ぱんのみみ

「実は、人外に恋してるんだ。」
そう、知り合い以上知人未満の彼にそう告げられた。
焦った私は「そうなんだ」としか言えなかった。
でも、嬉しかった。私だけじゃないと思えた。何を隠そう私も人外に惚れていた時期があった。
初恋は水族館のマスコットキャラクターだし。
それでも私の好きと彼の言う好きのベクトルは違うんだろうなと何故か分かった。
「引かないの?」
「引いて欲しいの?」
「そういう事でもないけど」
「ならいいじゃん」
どうしても腑に落ちないと言いたげだった気がする。
彼と連絡が付かなくなるほんの数日前の話。
五年後、疎遠気味の母から電話があった。
「あんた昔仲が良かったあの子」
「誰?」
「~~~~~~くん」
「え?」

聴こえなかった。だから聞き返した。それでもやっぱり聞こえなかったけど唯一聞こえたのは
「ま」だった。
「ああ、あの子。元気してる?」
「五年前に亡くなって、あんたに遺書を書いてたみたいだから送る」
「ああ、そうなんだ。うん、住所言うね。東町の~」
何故かそこまで衝撃は無かった。何故かは分からない。
私は心のどこかで彼は長生きをしないと、どこかで思っていたのかもしれない。
儚くて脆い彼を綺麗だと思ってしまったせいだと言い聞かせた。
程なくして手紙が送られてきた。懐かしい母の字で私の名前が書いてあった。
一筆ただ「送ります」の一言だけだった。
ソファに座り手紙を見ると私が好きだと一度だけ彼に教えた牡丹の柄があしらわれた
とても可愛い封筒に不器用な彼の字で私の愛称で書かれた
みみへ
数日は手紙を開ける事を悠長した。
手紙を開けてしまえば彼とのつながりが終わる気がした。でも何が書いてあるのか
気になったのも正直な所ではあった。
私はついに手紙が届いてから半年後に開封してしまった。

みみへ
これを読んでるって事は僕は死んだんだね。
うわー!一度は書きたいせりふだね!まあそんな事はいいんだけど。
実は死のうと思う。仕事がキツいとかそんなんじゃなくて、好きな人に会いたいんだ。
何を隠そう!幽霊に恋をしたんだ!
真実の愛を僕は見つけた!その為に僕は命を彼女に捧げる!
命が惜しいとかは全然なかった!ただいつも彼女に話かけても反応がない時の方が多いけどいいんだ。
彼女とこれで一緒に永遠の時を過ごせる!のでみみとはここまで!こんな僕と仲良くしてくれてありがとう。
んーもう書くことないから自殺方法でも書く?笑
書かないけど。
でも、みみは数少ない僕の友達の一人だよ。幸せになってほしい。
僕みたいに自殺なんて無縁で生涯を全うしてくれること信じてるよ。
あとたまにでいいから、顔を見せに三十五丁目の交差点のタバコ屋の隅に来て。
僕はそこで地縛霊になって彼女といるから。
そうだな、お供え物は、出来たらハンバーガーとポテトを頼むよ!
最後になったけど、君は、君だけは僕の死を悲しまないで幸せに生きていて。それと僕が最後に願う地縛霊の呪いだよ。
みみのいちばんの友達の僕より。

「はは、なんだこれ、惚気るんじゃないよ。三十五丁目って地味に遠いんだよ」
不思議と涙は出なかった。



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