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開封後はお早めにお召し上がりください

 賞味期限を気にしてしまう。お菓子を買ってくると必ず裏面を確認し、期限内に食べられなかったら、もしくは食べる気分にならなかったらどうしよう、食べるのを忘れて期限が過ぎたらどうしようという若干の緊張の中で日々過ごすこととなる。私の家族はそこに関して割とおおらかであり、私だけが他人のお菓子の裏側までもこそこそ確認し、これ、明日までだよ。今日までだよ。と口うるさい姑のようになっている。

 だが近頃は、食品の賞味期限を「年月日」表示から「年月」表示に変更する企業が増えているらしい。そう考えると1、2日過ぎたところで、絶望する必要もないのかもしれない。以前賞味期限を過ぎた豆大福を悲しい気持ちで口にしたが、私の舌はそこまで繊細ではないのか、いつもと変わらぬ味わいであった。ご馳走様です。本当にありがとうございます。

 では私が最も恐れている記載は何か。それは個包装ではないお菓子(ジッパーが付いているものや大袋のものと言えば伝わるであろうか)の、「開封後はお早めにお召し上がりください」の文言である。これは正直恐怖である。賞味期限が、〆切にうるさい先生だとすると、この一文は実態のない幽霊だ。常に背後にいて、私を奈落の底へ落とそうと少しずつ距離を詰めてくる。私のいる場所から崖まで、どこまで猶予があるのかわからない。そこから逃げるには、全てを食いつくし、その幽霊ごと消してしまうより他ない。

 だから個包装のお菓子が好きだ。安心して日々を一緒に過ごすことができる。いつ食べようかと幸せな悩みを、ゆっくりと味わうことができる。だが、容量が入っているものはそうはいかない。一度開けてしまうと後戻りはできない。これ今日食べたいけれど、明日明後日も食べられるかな、何グラムずつ食べれば食べ切れるだろうか、と脳がフル回転である。酸化しやすいと言われているナッツに関しては尚更である。もう今日全部食べた方がいいのではないか、いやいやそれは食べ過ぎだよ、でも湿気っちゃうよ、と大騒ぎだ。だからクッキーやナッツは個包装だと大変有難い。心穏やかに購入し、食することができる。

 だからといって、個包装ではないお菓子に手を出せないのは悲しい。そこで家族に聞いてみる。この「開封後はお早めに」ってどのくらいかな。そこまで急がなくても大丈夫でしょ。と返ってくる。1週間とか?と重ねると、やや面倒くさそうに、2週間くらいいけるんじゃないとのこと。そうなのか。少しホッとする。もう自分の中で2週間と決めることにしよう。これで少しは心の平穏が取り戻せる。やれやれ。と思ったのも束の間、

まあ、なるべく早い方が美味しいけどね。
味落ちないし。

 がっくり。言われてしまった。やっぱりそうか。そうだよね。
 仕方がない。腹をくくって美味しいうちにいただこう。

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