバイクの前に厳めしい顔のお爺さんが立っていて「あんた何しよんや」と言いながらジロジロおれのカバンとか見てきたので話をしたら、どうやら爺さんはカニ取り名人でテレビか何かで取材されて放送された翌日からカゴの錠をピッキングされてカニが盗まれるようになり、おれのバイクを見てなんとなく絶対に犯人のバイクだと確信したそうで、いくら違うと説明しても顔がずっと怒ってるので話を少しそらそうとして「モズクガニって味噌汁に入れたら美味いですよね」と言ってみたら「そんなん知らんわい、ワシらはもっぱら塩茹でや。ほいで身をほぐして醤油を少し垂らす。それをホカホカご飯に乗せたらそれはもう最高や」と言いながらも顔は不機嫌そうなままやったが、『ホカホカご飯』のとこだけ一瞬、笑顔になってた。怒りながらホカホカご飯と言うは難しいのだと知った。
テキトーに挨拶して帰ろうとしたら、バイクに置いてたヘルメットとグローブとキーが無くなっていて、急にしおらしくなった爺さんがオドオドしながら言うには、絶対にカニ泥棒のバイクだと思ったので畑に捨てたと。ヘルメットとグローブはすぐに見つかったがキーは見つかるまで2人で20分くらいは探した。
オレ達はカニ泥棒を絶対に許さない。