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生きた心地

前回の続きです。前回はこちらから。

2日後の初出勤まで、この大きな黒い秘密を自分一人で抱えられず、Kやそれ以外のネット仲間に話しまくっては気を紛らわせた。Kは「そんな心配することないよ〜ウザイ客とかいるけど大丈夫だよ〜」みたいに言ってたと思う。

そして来てしまった初出勤。金曜日の出勤だった。今でもよく覚えている。高校とは逆方向の電車の中で、私の目の前には今から登校する女子高生達が数人いた。「担任さ〜」「わかる〜」と愚痴を吐きながらも学校へ向かう彼女たちを、強くそれは強く羨ましいと思った。自分の履いているスカートを両手でギュッと握り潰し、悔しさと羨ましさと恨めしさと、ドロドロした感情でいっぱいだった。

目的地の最寄駅に着いて女子高生の象徴である制服を脱ぎ、ワンピースに着替える。面接の時よりも重い足取りで店に向かった。景色は全部真っ黒だった。

「かのんちゃん45分お願いしま〜す」と部屋の中についている内線で言われ、階段を降りてお客さんを迎えに行く。「君初めてなんだってねえ〜?」と喜ぶハゲたオジサンに苦笑いで応えた。

その日は3、4人接客したと思う。そこらへんは記憶は曖昧だ。だけど下腹部の痛みと、それ以上の心の痛みは覚えている。慣れないボディーソープとローションが絡み合う匂い。グリンスで洗ったアソコの味。小さな部屋の中で腕を噛みながら泣いた。

退勤時間になったので精算をし、その場でお給料をもらって帰った。3万弱のお給料。すごい。私がファミレスで頑張って3日以上も働かないともらえないお給料だ。心と下腹部のズキズキは治っていなかったが、もらった万札を見て素直にこの仕事ってすごいなと思った。

電車に乗って帰る。駅でまた制服に着替えた。他の女子高生たちも帰るのだろう、同じ車両で携帯をいじっている。私は店に教えられた写メ日記とやらを携帯で必死に書いていた。「またきてくださいね♡待ってます〜♡」……。

家に帰って、風呂に入ってる時に人生で初めて自ら腕を切った。リストカットというものだ。もう生きた心地がしなかった。左腕から流れる赤い血は、「私は今生きている、ここにいる」と思わせてくれた。お湯が真っ赤になるまで切り、気がつけば二の腕の方まで傷をつけていた。ハッとした時にはもう風呂場全体が赤くなっていて、「〇〇ー!早くでなさい!」と親に居間から声をかけられ急いでお湯を抜き血がついた浴室を掃除して風呂を出た。

ジクジクと痛む左腕。翌朝寝巻きに傷口がくっついていて、ベリベリ!と剥がすとものすごく痛かった。

それから数ヶ月後に、私の人生をめちゃくちゃにしたあの薬と出会うことになる。

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