『ベートーヴェン』徒然

ありがたいことにチケットを譲っていただけたので、
『ベートーヴェン』東京、福岡と観に行きました。
帰りの飛行機でこれを書いています。
夜の空港の青いランプが好きなんだよね。暗転した舞台に浮かび上がるバミリテープみたいで。東京、日生劇場の2階席だったんだけど、舞台全体を上から観るの大好きだから嬉しかった。日生劇場、なんならいちばん好きな劇場説あるな。

主演は井上芳雄さんと花總まりさん。
制作はクンツェ&リーヴァイ。といえばミュージカルオタクとしては外せない公演だし、東宝さんの本気が伝わってくるよね。
日本初演の演目、内容によるけどとりあえず芳雄さんに演ってもらったら安心なとこある。今回のペアは花總さんだし、やっぱり『エリザベート』を意識せずにはいられないファンは多かったと思う。花總さん不老不死であってくれ。いつまでも少女の気配を持っているひとで、良くも悪くも可愛すぎる。

正直にいうと、1回目の観劇の感想は、

「なんだろうこれは……」

だった。悪い意味で。
色々な理由があってわたしが集中していなかった、というのを差し引いても、なんか、とっ散らかってるな?という印象だった。ちなみに観たのは東京の千秋楽公演だったので、「幕が開けてすぐだから」ではない。

クンツェ&リーヴァイ作品は、楽曲がいつもとても良いと思う。
ここぞ!というところをバチーン!と決めてくる印象的なメロディ、歌詞、高い歌唱力を要求されるむずかしい曲ばかりなので、演者は大変だろうけれど、観ているこちらはとても気持ちが良いのだ。
お芝居で話が盛り上がったところに、バチーン!と盛り上がる楽曲がある。エリザベートで言えば『最後のダンス』がわかりやすいと思うけれど、黄泉の帝王(死の擬人化)トート閣下の、うつくしくもおぞましい、けれどもどこか哀しいキャラクタを、これでもかと引きたてる。
まあミュージカルのソロ曲ってそういうもんなんだけど。レミゼもそうだよね。それぞれにテーマ曲があって、見せ場がある。キャラクタが立ってる。

ベートーヴェンに感じた、「とっ散らかってるな」は、この作品の楽曲の多くが、ベートーヴェンの音楽のアレンジを使っていることに由来すると思う。
もちろん全部じゃないし、オマージュ程度に留められている曲もあるんだけど、交響曲のメロディそのままに歌詞を載せている曲がいくつもある。
いや、いい曲だよ。いい曲なんだよ。ベートーヴェンというひとは稀代の音楽家だもの。耳馴染みのあるメロディ、たくさんあります。なぜか知らんけど日本人が年越しに聴きたがる第九とかさ。あれなんでなんだろうね。
でもさ、ベートーヴェン、歌曲はあんまりないんだよ。

劇中にこんなセリフがある。
「音楽家は踊らない。」
(意思を覆してベートーヴェンは2幕ではトニと踊るのだが)
それを言うんなら、「交響曲は歌じゃない。」もあるんじゃないか。
歌のために作ってない曲に歌を載せる違和感がひとつ。
ばらばらに作られた曲を地続きで聴く違和感がひとつ、かな。
なんていうか、ベスト・アルバムを聴きたいわけじゃないんだよな。しかも、交響曲にしたって、緩急があるわけで、いわゆる『サビ』の部分だけ何回も繰り返し聴くものではない。
お子様ランチはおいしいけど、ハンバーグとオムライスとミートソーススパゲティをいっきに食べるの、正気の沙汰じゃないんだよ。重い。

井上芳雄さんと花總まりさんを筆頭に、実力のある俳優で固められたキャストが、高い完成度で聴かせてくれるからこそ、重い。
アレンジではない楽曲も入ってきて、それもまたいい曲が多いんだよな。
まさか歌がうますぎることでこんな気持ちになるとは思わなかった。

1幕が冗長に感じたんだけど、
こう、『1幕が終わりそう』って感じる曲が途中で何曲かあるんだよね。あれ、まだ続くんだ、って何回か思った。
実際の1幕の締めの曲は演出的にも納得する曲だったんだけど。なんなら納得しすぎて2幕なにやんの?と思った。いや、2幕ぜんぶが蛇足だったような気さえする。(フランツやカスパールにいい曲があるので観てよかったです)
ベートーヴェンとトニの関係、1幕の締めで完結しちゃってるんだもん。彼に楽譜(音楽)を手渡して階段を降りて去っていくトニ、あそこでベートーヴェンの人生の舞台から降りてるじゃん。
2幕であらためてふたりが想いを確かめて、でもどうしても結ばれることができない『不滅の恋人』である、どんな形でも愛し合っている、と語られるけど、うんそれは1幕の最後で分かってるんだよ。だってトニ、階段降りたもん!!
彼らの心情的には1幕の締めの時点でもう会えない、と思っていたって話と言われたらそれまでよ。
こういう感想が出てくるのも、とっ散らかって感じたってことかも。

ついにはトートのものにはならなかったエリザベートが高く高くのぼって死んでいったのと真逆の演出だな〜とぼんやり思った。トニは死ぬわけじゃないし、なんなら先にベートーヴェンが死ぬんだけど、高い場所にのぼって音楽と添い遂げようとするベートーヴェンに対して、通りすぎ、なお降ってゆくトニは、彼と違う世界の人間なんだよね。
一度も同じ高さに立っていたことはない。
だからこそ、2幕では『音楽家が踊っ』たり、ふたりが同じ高さ、同じ視点に立とうとするんだろうな。
トニは最初から最後までお姫さまなので、花總さんでなければ死ぬほどムカつく女だと思う。あのひとはかわいすぎるので、もっとムカつく女でいて欲しいときにもかわいい。それは勿体無いようにも思うけれど、やろうと思ってできることではないから唯一無二なんだろう。
表現が良くないのだが、まだ演技があんまり上手くない若い子の持っている『少女らしさ』、言い換えれば未熟さみたいなものを、花總さんは失っていない。そういうお芝居なんでしょう?と思うかもしれないけど、こなれるっていうのは、それらの粗削りな角を取ってゆく過程だと思う。波にみがかれたシーグラスはうつくしいけれど曇っていて、砕けた瞬間の烈しい輝きを留めてはいない。鋭利な輝きを取り戻すなら、もう一度割れるしかないのだ。もちろん、そんなことは何度もできないし、誰にも知られずにいられるわけもない。輝くものは眩しいけれど、烈しいものは暴力だ。
オルゴールのバレリーナはいつか止まるのに、花總まりというひとは、ずっと踊っている。

なんか文句ばっか言ってるみたいになったけど、みなさん本当に歌がうますぎる。東京では最初の音量どうした???ってなったけどそれくらいだった。(スピーカーからイカれた音量で声が出た)

木下晴香ちゃん、上手くなったなあ。別件なのだがカウントダウンミュージカルコンサートにも行ったので、しみじみと上手くなったなあ……と思った。もともとそんな下手な子じゃないけど。
デュエットでの花總さんのビブラートがうつくしすぎたので晴香ちゃんはあれを盗みとってほしい。さすがにあそこは負けちゃうよなあって感じだったけど、うまい人に揉まれて上手くなっていく気がするので。

吉野圭吾さんは相変わらずの怪演。なんか観ちゃうんだよな、そこにいると……圧があって……。1幕のどこかでアンサンブルに混ざって出てらしたのだが、いや、目立つからね? お衣装がとかじゃなくて、目立つからね??
分からんわたしがアンサンブルを注視しすぎ説あります。

坂元さんと佐藤さんはなんか方向性の違う存在感だった。フランツ、DVクソ夫なのだが、佐藤さんのほうがトニのことを金融商品としてみているというか、大貴族の父を持つ妻、義父とのつながりを重要視してそうな印象。坂元さんフランツは『おれの所有物』感があって、いやどっちもサイテークソ野郎ではある。
余談だけど、絡みはないとはいえ坂元フランツ海宝カスパール回、古参の四季ファンにはたまらない公演だったのではないでしょうか。初代シンバとヤングシンバ、そんな……いいんですか……??
海宝さんは配信でしか拝見できていないので悔やまれるよ。カウミューよかったです。アーカイブ配信と円盤ください。
小野田さんのやさしいお歌聴くの久しぶりな気がした。バート以来か? メリポピもまたやってください。なんか……ともだちに似てるんだよな……どことなく……と東京で思ったが、福岡でも思った。身近なひとに似ている、って失礼千万なんだけど、それこそ近所の気の良いお兄さんの印象がずっとある。もしくはお散歩中に撫でさせてくれるワンコとか。
この作品の癒やし。
だってベートーヴェン(兄)性格悪くて陰険なんだもん。弟が小野田さんでよかった。ヨハンナが「あのひとはあたしたちのこと無視したのよ!」って怒ってるけど、いやそれな? カスパールが良いやつで、「でもあのひとは僕の兄さんなんだよ」って言うから許せる。

「自分に嘘はつけない」人物ばかりの物語で、でも、正直であることと素直であることは違う。不器用なのかもしれない。音楽以外まるでダメなのかも。
だけど、音楽でなら素直になれる、とは言わない。ベートーヴェンにはたしかに才能があって、ピアノが弾けたから、曲を書けたから生きてこられた、自負とプライドがある。
トニが子どもたちを捨てられないようにベートーヴェンも音楽を捨てられないけれど、でもそれは、我が子のように愛したゆえではない。愛がかたくなな彼をすこしばかりはまるくしても、本質は変わってない。
井上芳雄さんがな〜、上手いんだよな〜。この絶妙な器の小ささというか、傲慢な男を演じるのが……。すらっと背が高くてお顔立ちもきりっとしていて、いかにもな風貌では決してないのに、いつもどこか機嫌が悪くて感じのよくない男をここまで演じられるのが本当に上手い。歌がうますぎてあんまりにも晴れやかなので、おいベートーヴェンくんどうした突然元気じゃん?ってなるけど。笑
芳雄さんといえばモーツァルトも演じられているけど、正直、ベートーヴェンのほうが当たり役かなと思う。モーツァルトの歌唱もすばらしかったです。
モーツァルトもまた『自分に嘘はつけない』キャラクタとして描かれてはいるのだけど、彼は朗らかで素直なんだよね。音楽でなら語れる、と歌詞にもある通り。そんなモーツァルトとの落差が激しいベートーヴェン、両方演れてしまうのは歌唱力だけが理由ではない。
モーツァルトは、歌はもちろんとっても難しいんだけど、できる俳優は他にもいると思うんだよね。分かりやすいから。ベートーヴェンはそうじゃない。
それをシングルキャストでやり続けられる力のある方なのだ。

個人的には、実力、集客力、もろもろを鑑みて似たような顔ぶれが揃いがちなキャスティングに思うところはあるんだけれど……。それはそれ、これはこれ。

ミュージックオブゴーストについてめちゃくちゃ喋りたいのにここまでだけで長すぎるんですけど!?
待て次回!!!!!(あるのか?)

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