地獄だった22歳から

まだ仕事前の日中だったと思う、私は当時夜職だったからまだ寝てる時間で奴からの電話で起きた
私がお金を”戻して”欲しいって言ってから数日後だったと思う
「姫さ、今住民税とか所得税とか払ってる?」
「…(急に何?)わからない、夜職だから親が免税とかしてた気がする、所得税も店からちゃんと10%引かれてるよ、何で?」
「株のプラス分を振り込むためには、免税とかしてて株の収入があるって税務署にバレたら没収になるよ、プラスで罰金も」
「…じゃ親とか店に確認してみるよ」
「今聞くと後々面倒なことになるかも知れないから、やめたほうがいい」
「なんで。」
「もし他の人にばれたら姫が住民税も払わないで株やって店が迷惑を被った時、店はきっと姫を訴えるよ」
意味がわわらない会話が続いてた、相手の意図を読もうと必死だった
「なんでそうなるの?」
「もし姫が働いてないことになってて免税してたってことになると、まず税務署が株の収入の入った口座を調べた時に免税してるってなって、姫の現状を確認して、夜職って話したとして夜職の給与明細を見せたとき、そんな手書きの明細じゃ信用できないから店の帳簿見せろってなる」
「うん…」
まだよく合点がいかない、何だかやばそうなことには思えてきた
「そうなると税務署は店の帳簿を調べるようになって、必ず夜の店は帳簿ごまかしてることがある、そうなったら、店も細かく調べられて摘発される。それで姫のことを税務署が調べたいからこうなったと店が知れば店は姫に損害賠償してくる可能性もある。そうなると姫のお金ではきっと賄えないくらいの額、億単位だろうから実家を抵当に入れろ、とか、そういうことになる」
「え…」
「そうなったらそれこそやばいことになるから、今のうちにもみ消す方法はあるけどどうする」
胸がバクバクしてきた…そこまで大事になるとは思えない、だけど自信がない。調べようもないからどうすればいいのかわからない。混乱ばかりしていた。
「…方法ってなんなの」
「俺が姫の株を任せていた知り合いいるでしょ。そいつに税務署の知り合いがいて、今ならもみ消せる、裏で揉み消すわけだから安くないけど」
「…それっていくらなの」
「今、残ってる貯金いくらある?」
「…50万」
「そしたら、俺が残りは負担する、動くなら今日中じゃないといけないからね、今日中に90万税務署の奴に渡さないといけないから。だから50万持ってくれば今から俺も動くからどうする」
頭が追いつかない、だけど自分のせいでこうなってて奴にも迷惑をかけそうってことは感じた
「…でも、まだ私の状況が免税してるのか、所得税も店がちゃんと払ってるか、わかってないしまずは聞いてみるよ」
「そんなことしたら店も親も勘繰って何かあったと思うだろう。そうなると今揉み消そうとしてることもできなくなるよ」
「…」
「でもそんな大金払って結局ちゃんとしてたってなったら意味ないし、私の預けていたお金もその揉み消すお金でパーだし、最初に聞いておいたほうがいいでしょ」
「…じゃあ、自分がそれでいいならいんじゃない。俺は今払う50万か、税務署にバレて財産没収されて、お店まで調べが入って姫に損害賠償がいくかだったら今50万払って収めたほうが無難だと思うけどね」
混乱しきっていた。ただ、今50万を払うほうがいい気もしてきた。今日も仕事だし、今決めないと時間もない。
「今上野にいるから、払うなら今から来て」
「…今からいくね」
そう伝えて急いで準備をした…奴は横浜に住んでいて都内にもよく出入りしていた、私は仙台に住んでいたので行くとなると新幹線の一択だった。

急ぎ気味で準備を始めて駅へ向かった。
今日50万を渡せばこの不安からも解消される、と思うと自然と早足になった
駅へ着いたら早速ATMに向かい現金で50万、引き出して大切にバッグにしまう。
実家にも、店にも迷惑かけられない、ましてや実家が抵当にはいるなんて、お父さん、お母さん、おじいちゃんの協力もあって必死で建てた家だってずっとわかってたから。家を出てるお兄ちゃんも節目節目で実家に帰ってきて私も帰省のとき会うのが楽しみだった。お姉ちゃんはまだ実家住まいだったし、従姉妹なんかもたまにみんなで集まって団欒できる場だった。
夜職について生活にも余裕ができてきて、これから親孝行をしていける、と思っていたときだったから。いろんな思いがありすぎて、ここでは書ききれないと思うけど、その気持ちだけはずっと忘れていない。私は自分だけで解決するのが一番と思った。そう思うと背筋が張った。
だから、今日で何とか収まるなら仕方ないし、兄さんにも動いてもらって申し訳ないしありがたい。何の疑問もなくそう思っていた。
昔、奴のことは「兄さん」と呼んでいた。

早々と準備を済ませて新幹線に乗る、ミリヤの当時のアルバムを聞いてた記憶がある。あとアデルのSkyfall。当時公開中の007のテーマソングだった。これを聞くと身が引き締まる思いだったのを覚えてる

上野駅に着いてすぐに兄さんに連絡して、上野駅前のマルイ前の交差点で落ち合った。
「よく間に合ったね」
そんなようなことを言われた気がする。
「うん、今日で解決できるならと思って、これお金」
「ちゃんと今日で解決するから、俺も今から名古屋行って株やってもらってる知り合いに会って渡してくるよ」
「ありがとうございます、お願いします」
普段はタメ口の私に、奴は
「そんなかしこまらなくていいから、とにかく今日で収めてくるから安心して」
そう言われると、どっと安心できたのを覚えている。というか、こんな緊迫した状況に陥ったことがないから全て初めての感覚だった。一時的に追い詰められた気持ちがパッと緩まるような感触。
今日で何とかなるんだ、本当によかった。あとは来年入る株の収入を待つだけだ
その時は、2012年12月初旬だった。年末に差し掛かって忙しなくなりそうな時期。



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