最近すきな曲(2020年8月)


 前略

●Lemon(歌:米津玄師/作詞作曲:米津玄師/編曲:米津玄師・室谷光一郎)


 新譜の『STRAY SHEEP』がすごくよくて、『優しい人』『カナリヤ』といったバラードや『Décolleté』『カンパネルラ』など個性的な音楽も素敵で、既存曲もすごくいいのでアルバムを通しでなんども聴いているんですけれど、そうして聴いているうちに「『Lemon』、いい曲だなあ」と思ったので取り上げることにしました。
それまでもいい曲としては認識して、なんなら今年の初めには本格的に関心を抱き始めてもいたのですが、やっぱりアルバムとして通しで聴くことで印象が変わったり、発表当時といまでは聴いてきた音楽の量が変わり別の視点で美点を見つけることができたりと色々な流れが重なって、いいなあ~と思った次第です。
 一番すきなのは歌詞面で、「暗闇であなたの背をなぞった その輪郭を鮮明に覚えている」という一文が特にすごくお気に入りです。なぞった、というのが指でなぞったのか視線でなぞったのか、指なら素肌をなぞったのか服越しになぞったのか、なぞる許可はあったのか。視線ならば夜に寝ているときなのか夜道を前後に並んで歩いているときなのか、と人によって情景の解釈がわかれそうで、美しくも興味深い一文だと思います。
 ちなみに前述の「今年の初めには本格的に関心を抱き始めてもいた」という点について掘り下げると、これはOSTER projectさんの『タピオカ元年』というボカロ曲にパロディ的にメロディが引用されていたことがきっかけです。『タピオカ元年』という曲はとてもわちゃわちゃしていてとても楽しいのでとてもすきです。サブスクにあるので聴いてください。


 ちなみにといえばちなみに、『STRAY SHEEP』の『Décolleté』が好みな人は『Lemon』シングルのカップリング曲『クランベリーとパンケーキ』も好みだと思うのでチェックしてない方は是非聴いてください。

●過去に囚われている(歌:礼衣/作詞作編曲:ぷす)


 ユニット『ツユ』の楽曲。ツユの音楽は現時点では礼衣さんの痛切さをはらんだ歌声×ぷすさんの耳馴染みのない曲構成×青春ロックっぽいギター×miroさんのすごいピアノ×電子っぽいドラムで構成されているのですが、その構成がこれまでで一番マッチしている曲だと感じました。特に最後の電子っぽいドラムについては個人的に慣れるのに時間がかかるというか、正直ツユの音楽ならもっと生っぽいほうがいいなあって印象だったんですが、この曲に関してはこのドラムじゃないとしっくりこないというくらいベストな音だなあと思います。無機質でポンポン跳ねるような印象で、くっきりと聞こえるこのドラムだからこそ『過去に囚われている』の陰影や転換感を生み出せると思います。
 miroさんの手数の多いピアノや水の音やハンドクラップがすごくお洒落ですきです。おすすめです。


●シンガーソングライター(歌・作詞作曲:大森靖子/編曲:鈴木大記)


 大森靖子×鈴木大記=無限大!!
 配信されてすぐはまだ編曲者がどこにも書いていなかった(事前の大森靖子さんのラジオで明言されただけ)のですが、うわこれすごい好みの編曲だ……というかこれめっちゃANCHORさんっぽい音だ……と思っていたらやっぱり鈴木大記 a.k.a ANCHORで笑いました。ピアノとか雨音とかクラッシュシンバルの音を加工したSEとかANCHORさん全開なんですけれど、歌声や歌詞のメッセージを強調するために普段よりは楽器が少なめで、かつ大森靖子さんの過去曲7曲ぶんのフレーズを組み込んでいるという、『シンガーソングライター』という楽曲に全力で寄り添う姿勢が作編曲家として素敵だなあと思います。わたしみとピンクメトセラしかわからない。
 歌詞は「STOP THE MUSIC」「刺さる音楽なんて聴くな おまえのことは歌ってない」「アンチも神もおまえ自身」「救いたい おまえじゃなかった」が現在の大森靖子さんだからこそな感じで非常にすきです。「STOP THE MUSIC」を連呼するところの歌いかたが、連呼なのに一回一回別の話をしているみたいに聞こえるのが流石の表現力ですね。
 そういえば大森靖子さんと言えば、響木アオさんに提供された『おとなにならないおんなのこうさぎ feat.大森靖子』もすっごくすきです。編曲は大久保薫さん。
 こちらもよければ聴いてください。



●夏空と走馬灯(歌:After the Rain/作詞作編曲:まふまふ)


 夏、そろそろ終わりますね。
 夏の終わり×青春時代の終わりを惜しむような曲を七つの大罪の「強欲」になぞらえるのが意外というか予想外の発想でしたが、言われてみればそれも十分に強欲だなあと思います。After the Rain新譜『7×2つの大罪』の書き下ろし曲ではこの曲と『鴉』『ラクガキサマ』がすきで、歌詞的に一番好みな曲が『夏空と走馬灯』だったので、いまの季節もあって取り上げました。
 過去曲『箱庭鏡』よりも爽やかな曲調ですが根底は同じ、「大人になって、青春時代のように他愛のない日々を《君》と過ごすことができない寂しさ」というテーマがあるように思えます。ただ曲調と同じく『箱庭鏡』よりも少し明るい結論に至る点も面白いですね。
 青春時代が終わって、余暇が減って昔からの友人と会う機会が減ってしまったり、自分の未熟さや同世代の他の人との差を身にしみて感じてしまったり、誰かがいなくなってしまったり、理想の自分にどうしてもなれなかったり、といったことに何か思うことは普遍的なもので、だからこそ様々なアーティストが各々の言葉で歌っているんでしょうね。
 同じテーマの曲を思い出せるだけ聴き漁って、普遍的なテーマだからこその差異を楽しむのも一興だと思います。


●あれから(絶望少女2020)(歌:大槻ケンヂと絶望少女達/作詞:大槻ケンヂ/作曲:NARASAKI/編曲:特撮)


 この曲、『さよなら絶望先生』という漫画のアニメが十一年ほど前に三期までやっていて、大槻ケンヂと絶望少女達はその主題歌『人として軸がぶれている』『空想ルンバ(空想ルンバらっぷ)』『林檎もぎれビーム!』『さよなら!絶望先生』『メビウス荒野~絶望伝説エピソード1~(ブルーレイボックスのテーマソング)』を担当していたという前提、そして絶望少女のひとり藤吉晴美さんの声優・松来未祐さんが2015年に逝去されているという事実を踏まえて聴くとすごく……こう、「救い」を感じるんですよ。それ抜きでもある程度の歳になって聴くとうわああってなるんですけど。親戚の子の成長や「あのアニメそんな昔だっけ……」ってなってあれから自分どれだけ変われたんだろうってなるところから始まるので。
 そういう曲ゆえに『人として軸がぶれている』『空想ルンバ』『林檎もぎれビーム!』『さよなら!絶望先生』の歌詞を回収して「過去と現在」に昇華している点がもうすきなんですが、ヘビーでハードなサウンドの果てに『林檎もぎれビーム!』を思わせるピアノ×ストリングスが鳴り始めたあたりで身も心もざわつきました。愛と時間がつまったすごい曲。
 そう、とにかく愛と時間がつまっているんです。昔のようにブレなくなったとは言い切れないけど、心の虎や豹と共に世界を憎んだ日があって、恋やさよならがあって、シャングリラを目指して絶望に落ちて、いろいろあったから、敵だと思っていた「あいつら」も自分と同じように人生を経てきた人間だということ、元気でいることは、死なずに生きていることは素晴らしいということ。それはさよならの相手に向けて祈ることと表裏一体だと思います。
 生きていればGood jobというメッセージは前向きすぎて薄っぺらく聞こえてしまう可能性もあるものですが、「そーんじゃ死んだらハイそれまでよって?」「記憶の中で生きてれば」というやりとりがあるから、「何気ない日々が大切なんだと」「絶望それだけが僕らに教えた幸せの日々が今ここにある」という言葉があるから、「あれから過去からそれより これから何して生きよう」という結論があるから、半生まるごとの厚みを感じるメッセージになっているように感じます。
 この『あれから』を含む『さよなら絶望先生』関連の歌はサブスクリプションに出ているので、本編未視聴でも気軽に聴いてほしいなあと思います。あと本編、というか漫画の最終巻まで、できたら読んでほしいなあとも思います。


●あのコは夏フェス焼け(歌・作詞:大槻ケンヂ/作曲:本城聡章/編曲:筋肉少女帯)


 さて、『あれから』聴いた人ならわかると思うんですが大槻ケンヂさんって演技派なボーカルなんですよね。地上波でアクターとして出演することもあるくらいで。しかも小説も何冊か書いている作家としての面もある多彩な人なんですが、『あのコは夏フェス焼け』はそうした面を感じつつ夏っぽくて最高で、今夏ずっと聴いています。
 父親が組んでいたバンドの復活&フェス出演が決まったものの、ボーカルだった母親は故人。だからその代わりに娘である「アタシ」がボーカルとして連行されて……といったあらすじの歌で、大槻ケンヂさんひとりでアタシ・パパ・セキュリティの三役をこなす可笑しさがとても楽しいです。特に「歌うなんて無理よ無理無理」が面白くてかわいい。
 全体的にブラスセクションとエレキギターが暑苦しく、前奏のなーななななななーがそれに拍車をかけます。炎天下で聴いていると謎にテンションが上がってきます。最高ですね。
 ラスサビ前もすごい印象的で、とにかくキャッチーなナンバーだと思います。サブスクにあるのでぜひ聴いてください。


 おわり。他にも語りたい曲はありますが今回はこれくらいにしておいて、次のときまだ語りたかったら語ろうと思います。とにかく今年はサブスクを利用して色々と聴くことが多くて、これまで購入一筋派でしたがまあ便利ですし聴くたびに微々ですがアーティストに収入もいってるらしいので、引き続き色々聞いていきたいなあと思いました。
 結びの言葉が思いつかないのでフォロワーさんの新曲を置いて終わりにします。ではでは。


Co-(歌:初音ミク/作詞作編曲:あいあ)

あの夏、ボクはキミに恋をした。(歌:初音ミク/作詞作編曲:ギンクル)





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