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私だけの特捜最前線→81「ナイター殺人事件!~昭和の家族の風景を描いた作品」

※このコラムはネタバレがあります。

今回紹介する「ナイター殺人事件!」は、昭和の高度成長期だからこそ作れたドラマと言ってもいいでしょう。その時代を知る者には、懐かしくもある家族の風景が描かれているからです。

事件は、叶刑事(夏夕介)が引っ越してきた高層住宅団地で起きます。ストーリーを解説する前に、ドラマ中盤で吉野刑事(誠直也)が見た「団地の光景」について触れます。

吉野の言葉を借りると、「どの家庭にも父親がいて、母親がいて、子供が1人か2人いて、テレビの置き場も座る位置も一緒で、見ている番組はナイター中継」。そして「まるで画一的だ」とつぶやくのです。

画一的といえば、高層住宅団地は間取りも同じ。昭和の時代、テレビは一家に一台、チャンネル権は父親にあり、ナイター中継は巨人戦。ドラマでも、王貞治選手が登場する場面が再三写されていました。

銃の暴発事故、実は計画的殺人だった

さて、ストーリー解説を始めます。事件は、王選手がホームランを打った瞬間に起こります。子供がいたずらしていた銃が暴発し、向かいの棟に住む男性の頭を銃弾が直撃するという事故が発生します。

叶刑事は、男性の葬儀後の妻の行動に不審を抱き、捜査を開始します。事情聴取での子供の父親の供述と、子供が銃で遊んでいた行為にも矛盾点が見つかり、事故ではなく事件だったという確信を持つのです。

やがて、男性には一戸建て住宅資金のために生命保険がかけられていることがわかり、父親は子供の育児に振り回されていて「逃げた妻の代わりになる女性が欲しい」と思っていたことも判明します。

利害関係が一致した妻と父親には男女関係もあり、事故に見せかけた殺人の疑いが濃くなってきました。しかし、二人とも「カーテン越しでは家の中は見えない」「過失致死による事故だ」と頑強に否定します。

ここで、吉野刑事の「画一的な家族」という言葉がヒントになります。叶刑事は、茶の間で男性の座る位置に、あらかじめ照準を合わせておき、ナイター中継のクライマックスで狙撃するトリックを見破ったのです。

特命課によって、妻と父親は逮捕されました。後に残された父親の子供が、ぼんやりと外を眺めている姿を見て、叶刑事は「醜い事件に巻き込まれ、子供が宙に浮いてしまった」と複雑な表情を浮かべるのでした。

トリックを見破った叶刑事の鋭さ

このドラマは、叶刑事の洞察力と推理力が存分に発揮された回でした。とくに、銃の暴発に見せかけたトリックを見破っていく過程では、叶刑事の鋭さが際立つように描かれています。

非常によくできたストーリーだったのですが、腑に落ちない脚本・演出もあります。それは、叶の自宅の隣に住む浪人生の存在です。彼は引っ越し当日から「うるさい」と苦情を吐くような胡散臭い人物でした。

浪人生は、実は空き巣の常習犯で、事件当日も空き巣狙いに失敗した直後、父親が銃を撃つ瞬間を目撃していました。それをネタに父親を脅迫し、口止め料を要求するのです。

最後は、父親と浪人生がもみ合いになり、そこに妻が加わったところで、特命課が3人を取り囲み、一網打尽にするという展開。事件の全面的な解決という点では、スッキリしたのかもしれません。

ですが、あえて言うならば、浪人生の役どころが必要だったのかどうか。叶刑事がトリックを鮮やかに見破ったのであれば、そこから事件解決へと導いていく方が良かったのではないかと思えてなりません。


ちなみに、妻役は水島彩子の名前で活動していた頃の奈良富士子さん、父親役は小坂一也さんが演じ、浪人生役として、後半の特捜最前線で準レギュラーとなった梅原正樹さんが出演しています。


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