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バイクに乗った紳士

週末に遊ぶ時間はあまりなかったその頃、中学時代からの地元の数少ない友人のひとり、みやちゃんと一緒にいることが増えてきました。彼女も別の英語の専門学校。モデルみたいに背が高くてスタイルが良く、常にダイエットを気にして、中学のころから、いつも小鳥の餌程度、ちょっぴりしかご飯を食べない子でした。

そんな彼女のご両親が秋葉原に喫茶店を出したので、週末にちょこっととか、学校の休みの期間とかの空き時間に、よくみやちゃんと一緒に、ウェイトレスのアルバイトをしていました。薫り高いコーヒーに、絶品のビーフシチューとか、ピラフ。賄い狙いでした。チョコレートケーキのほかに、紅茶のケーキとか当時あまり見かけなかったタイプのケーキも扱っていました。 
そのお店には、4つ年上の二人組、杉ちゃんと米ちゃんという優しいお兄さんたちが足しげく通っていました。彼らは高校時代からの友人、バイク仲間でした。
杉ちゃんがみやちゃんに好意を持っているのは、すぐに気づきました。みやちゃんもわかっていたようで、その年のクリスマスに、杉ちゃんの告白が実り、みやちゃんとお付き合いすることになりました。

私はというと、実は、杉ちゃんの友人、米ちゃんに、ひとめぼれをしていました。オシャレでかっこよく、誰にでも優しい米ちゃん。
彼の乗ってくるバイクの音は聞き逃しませんでした。ホンダの赤いバイクから颯爽と降りてヘルメットを取る、凛々しい米ちゃんの姿にメロメロになっていました。
そして、私の気持ちは、杉ちゃんとみやちゃん二人には、いや、みやちゃんのご両親、マスターとママさんにも知られていました。彼がお店に入ってくると、何だかみんなが目くばせしていたような気がします。

そういえば一度、米ちゃんが、私に「アイスティー下さい。」と言ったとき、杉ちゃんが、「え、愛してください、だって?」と言ったので、びっくりして、派手にずっこけてしまい、恥ずかしかったです。
ウケ狙いと思ったのか、みんな笑っていましたが、私はただただドキっとしてコケただけ。

女子校でしゃれっ気もない学校時代でしたが、米ちゃん出現のおかげで、少しずつお洒落にも目覚めたのでした。

米ちゃんは、ご飯を食べに行っても、映画を観ても、いつもやさしく紳士的に接してくれましたが、本当にお兄さんという感じでした。

私は、気持ちがふくらみすぎていたので、ある日、彼がお店を出るときに追いかけ、思い切って告白しました。
彼はびっくり、そのあと、困惑の表情を浮かべ、やっと絞り出すように、「ごめんね。。」としか言ってくれませんでした。

もうその言葉だけで充分にショック過ぎて、正直、その瞬間のことは覚えていません。
そのあと、杉ちゃんから連絡がありました。
「彼は、本当はまりかちゃんが思っているようなヤツじゃないんだよ。女好きだし、道でナンパだってする。まりかちゃんの気持ちには気づいていたって。でも、可愛い妹のような存在だし、それ以上の気持ちは持てないんだ、って言ってたんだ。」
杉ちゃんが言い終わるのを待たずに、電話口でわんわん泣きました。

そして、まりかの淡い恋も終わりを告げました。                
つづく


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