私だけの特捜最前線→77「少女・ある愛を探す旅!~橘刑事の執念の捜査で女性のルーツを見つけ出した!」
※このコラムはネタバレがあります。
今回は番組後期に放送された作品から「少女・ある愛を探す旅!」を紹介します。戸籍のない女性が登場するドラマで、橘刑事(本郷功次郎)が「戸籍の行方」を探って奔走するというものです。
なお、タイトルでは「少女」となっていますが、登場するのが20歳という設定のため、コラムでは女性とさせていただきます。さすがに少女っていう感じでもありませんので(苦笑)
戸籍のない女性と出会った橘刑事
ビルから飛び降り自殺を図ろうとした女性(原陽子)を保護した橘刑事は、彼女が無戸籍だと知ります。女性はシングルマザーに育てられましたが、母親は女性が中学生の時に男と蒸発してしまったのです。
行方不明の母親は、強盗殺人容疑で指名手配されていたことが判明します。押し入ったスーパーで警官たちと銃撃戦となり、母親が持ち去った拳銃で警官が射殺されたというのです。
母親と蒸発した男が主犯で、すでに逮捕されていました。男は「母親は拳銃を撃っていない」と言い張ります。ただ、警察への不信感があるためか、母親の居所については頑として口を割りません。
事件を再度検証した桜井刑事(藤岡弘、)から、男の言い分通りである可能性が浮上します。母親が隠した拳銃から4発の弾が残っていれば、母親は拳銃を撃っておらず、無実が証明されるのです。
男の自白から、母親の居所が分かりますが、1年前に母親は亡くなっていたのです。それも「警察の方が来たら、お探しのものは実家の古井戸の中にあると伝えて」という言葉を残して・・・
橘刑事は、女性の協力を得ながら、母親の人生とルーツを探し求めていきます。そこには、事件の真相を突き止めるということ以上に、女性に「真の母親の姿を知ってもらいたい」という強い思いが込められていました。
橘はなぜ、戸籍探しにこだわったのか
このドラマは、長坂秀佳氏が脚本を書いており、謎解きを非常に多く盛り込んでいるのが特徴です。それは同時に、地道で丹念な捜査を身上とする橘刑事の真骨頂が発揮できる展開でもあったのです。
特命課が強盗殺人事件のことを知らなかった段階で、橘は「女性の戸籍探しを自分にやらせてほしい」と申し出ます。「殺しなら力を入れるが、小娘の自殺は放っておく・・・それは、平等ではない」との理屈です。
これは私の推測ですが、橘刑事は女性の姿に「自分の子供」と同じ思いを抱いたのではないでしょうか。橘には息子しかいませんが、世代はちょうど同じ。苦労して生きてきた女性を見放せなかったのでしょう。
母親は、男と蒸発してしまったことから、周囲の人に「ふしだらな女」だと見られていました。女性もそんな母親を軽蔑し、挙句の果てには「戸籍なんかいらない」と突っぱねていたのです。
捜査が進むにつれ、母親も実は私生児で戸籍がなかったことが分かります。そして、自分も戸籍のない娘を生んでしまいます。しかも父親である男は莫大な借金を母親に押し付けて行方をくらましていたのです。
母親を知る古い知人たちは「借金を返すために必死に働いた」「男嫌いで通っていた」と語ります。女性は、母親の本当の姿を知ることで自分と向き合い、橘に「戸籍を探し、母の無実を証明する」ことを誓うのです。
感動のラストシーンへの怒涛の展開
長坂脚本の面白さは、謎解きのヒントが得られたと思ったら、それが途絶えてしまい、絶望感の中で次のヒント探しに奔走していく、というドラマの繰り返しにあります。
とくにラストへと向かうシーンでは、女性が口走った方言をきっかけに、母親が拳銃を捨てたと思われる実家の古井戸を探し当てるまでのスピーディーな展開は、まさに見事の一言に尽きます。
そして見つかった拳銃を神代課長(二谷英明)が手に取り、弾が4発残っていたことが確認できた時・・・母親の無実が証明され、それは同時に女性が自分のルーツを見つけ出した瞬間でもあったのです。
なお、このドラマは再放送が見送られた作品だったといいます。おそらく昭和の時代には「無戸籍」をテーマにすることがはばかられたのではと思われます。今見れば、とくに問題はなさそうに思えますが。
この回を含む前後4回には、的場刑事役として渡辺裕之さんが出演しています。ドラマでは、橘刑事と行動を共にしながら、捜査の在り方を学んでいく若い刑事を好演しています。
それから古い知人役として、落語家の橘屋圓蔵さんがゲスト出演しました。場面はわずかですが、立て板に水のごとく、母親の人柄について語るところは、さすが噺家さんですね。
noteでは連載コラム、エッセイをほぼ毎日書いています。フリーランスのライターとして活動中ですが、お仕事が・・・ご支援よろしくお願いいたします!