見出し画像

「田澤指名回避」を人事の視点から見る

2020年のドラフト会議が終了した。

今年はコロナの影響もあって、スカウトのあり方も大きく変わった年だったが、結果的に、昨年よりも多い123名(支配下指名74名、育成49名)が指名されたことに安堵した。プロ野球を目指していた多くの選手が、コロナを理由に断念させられることがなかったからだ。

しかし、元メジャーリーガーの田澤純一(埼玉武蔵ヒートベアーズ)が指名されなかったことには、幾分驚いた。上位指名の噂もあったし、上原とともにワールドシリーズ制覇に貢献した実績もある。3球団から調査書も届いていた。そして何より「田澤ルール」が撤廃されたのは、どこかの球団が獲得を前提としていると思っていたからだ。

この件に関しては、昨日上原もブログでコメントをしていた。

これを読み、人事の視点で思うことがいくつかあった。


■指名見送りの背景

ニュースを色々見てみると、

1. 現在34歳という年齢
2. 直近のBCリーグでの成績
3. 指名されたら考えるという姿勢

が指名回避の理由として挙げられていた。

多分その通りなのだろう。
BCリーグでの成績は16試合で防御率3点台後半、ほぼ4点。少し前にNPBに出戻りした歳内投手はほぼ無双状態だったのだから、今の田澤ではNPBに通用するかは疑問符がつく。さらに、来季は35歳という年齢考えると取るべきではない、という結論だ。

ドラフトは、「この選手なら5年、10年を背負ってくれるという覚悟を示す場所」であるが故に、1年で契約を打ち切るのは印象が悪いし、元メジャーリーガーなら外国人でも獲得できる、という球団側の理論。

でも、本当にそれでいいのか?
結果的に、実力不足ならそれでいいが、上原のブログを読んでも、ドラフトの指名対象でなければ、指名されたのでは?と示唆しているように思える。

話はそれるがこの反応で思い出すのが、ペタジーニへの敬遠。
当時松井秀喜と本塁打王争いをしていたペタジーニ(当時ヤクルト)にベンチから敬遠の指示があり、マウンド上で勝負から逃げる悔しさのあまり泣いてしまった事件だ。


同じ元メジャーリーガーという立場で、現在のBCリーグでの投球も恐らくみているという中で、田澤ならまだ通じると思っていたのではないか?

そもそも、MLBで通算388試合に登板、実働9年で21勝26敗4セーブ、89のホールドをマーク。奪三振も374を記録している元メジャーリーガー。そんな実績抜群の投手がNPBに入る時には「新人扱い」。そんな非現実的なルールがおかしいと言えるし、MLBに挑戦した選手が日本に戻ってくる場合、多くの場合争奪戦になっている。NPBを経ていないだけで、獲得するのに要件がつくのはちょっとおかしいと思う。



■新卒入社のプラチナチケット化

しかし、これは日本の一般社会でも同じだ。

新卒なら採用するけど、既卒なら採用しない。
コロナ前は若手人材不足もあり多少緩和されたものの、今でも留学等で半年卒業が遅れただけで、面接にすら進めないという学生は存在する。

先日、コロナの影響もあり政府が「3年間新卒扱い」を要請した。
(これは日本が”新卒"と"第二新卒"に天と地ほどの差があるからではあるのだが)なぜか日本という国は、スキルや経験を考慮せず、一番下からやらせようとする。入口が下なだけで、そのあとは実力主義であればいいが、そうではないからややこしい。仮にコロナで就職できなかったとしても、その間に留学したり、プログラミングの勉強したり、アルバイトで経験を積んだケースは無視すると言っているのと同じだ。


しかし、今や「新卒プラチナチケット」という新卒至上主義の会社は、優秀な人材を「GAFAM」と呼ばれる超有名外資系に引き抜かれている。新卒採用では内定辞退され、期待していた若手人材は会社に見切りをつけ、大量にGAFAMに転職をしていく。

年功序列、終身雇用の時代ならまだしも、今は転職は当たり前、フリーランスにもなるし、副業だってする。VCからの資金調達のハードルも下がり、起業する人も多くいる。

新卒プラチナチケットを餌に、忠誠心を植え付ける。
その見返りに、長期に渡る雇用と人材育成で企業は抱え込もうとしていた。しかし、自由に働きたい社員の想いは離れていくばかりだ。


■数十年前の日本企業

話をドラフトに戻したい。

元々田澤ルールも、NPBのドラフト会議を経ずに海外へいくことを強制禁止したもの。米国のマイナーリーグ化を防ぐためとも言われているが、単に日本のプロスペクトが海外に流出し、NPBの実力、人気低下を懸念しているからだろう。

日本にいる優秀な選手の流出を防ぐこと自体は大事だけれども、ソフトバンクに入団したスチュワートJrの例もあるように、日本だって海外の有望選手を獲れる可能性だって、今はある。競争に勝つことは大事だが、他者を排除して、自分たちだけが総取りしようと思ってもそれはうまくいかない。


日本の超人気企業であっても、大卒は3年で30%辞める。

もちろん、企業側に(未だに)色々な問題があるのは事実だが、VUCAの時代、社員に自立を求め、働き方の多様化を認めた結果でもある。

今、優秀な若い人たちが企業に求めることが変わってきている。

安定やお金だけではない。企業が従業員のことをどれだけ考え、柔軟に対応できるかどうかだ。このコロナ禍で、在宅勤務を認めてもらえない、副業解禁の流れの中で、自社では副業は認めない...そんな会社に愛想を尽かした人は多い。人が集まるのは、知名度や待遇じゃない。従業員ファーストの姿勢を持っている会社だ。実際に、イケてない会社はSNSで炙り出され、転職サイトには、旧型の会社への不満をぶちまけているのをよく目にする。


一方、日本のプロ野球においては、
結局、分配ドラフトも行われず、FA短縮も当面なくなった。
NPB球団は、相変わらずFA取得前年になったら複数年契約&大幅年俸UPを持ちかけ、ポスティングは認める球団と認めない球団が存在する。ドラフトも完全ウエーバーにはなっていない。


選手軽視の球団運営は、数十年前の日本企業に見える。

65歳が定年のビジネスパーソンと異なり、プロ野球選手はほとんどの選手が30歳前後で選手寿命を迎える。悔いのない競技人生を送りたいと思うのは、至極真っ当で、今のNPBを取り仕切っている60-80代の重鎮は、想像もできないようなプロ人生が広がっている。

昔のように、少年が全員野球をする時代は終わっている。
W杯が当たり前になった"サッカー"もするし、
One Teamの"ラグビー"だってする。

巨人に入りたい、というドラフト候補選手も大幅に減った。
パリーグには絶対に行きたくないという選手もほとんどいない。
選手のほとんどは、球団に就職したいのではなく、野球をしたいのだ。

契約だから球団が有利なのは仕方ないが、野球界の発展を願うなら、実力ある選手がチャレンジできる環境をきちんと作っていって欲しい。そのためには、田澤ルール以外にも、撤廃しなきゃいけないものはたくさんあると思う。

↓ 筒香嘉智の少年野球への問題提起



■最後に

田澤指名回避は、単に実力不足ならいい。
でも、そうじゃないモヤモヤ感がどうしても残る。


それにしても、
今回は巨人が下位で指名するかな?とも思った。しかし、蓋を開けてみると育成で12名も取っており、新陳代謝の強い意思を感じた。また、2年前に岩隈を獲得したが、結局戦力となりえず引退になったことから避けても仕方がないのかな。

けれど、落合博満がどこかの監督かGMだったら指名していたのではないかなぁ、とどうしても考えてしまう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?