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冥土の冥ちゃんとゆかいな仲間たち②

 ここは冥土。
 あの世でもこの世でもない、彷徨える魂たちが集う場所。

 そこにあるお屋敷で働くメイドさんと、不思議な顔色の悪いお手伝いの飛べない鳥たち。
 お屋敷には主がいるとか、いないとか。というよりも、主はずっとお屋敷を空けたままで、今はメイドさんとその仲間たちが日々暮らしているだけです。

この可愛らしいメイドさんの名前は冥ちゃん。そう、 冥土のメイドの冥ちゃんです。
 そして不思議な顔色の悪い3羽の鳥さんたちは、フクロウオウムのカカポチャン。なぜか半角のカタカナで、なぜかみんな同じ顔をしています。冥ちゃんにも見分けがつきません。

 なので冥ちゃんはわかりやすいように、3羽のカカポチャンに色違いのスカーフを巻いてあげています。

 赤いスカーフを巻いた、しっかり者の赤カカポチャン
 青いスカーフを巻いた、あわてん坊の青カカポチャン
 黄色のスカーフを巻いた、マイペースでのんびりしてる黄カカポチャン

 冥ちゃんと3羽のカカポチャンが毎日楽しく暮らしていました。


エアコン大騒動

 とある休日、赤カカポチャンはお屋敷の屋根裏にあるベッドで眠っていました。
 しかし突然、けたたましい騒音が振動と共に響き渡り、赤カカポチャンは飛び起きました。

(ナンダ!)

 隣で呑気に眠っている黄カカポチャン。青カカポチャンは同じ様に飛び起きて、冥ちゃんの元へ走って行きました。

 赤カカポチャンはとにかく確認しなくてはと、屋敷の外へ駆け出しました。

ドテドテドテッ!

 屋敷の外へ出ると、急ごしらえの足場を組んだ作業員の幽霊たちが、屋敷の外壁工事をしていました。

(メイチャンニ、オシエナイト!)

 赤カカポチャンは屋敷に戻ると、真っ先に冥ちゃんの元へ向かいました。

「どうしたの? 赤カカポチャン。さっきから、青カカポチャンも騒がしいし、それに外もなんだか騒がしいわね」

(メイチャン!ナンカコウジシテル!)

 もちろんですが、カカポチャン達は人間の言葉を話すことは出来ません。なので身振り手振り、あらゆることを駆使して冥ちゃんに伝えようとします。

「うーん、流石にわからないわね。とにかく、外見に行くかなぁ」

 冥ちゃんは外へ出て様子を確認しに行きました。

「って、ええっ!」

 何とお屋敷の外壁工事が、急に始まっていたのです。
 カカポチャンはもちろん、冥ちゃんもその話は聞いていませんでした。

「でも……私達が気にすることじゃないかな? 多少、騒がしいだけで中で作業するわけじゃないだろうし……」

 冥ちゃんはそう言いながらお屋敷の中に戻って行きました。
 青カカポチャンはと言うと、ずっと工事を見学していました。
 黄カカポチャンはまだ眠っていました。

 夏が始まる季節、冥土にも夏があります。最近では地上の温暖化の煽りを受けて夏場はクーラーがないと過ごせません。

「今日はいっそうジメジメするなー。そうだ、試運転がてらエアコン点けよっと」

 冥ちゃんはそう言うと、リモコンを探し出し早速スイッチを押しました。

「あー涼しい……」

 休憩室のエアコンから吹き出る冷たい風。

「あんまりすぐ点けたり消したりは勿体無いから今日のお昼間だけでも点けておこうっと」

 冥ちゃんは、しばらく休憩室で涼んでからお屋敷のお掃除へと戻りました。

 それから数時間して、赤カカポチャンがエアコンの前で涼もうとやってきましたが、異変を感じ取りました。

(カゼガヌルイ!)

 赤カカポチャンは大急ぎで冥ちゃんを呼びに行きました。

「どうしたの赤カカポチャン、もしかしてまたサボってたの?」

(メイチャン、エアコンヌルイ!)

「もう何言ってるかわからないでしょ……着いていけばいいの?」

 冥ちゃんは仕方なく、赤カカポチャンに着いて行きました。
 そこに待ち受けていたのは、蒸し風呂のような休憩室。

「えっ、なんで……?」

 冥ちゃんはエアコンのスイッチを一度オフにしてからもう一度稼働させましたが、それでも風はヌルいまま……と言うか、扇風機状態でした。
 何度も試してもエアコンは冷たい空気を吐き出すことはなく、落胆した冥ちゃんはしょんぼりしながらまた残りのお給仕に戻りました。

 外でトンテンカンテンしているお化け作業員さん達、それをずっと見ている青カカポチャン。マイペースに仕事をする黄カカポチャン。
 赤カカポチャンは、冥ちゃんとせっせと給仕をこなしています。

「それにしても暑い気がするけど……って赤カカポチャン、汗びっしょりじゃない!」

 真っ赤なスカーフで分かりにくくなっていますが、少し紅潮気味の赤カカポチャン。
 冥ちゃんは急いで赤カカポチャンを休憩室へと連れて行き、タオルと氷、それに井戸から汲んだ冷たい水と岩塩を持ってきました。

「大丈夫?」

(メイチャンアリガトウ)

 少し呼吸も荒い赤カカポチャン。冥ちゃんは心配そうに見つめています。

「そうだ!」

 冥ちゃんは何かを思いついたように、屋敷を飛び出していきました。
 そう、自動販売機でスポーツドリンクを買いに行きました。もう自動販売機は意地悪すること無く、事情を知った彼はおまけでもう一本スポーツドリンクを出してくれました。

「ありがとう!」

 冥ちゃんはお礼を言うと急いで屋敷へ戻りました。
 休憩室には青カカポチャンも黄カカポチャンも来て心配そうに赤カカポチャンを見ていました。
 エアコンからは風が辛うじて出ていますが……。

「どうしてこんな時に冷たい風が出ないの?」

(メイチャン! タブンアレノセイダヨ!)

 青カカポチャンが窓の外を差して何かを言っています。

「もしかして……」

 冥ちゃんは急いで外へ出ます。
 そこには外壁工事の為にせっせと働くお化け作業員さん達。よく見ると、エアコンの室外機が元ある場所に無く、向きも変わってしまっていました。

「これが原因……どうしたらいいのかしら」

 とりあえず次の日、修理屋さんに来てもらうことにしました。
 冥土電機さんがお屋敷にやって来ると早速エアコンを調べ始めました。
 赤カカポチャンと冥ちゃんはそれをじっと見守ります。

「ん〜、これは修理は難しいですね……これくらいかかっちゃいます」

「ええ!こんなに……ちょっと厳しいなぁ」

 冥ちゃんは見積書を見て驚愕します。
 でも、調べたところによると、昨日の外壁工事の時に室外機を動かしたのが原因らしい。

「室外機がおかしくなったんですか?」

「あれ? 直接聞けばわかると思いますよ」

 その言葉を聞き、赤カカポチャンは室外機の元へ走り出しました。

(シツガイキクン!)

「ん? 赤カカポチャンじゃん。あれ、おいら寝てた?」

「ちょっとカカポチャン待ってよ……」

「あ、冥ちゃん久しぶり〜」

 室外機はのんびりした声で冥ちゃんに話しかけます。

「う、うん久しぶり。大丈夫?」

「ん〜ちょっと眠いかなぁ。それから、室内機くんとはぐれちゃったんだけど……」

(シツガイキクン、ヤセタネ!)

「ああ……なんか昨日シューってなってね」

「シュー?」

 冥ちゃんと赤カカポチャンは首を傾げます。

「うん。でも室内機くんが心配だなぁ……」

「そうね……」

 冥ちゃんと赤カカポチャンは屋敷の中に戻り、室内機くんに話を聞きます。

「室内機くん?」

「……」

「駄目ですよ!今はそっとしとかないと……」

(ネテルノカナ?)

「でもとにかく、部品が傷んじゃってて、動きたくても動けないんですよ。どうしますか?」

「すぐにこんな大金は……ご主人様に相談しないと……」

(ソンナ ヒツヨウ ハ ナイヨ!)

青カカポチャンが冥ちゃんのエプロンの裾を引っ張ります。

「ちょっと青カカポチャン、そこ、この前縫ったばかりなんだから!」

 青カカポチャンは必死に監視カメラの映像をチェックするように呼びかけます。

「なにか言ってるみたいですね……じゃ、俺はこれで失礼します。また何かあったらご連絡ください」

 そう言って冥土電機店さんは帰ってしまいました。

「カメラの映像? あ、これ昨日の。やっぱり工事が原因だったのね!」

(メイチャン、オレ、モンク イッテクル!)

 赤カカポチャンは急に屋敷を飛び出してしまいました。

……。

 暫くして、ボロボロになった赤カカポチャンが帰ってきました。

「ちょっと赤カカポチャン!?」

(オレ、ヨワクテゴメン。メイチャン……)

 気を失った赤カカポチャンを冥ちゃんは屋根裏部屋へ連れていきました。

(ニイサン……)

(アニキ……)

 青カカポチャンも黄カカポチャンも心配そうに見つめます。
 赤く腫れたタンコブに冥ちゃんは氷のうを当ててあげました。

「もう怒った!私、ガツンと言ってくる!」

 冥ちゃんは腕まくりをして、鼻息荒く大股で歩きながら屋敷を出て行きました。
 黄カカポチャンがその後を追い、青カカポチャンは傷付いた赤カカポチャンとお留守番をすることになりました。

 しばらくしても、冥ちゃんは帰って来ませんでしたが、そこに意外な人物がやって来ました。

「あら? 赤と青しかいないのねぇ」

(ゴ、ゴシュジンサマ!)

 そう、そこにやってきたと言うよりか、帰って来たのはこの屋敷のご主人様でした。
 ご主人様は冥土随一の美女と呼ばれる魔女。
 その美しさで冥土の男性を虜にするとか、しないとか。

「まあ、どうしたの?」

「カポカポ!」

 青カカポチャンは必死に説明しましたが、ただ鳴き声をあげているだけでご主人様には何も伝わっていません。

「ああ、もう面倒くさいわね。えい!」

 青カカポチャンは光に包まれると、人間の姿になりました。流石は魔女です。

「ボク、人間になってる!」

「いいから早く、経緯を説明してちょうだい」

 言葉を思うも言葉にならない青カカポチャン。
 するとそこにしょんぼりした冥ちゃんと黄カカポチャンが帰って来ました。

「ただいま……ってご主人様!?」

「久しぶりね、冥。元気にしてた?」

「あ、はい!冥はすこぶる健康です!」

「そう、ならよかった。いやね、ずっと帰って来てなかったし、そろそろ寂しがってるんじゃないかなって思って。近くに用事があったから顔出したら、屋敷なんだか暑くない?」

「そうなんです!外壁工事の作業員幽霊にエアコン壊されたんです!で、文句を言いにそこの会社に行ったんですけど」

「で、返り討ちにあったのね。もう、冥はそういうの苦手でしょ? でも頑張ったわね。よしよし」

 ご主人様が冥ちゃんの頭を撫でます。
 冥ちゃんはまるで猫のように喜んでいます。

「じゃ、ちょっと待っててね。冥、大人しくしておくのよ」

「はい!ご主人様!」

 冥ちゃんは本当に猫のようです。それだけ、ご主人様を敬愛しているのがよくわかります。

「メイチャン!」

「ってあんた誰!」

 冥ちゃんは人間になる魔法をかけられた青カカポチャンを見て驚きました。

「カカポだよ!」

 よく見ると冥ちゃんがつけた青いスカーフを首に巻いてます。

「魔法で人間にしてもらった!」

「そうなんだ。かわいいショタは大好物だけど……ね、一回だけお姉ちゃんって呼んで?」

「オネイチャン?」

「くぅ〜たまらん!」

 冥ちゃんは気持ち悪い声を上げて一人悶えています。
 ぐったりした赤カカポチャンも流石に冷ややかな目でそれを見ていました。
 黄カカポチャンはというと、必死に毛繕いをしていました。

「ね、見て冥ちゃん!」

 青カカポチャンはその場でジャンプを繰り返しています。

「飛べてる? ねえ、飛べてる?」

「え……ああ、うん。跳べてる。跳べてるよ」

「やったー!夢が叶った!」

 冥ちゃんは少し心を痛めてしまいました。
 気を遣った嘘が人を傷つけてしまうこともある。その大切さを冥ちゃんは思い知りました。

「どうみんな!羨ましいでしょ!」

 見せつけるようにジャンプを繰り返していたら急に青カカポチャンは光出しました。

「あれ?」

 みるみる元の姿に戻ってしまいました。
 しょんぼりする青カカポチャンですが、冥ちゃんは青カカポチャンを抱きしめました。

「うん。やっぱりこっちがいいな」

 青カカポチャンはジタバタ動きます。

「もう照れなくてもいいんだよ?」

(テレテルンジャナクテ、イタイカラ!)

 鳥の言葉は冥ちゃんに通じない、筈ですが……。

「今なんかすごい悪口言われた気がした。私だって……私だっていつか、ご主人様みたいになるんだから!」

 冥ちゃんがそう言って屋敷の玄関を開けた時、ご主人様が帰って来ました。
 冥ちゃんはその柔らかい二つのクッションに埋もれるようにご主人様に受け止められました。

「まあ、いつからこんな甘えん坊になったのかしら」

「いや違うんです!甘えるとかじゃなくて……」

「と、言う割にはガッツリしがみついているのだけれど……暑苦しいから離れてくれない?」

 ご主人様はまるで猫の首根っこを持つように冥ちゃんの襟元を摘んで引き剥がしました。

「それから、エアコンはちゃんと向こう持ちで修理してもらえることになったから」

「本当ですか!流石ご主人様!」

「……冥、言いづらいんだけどね、向こうの人、冥の声が小さすぎて何言ってるかわからなかったんだって。もうちょっと声、張ろうか」

「え、だって今はちゃんと」

「うん。冥は人見知りだからね。初対面の人は不得手だもんね」

 必死に弁解する冥ちゃんと、的確に論破するご主人様。
 赤カカポチャンは気付けば眠っています。
 青カカポチャンはまだ落ち込んでいます。
 黄カカポチャンは窓の外の人魂の流れを目で追っています。

 数日後、修理業者がやってきてあっという間にエアコンは治りました。

「あー涼しい……」

「冥……重いから退いてくれない?」

(スズシイ)

 その日お屋敷のみんなはずっと休憩室にいたのでしたが……。

「というか、屋根裏部屋のエアコン点ければいいじゃない」

「ほぇ?」

 冥ちゃんの口からとても間抜けな声が出ました。

「え、いや……だってですね、電気代が掛かっちゃうじゃないですか?」

「ここが止まってるなら一緒じゃない。冥、しばらくメイドリーダーを赤と代わりなさい」

「えーそんなー!」

(ボクガ、メイドチョー?)

 怪我もすっかり治った赤カカポチャンが訊ねます。

「そうよ。だから……」

 ご主人様は赤カカポチャンに魔法をかけて人間の姿に変えてしまいました。

「うおー!すごい!人間だ!」

「それから……」

「あひょん?」

 ご主人様は冥ちゃんにも魔法をかけました。
 光に包まれてその光が収まると……。

「カポカポー!(うわーん!カカポチャンになってる!)」

「冥はしばらくそれで反省しなさい」

 冥ちゃんはカカポチャンの姿になり、赤カカポチャンは人間の姿になってメイド長となりました。

「赤の方が冥より可愛いわね。ずっと人間のままでもいいんじゃない?」

「本当ですか!」

「ま、効き目はせいぜい半日だからね」

「カポ……」

 しょんぼりした冥カカポチャンがトボトボご主人様の元へ歩いていきます。

「冥も、こっちの方が可愛いわね」

 ご主人様はたわわな胸元に冥カカポチャンを抱き寄せると、冥カカポチャンも満更でもない表情をしています。

「というわけで、赤青黄、ちゃんと働きなさいよ」

「え、冥ちゃんは?」

「お仕置きとして、私の遊び相手になってもらうわ。ああ、今日は執務室の掃除はいらないからね。絶対覗いちゃだめよ?」

「わかりました!」

 赤カカポチャンは張り切って休憩室から出て行きました。
 青カカポチャンと黄カカポチャンはそれに黙ってついて行きました。
 冥カカポチャンを連れて執務室に入るご主人様。

「さてと……じゃあまずは」

 そう言うと、ご主人様は冥カカポチャンのお腹の辺りをくすぐり始めました。

「カポー!カポー!」

「もう、逃げないの!」

 その様子を覗き見した黄カカポチャンは他のみんなにもその様子を伝えました
 みんな青ざめてから、絶対にご主人様に逆らう事はしないと心に誓ったようです。
 半日したくらいで、冥ちゃんは人間に、赤カカポチャンはカカポチャンの姿に戻りました。

 そして次の日、ご主人様はまたお屋敷を出て何処かに行ってしまいました。
 ただ、次は赤いおじいさんが来る時には帰ってくるからチキンよろしくね、とだけ冥ちゃんに伝えて行きました。
 それを聞いたカカポチャン達は、震え上がっていました。
 恐らく、ご主人様は食べる用のチキンのことを言っていたはずですが、カカポチャン達は自分たちの中で一番役に立たない者が料理されると思い込んで、毎日きびきびと働いています。


 ここは冥土。
 あの世でもこの世でもない。彷徨える魂たちが集う場所。
 メイドの冥ちゃんと3羽のカカポチャンがお屋敷で楽しく暮らす場所。

 今日もお給仕を終えた冥ちゃんは、お屋敷の屋根裏の自室で、現世と通信しながら楽しくお喋りをしています。

 そしてカカポチャンたちはと言うと、仲良くベッドで寝息を立てています。
 幸せそうに眠っていますが、楽しい夢でも見ているのでしょうか?
 夢の中で大空を飛び回っているのでしょうか?
 それとも、美味しいごちそうを食べているのでしょうか?
 みんな、時折笑い声をたてながらすやすやと眠っています。

 明日はなにがあるのかな?

おしまい

よろしければサポートいただければやる気出ます。 もちろん戴いたサポートは活動などに使わせていただきます。 プレモル飲んだり……(嘘です)