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私だけの特捜最前線→93「老刑事・対決の72時間!~大滝秀治VS蟹江敬三、名優が奏でる人間ドラマ」

※このコラムはネタバレがあります。

今回は、おやっさんこと船村刑事(大滝秀治)が主役の「老刑事・対決の72時間!」を紹介します。おやっさんとダブルキャストとも言える容疑者の男(蟹江敬三)との取調室でのやり取りがメインのドラマです。

誘拐事件は男の犯行なのか?

東北のある町で1年前に起きた少女誘拐事件。容疑者の男に指名された船村ですが、船村は男に見覚えがありません。地元警察は、取り調べにのらりくらりと応じる男にてこずっていました。

男は船村に「俺はやっていない」と無実を訴えますが、アリバイを聞かれても供述を拒みます。「何か隠していることがある」とにらむ船村ですが、地元警察は男を自供に追い込もうと躍起になります。

船村は、男が事件前夜に女と夜行列車に乗ったことを突き止めますが、女が誰であるかも頑として口を割りません。管轄外の地元警察なので取り調べも進まず、署長(藤岡重慶)も船村を煙たそうにしています。

ようやく女の正体を船村が突き止めかけた時、男は船村の取り調べすら拒否し、地元警察に誘拐を自白してしまいます。しかも、供述した場所から白骨化した子供の遺体が発見されたのです。

ところが、船村が探し当てた女の自白によって、男がなぜ口を割らなかったのかという真実が明らかになります。遺体は女の娘で、男は娘殺しの犯罪を隠すため、無実である誘拐の罪をかぶろうとしたのです。

自首してきた女の姿を見て、男は船村に向かって「こいつらが、よってたかって俺たちをダメにした。俺がそんなこと頼んだのか。俺がやったんだ。俺が殺したんだよ」と泣き崩れたのでした。

蟹江敬三さんの名演技

この作品は、大滝秀治さんと蟹江敬三さんの演技をじっくりと見ることに尽きると言っていいほど、二人がそれぞれに迫真の名演ぶりを発揮し、塙五郎氏の脚本も冴えた熱い人間ドラマです。

この頃の蟹江さんというと、ウルトラマンレオでの宇宙人や猟奇的な殺人犯といった強烈な印象の役柄が多い俳優でした。このドラマでも、最初の頃は眼光の鋭い、いかにも凶悪犯っぽい雰囲気を見せています。

ところが、自分がひたすら隠し通していた女の真実に迫る後半になると、そこに憂いの表情が現れ始めます。そして、真実が明らかになった時の絶望ぶり。その演技に思わず引き込まれてしまいました。

塙脚本の妙といえば、取り調べの最中に窓の外から聞こえてくる演歌。行商の魚屋が毎日午後4時に警察署の近くで移動販売をする際に流すテープの音で、「田舎っぽさ」を演出する効果音のようにも思われます。

ところが、男にとってはとても大切な「合図」でした。魚屋の女房こそが、男が隠したかった女だったのです。女は毎日欠かさずやって来て、男が好きだった演歌を流し、無事を知らせていたのでした。

コラムでは触れませんが、男と女との出会いなどサイドストーリーも巧みに作られいる一方で、誘拐事件そのものは「真犯人が自首し、子供も無事保護された」とラストでサラリと語られるだけとなっています。

おやっさんVS地元警察の構図も?

大滝さん演じる船村刑事の取り調べは、特捜最前線で数々のドラマを生んできました。ただ今回は、特命課に対抗意識をむき出しにする地元警察が舞台・・・極論すれば「敵地」での取り調べです。

地元警察は、男が犯人だと決めつけた捜査を続けてきました。前半で船村が無実の可能性を指摘したことで、余計に反発を招いてしまい、男の取り調べも思うにまかせないような状態が続いていきます。

それでも二転三転した挙句、誘拐事件に関しては男の無実が証明されました。ただ、ラストシーンでおやっさんは「あの男を助けたんじゃなく、苦しめただけかもしれない」と自戒するのでした。

特命課のメンバーは、随行した紅林刑事(横光克彦)以外、ほとんど出番がありません。その分、船村刑事と容疑者の男がクローズアップされた異色作と言えるでしょう。

もう一人、注目すべきキャスティングは、署長役の藤岡重慶さんです。たたき上げの署長らしく、エリート集団の特命課からきた船村らへの対抗心と縄張り意識を露骨に出す好演ぶりを見せてくれます。

重慶さんといえば、西部警察の谷刑事ことおやっさんが思い浮かぶでしょう。くしくも大滝さんとの「おやっさん」共演が実現したわけですが、キャラの違いを見比べるのも楽しいでしょうね。


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