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ブータンの尾崎豊【B-POP界に影響を与えた男】

こんにちは、strigopsです。前回の記事「ブータンポップスを聴く【入門3曲】」に引き続き、今回はブータンポップ(B-POP)界に大きな影響を与え、若くしてこの世を去ったブータンの伝説的シンガーソングライターを紹介していきます。

彼の名はSonam Tobdhen Gyeltshen。私は勝手に彼のことを「ブータンの尾崎豊」と呼んでいます。2013年6月27日、当時22歳で大学生だった彼は、若くして自らの命を絶ちました。彼の歌は、数え切れないほどの音楽が溢れるようになった今でも、世代、性別、言語の壁を超えて愛され、ブータンで歌い続けられています。そんな彼の代表曲を2曲と彼へのトリビュート・ソング(+α)だけ、今日は皆さんに聞いていただければと思います。

1. Choe Dangpa - Sonam Tobdhen Gyeltshen

2013年5月31日。彼が亡くなる一ヶ月前にM-Studioよりリリースされた曲。心臓が拍動しているようなサウンドとともに語りかけるようなイントロで始まるこの「Choe Dangpa」は、「初めてあなたを見た時、その笑顔はまるで輝く星のようだった。月明かりに負けない輝きを放つその星に、私の心は奪われた」という歌詞からも分かるように典型的なラブソングです。もうすぐ10年が経とうとしている今でも色褪せない名ラブソングとして、ブータン国内だけでなくチベット文化圏で広く聞かれています。

その証拠に2018年には、現在ネパールを拠点に活躍するチベット系のシンガーソングライター、Sonam Topdenによってカバーされ、ブータンでも話題になりました。名前が同じというのもなんだか縁がありそうですね。

Choe Dangpa - Sonam Topden

しかし、深く聞いてみると果たしてこれは本当に単なるラブソングなのだろうかと思う時があります。それはこの曲が、彼が命を経つわずか前に制作されたということだけでなく、イントロの語りかけの部分が私にはひっかかるからです。

「僕と君がどうやって出逢ったか、覚えてる?

 君が覚えていることぐらい知ってるけど、もう一度聞かせてくれないかな?

 その代わり、僕は君にこの曲を歌うよ」

彼は一体どういう気持ちでこのイントロを書いたのでしょうか。そして、この曲の「Choe=あなた、君」は一体誰なのでしょうか。彼が「君」に歌ってくれたこの曲をこうして今私たちが聞けることはとても幸せなことですね。

2. Tam Tsi Sum - Sonam Tobdhen Gyeltshen ft. Kinley Wangchuk

前回紹介したMisty TerraceのボーカルTandin Wangchukはこの曲について「世界にはたくさんの曲があるが、この曲はリリースから数十年経っても人気がある一流の作品だ」と言っています。

2021年3月。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響をブータンも受けていた時に、この曲は「Tam Tshisum 2」という形で再び誕生し、ロックダウン下にあったブータンの人々を勇気づけました。

Tam Tshisum 2 - KLEE, TW, DK, Sonam Rigdhen Gyeltshen, Namgay C & K3Nbeatz.

コメント欄には「トビー兄さん(Sonam Tobdhen Gyeltshenの愛称)はいつも私たちの心にいる」といった言葉が見られ、若い世代にも聞き継がれていることがよく分かります。

ちなみに、「Tam Tsi Sum」の方のラップパートを担当しているKinley Wangchukもレジェンド的な存在でして、ブータンで初めてオリジナルのラップ曲を作っただけでなく、ブータン映画に初めて使われたラップの作詞・作曲を担当、アメリカの人気リアリティ番組「America‘s Got Talent」に初めて登場したブータン人でもある凄いラッパーです。それゆえに、「Tam Tsi Sum」は今日まで一番聞かれてきたブータニーズ・ラップでもあるのです。レジェンド級の2人が歌うこの曲は、まさにレジェンド曲ですね。

3. Like a Brie - The Baby Boomers 

最後にもう2曲。この曲はSonam Tobdhen Gyeltshenと交流があった音楽仲間のThe Baby Boomersが、彼の死後に制作したトリビュート・ソングです。曲名にあるBrieは「ブリーチーズ、白かびチーズの一種」ですが、具体的にそれがなにを指しているのかは未だに分かりません。ですが曲調自体は落ち着いたテンポで、「大丈夫、心配しないでいいよ」や「あなたのために曲を書いているよ」といった歌詞にもあるように、大切な友人に送る一曲だということがよく分かるやさしい曲です。

The Baby Boomersはビートルズからインスピレーションを受けているバンドであり、演奏スタイルも非常によく似ています。「Can’t Buy Me Love」のカバーもしており、こちらはYoutubeで見られます。「お金じゃ愛は買えないよ」ってのは、国民の幸福を重視するブータンの開発理念と少しマッチしますね。

Can’t Buy Me Love (cover) - The Baby Boomers

楽しそうに歌う彼らの姿を見るだけでも楽しいですが、ビートルズの曲とブータンの街並みがここまで合うとは思いもしなかったです。アビイロードの有名なあのジャケ写のブータン版パロディも出てきます(ちなみにこの場面は、信号機のないブータンで有名な手信号のある交差点、ノルジン・ラムの横断歩道です)。

さて、ブータンの尾崎豊を紹介していたらなんとブータンのビートルズも紹介してしまいました。前回はブータンのYUIを紹介してましたね。このシリーズはもう少し続けられそうです。

今回紹介したSonam Tobdhen GyeltshenはThe Baby Boomersに留まらず、現在活躍している若手アーティスト達にも大きな影響を与えています。次回はより最近のB-POPシーンから期待の若手たちをご紹介できればと思います。それではまた!

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