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12年越しのカナダ・ケロウナ

私が初めて海外に行ったのは、高校3年生の夏だった。
高校の研修旅行で、カナダのケロウナという街で2週間と少しをホームステイして過ごす。
関空までの高速バスも友達と一緒だったからか、あまり緊張はしていなかった。さっき食べたおにぎりのご飯粒を、ジーンズいっぱいつけていたほどに。緊張で少し前までトイレにこもっていたという友達が苦笑いで教えてくれた。ジーンズを見てみると、自分でもびっくりするほどのご飯粒がついていた。

バンクーバーの空港で、スーツケースを開けた。と、私は小さく叫んだ。USJで買ったエルモのぬいぐるみがいたからだ。後で聞くと、当時まだ小学生だった弟がこっそり私のスーツケースに入れていたらしい。私が旅立ってから、家で「エルモどうしてるかな」と言う弟を、母親は何のことを言っているんだろうと思っていたそうだ。私はこのエルモと空を飛んでいたことになる。
ケロウナは、バンクーバーから飛行機で1時間ほどの場所にある。日本でいうと、大阪から東京まで行かないほどの距離だろうか。でも、バンクーバーからはバスで何時間もかけて移動した。

現地に着いて、友達と離れると急に不安になった。私のホストファミリーはおじいちゃん、おばあちゃんだった。緊張と食文化の違いで、ごはんもあまり食べられなかった。ゆっくり休んでと言われた次の日の朝早く、ドアを思いっきりノックする音で目が覚めた。どうやらどこかへ出かけるらしい。焦って、もうこのままでいいやと寝る時に着ていた長袖Tシャツで出かけようと思ってたら、暑いからそんな服ではだめだと半袖Tシャツを渡された。こんな見知らぬ土地でどうせ知り合いには会わないだろうと、言われるがまま仕方なくその半袖を着た。近くのマーケットへ連れて行かれると、そこには他のクラスメイトたちが大勢いた。今考えると、近くにマーケットが開催されているとなれば、多くのホストファミリーが自分たちの家に来た留学生を連れてくるのは至極当然のことだった。普段、制服姿しか見ないクラスメイトたちが、オシャレな服を着て、また別の友達は、お揃いでかわいいアクセサリーを買っていた。うらやましかったけど、おばあちゃんのTシャツを着ている自分が居心地悪く、私は何も買わずに帰った。

なんだかんだ、異国の地での生活にも少しずつ慣れていった。ホストファミリーは孫のように私を過保護なほど可愛がってくれた。ショッピングモールへ行けば、なんでも買ってあげると言われたりしたけれど、当時は大人になりたくて、欲しいものは自分で買った。

その12年後、私は再びカナダを訪れることになる。
都会とはいえなかったケロウナは、最近街おこしに励んでいるようだ。街中には、観光案内所やちょっとお洒落な感じの熊のモニュメントが新たにできていた。それでも知っている景色はちゃんと残っていて、すごく懐かしい気がした。私は心の中で呟いた。覚えてる、ちゃんと覚えてる。
あの頃は車でどこかへ連れてもらうしかなかったのが、自分の足で近所を歩き、遠く感じていた場所が意外と家の近くにあることに気付く。今はこうして一人でも街中を散歩し、店があれば一人で入ることができる。なんだか少し成長した気分だった。今回はただの旅行。緊張など微塵もなく、マーケットへ行けば、片っ端から試食をした。

ホストマザーは92歳になっていた。私だって十分大人になったけれど、ここへ来ると自分が甘やかされた子どものように感じる。家の中のほとんどがそのままだった。前と同じベッドに寝て、同じバスルームを使った。前に来た時は、犬と猫が1匹ずついた。今も犬と猫が1匹ずついる。でも、2匹とも別の子になっていた。次に会う時、ホストマザーは何歳になっているだろう。

一度行ったところには行きたくない、というわけではないけれど、限りある人生の中で、同じ場所をもう一度訪れる時間があったら、できればまだ行ったことのない場所を見てみたい。そんな私でも、またケロウナに行きたいと思うのは、そこに会いたい人がいるからなのだろう。


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