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BaseBall (Bear)とFootball(前編・ライブ)

 およそ3年前に、Base Ball Bear(以下ベボベ)のライブで号泣した話を記事にして公開した。手前味噌ながら、読み返してみると当時の僕のベボベに対する熱量をありありと感じることができる。

 それから月日が経ち、僕は先日(2021年12月18日)、福岡市内のライブハウスにて行われたベボベのライブに参加してきた。様々な事情があってかなり間隔が空いてしまったが、久々に生のベボベを見てきたのである。

 結論から言うと、非常に楽しく、また心動かされるライブだった。しかし、ここに至るまで、またその後にも僕の心境にはいくつもの動きがあった。今回は、僕のここ3年ほどのベボベに対する思いの変遷や、音楽、もっと言えば好きなもの全般との付き合い方についての考えを書いていきたいと思う。お付き合い頂けるとありがたい。



 僕は、物事を受け取る際、何にでも自分を重ねてしまう節がある。その癖は本や映画、またはニュースの登場人物などに顕著になる。曲の歌詞も例外ではなく、おそらく一般的な方よりも感情移入が強い。多少強引にでも、己の思い出や経験にこじつけて解釈しがちなのだ。

 そこへいくと、Base Ball Bear の織り成す世界観は、当時高校1年生だった僕を魅了してやまないものだった。青春の輝きを持ちつつ、どこか陰も感じる、そんな詞の数々が音に乗って耳に流れ込んでくるのはとても心地よかった。高校までの往復2時間の通学のお供はほとんど彼らのアルバムで、大学生になってもベボベは僕にとって特別なバンドであり続けた。


 しかし、バンドは生き物、という言葉があるように、同じアーティストでも作風は変わっていく。ベボベも例外ではなかった。

 2016年にギターの脱退によって3人体制となった彼らは、3人での表現に試行錯誤を繰り返した。元々変化を恐れないバンドだったのもあり、作風が少しずつ変わっていった。うまく言葉にするのは難しいが、僕には「ベボベらしさ」は残しつつ、音も詞も歌い方も別物になったように見えた。

 2017年リリースの『光源』も、2020年リリースの『C3』も、その時のベボベの色が如実に表れている良いアルバムだ。特に後者は、3人でやっていくひとつの形を発見した、そんなポジティブな印象を僕に与えた。

 その頃──『C3』がリリースされた時期の僕はというと、大学中退直前で心身ともに不安定な生活を送っていた。先の見えない暮らしを送る僕と、前向きに進んでいくベボベ。そこにどことなく隔たりを感じてしまったのだ。実家に戻ってフリーター生活をする中で、僕はあまり進んでベボベを聴かなくなっていった。聴くとしても『十七歳』や『(WHAT IS THE)LOVE & POP?』、『二十九歳』など、昔のアルバムばかりで、3人体制になってからのアルバムを聴いた回数は本当に少ない。


 時は流れ、今冬にアルバム『DIARY KEY』がリリースされた。僕は、このアルバムが響かなかったらベボベを追いかけるのをやめよう、とまで考えていた。ご時世でライブも中止になったり配信限定になり、直接的な距離も離れていたことも要因かもしれない。先行配信された曲も聴かずに発売日を迎えた。

 最後の曲まで聴き終わった直後に、僕はアルバムツアーのチケットを確保した。詳しい感想はライブの流れとともに記すのでいまは省略するが、『DIARY KEY』を生み出したのは、僕の好きなBase Ball Bearそのものだった。絶対に生で聴きたい、そう思うアルバムだったのだ。


 さて、ライブ当日である。久々というのもあり、緊張と興奮で平静を保つのに必死だった。整理番号は後ろの方だったのだが、左側中ほどの場所を確保することが出来た。

 いつもの出囃子、XTCの『Making Plans for Nigel』が流れると3人が登場する。僕たちは声を出してはいけないので、拍手で応える。

 「音を身体で浴びる」という表現がピッタリ当てはまるような、ギター・ドラム・ベースの音色で、至福の2時間は始まった。

急に雨が降ると知ってたら 白い靴なんて履かなかった 散々だった日
歌う自転車 通り過ぎるTomorrow never knows
誰かも似た気持ち抱いて

見つけて 隠した鍵を いつか君に渡せたらいいな
見つけて 戸惑った心も 自分だけのものにするから
きっと最後は

『DIARY KEY』

にぎやかなパーティーは隅っこにいようよ
失礼はないように でも早く出ようよ
夜風に乗せる話はいくらでも
少し歩いていこう friend

『SYUUU』

 僕の目の前には、のびのびと演奏する3人の姿があった。小出祐介(こいちゃん)の歌声もギターも、関根史織(関根嬢)のベースも、堀之内大介(堀くん)のドラムも、ツアーを重ねるごとに磨き上げてきたことがよく分かる。


 「こんばんは、Base Ball Bearです」

  聞くたびに幸せになる言葉である。


 その後も、アルバムの曲を中心としたセットリストで公演は進む。ベボベの曲は、単体でも素敵なものが多いが、アルバムでつながりを持つと一気に伸びるケースが多々ある。その文脈、ストーリーを考えるのもまたベボベを聴く楽しみだ。

 A Happy new year! あなたに 幸せたくさんありますように
 言えないかなしみなら 少しずつ愛に変わりますように

『A HAPPY NEW YEAR』

 中でも僕が楽しみにしていた『A HAPPY NEW YEAR』は、久々の関根嬢ボーカルの曲だ。彼女もまた魅力的な声の持ち主であり、この曲をアルバムで初めて聴いた時には美しいサビから始まって感動したものだ。


 ベボベのライブでは大抵の場合MCが2回(アンコールを除く)ある。こいちゃん曰く話す内容はその場で決めているらしいのですべてがこのパターンとは言えないが、1回はその土地の思い出などを話しつつ和やかに3人で会話、もう1回はこいちゃんが少し真剣なトーンでアルバムやツアーへの思いなどを語る、ということが多い気がする。

 今回のMCでこいちゃんが語ったのは、自分たちの表現がどういったもので、どうしてそれをやり続けているのか、という話だった。以下、僕が当日に帰りの電車で記したメモをもとに書き起こしていく。


 例えば、「地下のプールに陽の光が差し込んでいる」という美しさがあるとしますよね。それはもう言葉に表せないんですよ。そのまま「プールに陽が差してる」と言うのもいいですけど、僕が感じてるものってそんな単純な現象じゃなくて、もっと深いもので。

 昔は、「曖昧」という言葉を歌詞に使いすぎて怒られたりもしました。当時は若かったので、「うるせー!曖昧なんじゃい!」と突っぱねたりもしましたが(笑)

 でも、今もその感じでずっとやってるんですよね。

 僕が思っていること、感じてることってはっきりとは言い表せなくて。だからツアーを回って演奏するたびに自分でも歌詞への新しい発見があったりします。

 ファンの方々もそうだと思うんですよ。僕らのそういうところを、表現活動を応援して下さってると思うんです。
 
 自分たちはバンドマン(ロックマンのイントネーション)なんで(笑)、その表現に音楽の力でブーストをかけて、お届けしたいんです。探したいんです。
 
 100年先も。(笑)

 3年前の記事にも書いたが、僕はこいちゃんの紡ぐ詞の美しさが好きだ。その機微が好きだ。爽やかさの中にどこか後ろ暗さのある表現が好きだ。それらは、こいちゃんの抱く感情、出したい想いを練りに練って、磨き上げられた詞が、これまた心地良い音楽に乗って世に出てくるのだ。それを、こいちゃん本人の口から出た言葉によって再確認した。

 さよならは言わなくていいよ
 失くしたものにも どっかでまた会えるのさ
 かなしみも連れていくよ
 それでいいんだ 終わらない予感が響いているよ

『海へ』

 生きている 音がする やんでも また再生しよう
 生かされる 音がする 何度も 心の手を取ろう
 忘れ物だけ気を付けて

『ドライブ』

 
 

 3年前に記事を書いたときと違って、僕は泣かなかった。アルバムツアー故に意外性のあるセットリストでなかったこともあるが、それ以上に、僕の心には確かに充足感がもたらされていた。劇的なものでなくても、生活の、生存の芯に染みわたるような、そんなアルバム、そしてライブだった。『DIARY KEY』は「コンセプトアルバム」とされているが、明確なコンセプトは明かされていない。こいちゃん曰く「一番言いたいことを言っていないアルバム」になっている。ベボベを多少なりとも知っていて、このアルバムを歌詞を読みながら聴けば何となくテーマは浮かび上がってくるが、それを僕が書くのは無粋である。

  帰りの電車で改めてアルバムを聴きながら、僕はこのバンドから生涯離れられないのかもしれないな、などと思った。僕が人生を前向きに進めていく上で、常にどこかに彼らの音楽が、詞があるだろう。『DIARY KEY』は、僕に改めてそう思わせる作品だった。



 ……というのが、ライブを終えての僕の感想だった。さて、それから2ヶ月ほどが経過した僕はいまどんな考えをしていて、何を皆様に言いたいのか。それについてここから書くと文量が大変なことになる。そうすると、僕のnoteを初めて開いた方がスクロール量にゲンナリしてしまい、すぐにブラウザバックしてしまう恐れがあるので、同時に公開する後編でお見せしたい。

 「Footballの要素わい!」とツッコみたくなるのも無理はないが、後編ではそちらもしっかりと書いていくので、もう少しお付き合い頂けると幸いだ。



 後編はこちらから


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