見出し画像

一隅を照らす

アフガニスタンが大変なことになっている。

”大国”の奢りと無策(気まぐれ)がこういう事態を引き起こしている・・・と、今までの私ならそう思っていただろう。その考えは、全く的外れでもないと思うけれど、あの国のボスが認知症というのは、黒幕がいるのだろうという想像がつく。日本だって、幼い天皇を据えて、外戚が好き勝手にやっていた時代があるのは、誰でも知っていること。だから、”大国”ではなく”黒幕”が主語。それから、「奢り」はその通りだけれど、「無策(気まぐれ)」じゃなくて、予定されている通りのことが実行されたとも思う。その話は、私も半信半疑だし、私が語る分野でもない。

*****

それはさておき、こちらの記事で紹介されている中村哲氏の講演の動画を視聴した。

中村氏は、1984年、ハンセン病患者の診療に当たるためアフガニスタンに赴任したが、この国の人々の健康のために、医療より安全な水の確保が大事だと思い至り、用水路を作り続けた。2019年に襲撃され、亡くなった。(「中村哲医師特別サイト」より)


この動画は、2016年に日本記者クラブで行われたときのものだ。

気になったところを文字に起こしてみた。

当時、世界的にハンセン病根絶達成という宣言が世界中で出され、で、私たちの地域も次々と医療チームが引き上げていきました。しかし、実際は患者が増えている。・・・そのときに知ったのですがね、話題性があるときは、人も金も物も集まりますけれど、話題性が去ってしまうとそこに問題があるにもかかわらず、金も物も人も消えてしまうということを体験いたしまして、・・・患者をほったらかしにして、計画が終わりましたからさようならというわけにはいかない、私たちとしましては、ここで独立した医療組織をつくり、現地に土着化する方針をとりまして、日本側からの補給が続く限り、患者を診るという姿勢を明確にしたのは、確か1998年ごろだったと思います。・・・
2001年の9月11日になりますと、ニューヨークの同時多発テロが発生いたします。もう、その翌日からですね、当時のアメリカの大統領のブッシュさんがアフガン報復爆撃などと言い出す、・・・この状態(ひどい飢饉)で空爆するのか、この状態の中で本当にテロリストがいるのか、・・・一般にアフガン人の感情というのは、親アラブ的ではありません。で、そこにもってきて国家というものがあいまいですから、・・・普通の人は普通に暮らしているわけですから、なんでそういう空爆を受けるのか分からないという状態・・・アフガニスタンに必要なのは、パンと水であって、この飢えて死にかけた人の頭上に爆弾をふりまくことではない、・・・大方の国際世論と言いますのは、アフガン空爆支持ということに傾いていったわけでございます。・・・
当時、世界中が戦争、アフガン空爆でヒステリックな状態になっておりまして、時々日本に帰ってきて、不本意な思いをしたのは、みんなテレビにかじりついて、まるで野球かサッカーのゲームを見るように、それを観戦している。

もちろん、中村氏は、ご自分の目で見、肌で感じたアフガニスタンの状況を語っておられる。でも、これは今の私たちについて語られているように感じた。他国のことではないということだ。「アフガニスタンの人々 VS 日本を含む先進国」の構図が、「日本の人々 VS 日本を含む先進国」になっていないだろうか。つまり、自分たちで自分たちを空爆(液体注入)して、それを観戦している。

また、タリバン悪し!という風潮でニュースが流されているようだけれど、この動画の中で、中村氏が一番仕事がしやすかったのは、タリバンが治めていたときだとおっしゃっている。別にタリバンを擁護しようとは思わないけれど、ある方向から見れば”悪”であっても、別の方向から見れば”善”というのは、いくらでもある。人々が善悪を語るときは、誘導されていることを意識しなければいけないと思う。

タリバン政権が倒れ、・・・また、世界中がコロリとだまされる。その当時盛んに流された映像は、極悪非道の悪のタリバンを打ち破って、絶対の自由と正義の味方、それから、その同盟軍を歓呼の声で迎えるアフガン市民の姿、女性を抑圧しておった象徴であるかぶり物を脱ぎ捨てて、自由をうたう若い女性たちの姿、これが盛んに流され、ま、それまで戦争に反対しておった人々も、まあ、そんな悪い人たちがやられるなら仕方なかったのかなという思いを残したまま、アフガニスタンは忘れ去られてしまったと思います。
実際には何が起きていたのでしょうか。これはケシ畑です。それまで絶滅に近かったケシ栽培は、米軍の進駐とともに盛大に復活いたしまして、数年を待たずしてアフガニスタンは、世界の麻薬の90数パーセントを生産するという、不名誉な麻薬立国に転落いたします。解放されたのは、麻薬栽培の自由、女性も解放されましたけれども、女性が外国兵相手に売春をする自由、貧乏人が餓死する自由、おべっかの上手な人々が儲けていく自由が解放されたと言って、私は決していい□□ない思います。それが少なくとも、私の周辺の、ごく一般的なアフガン人たちの感想です。

中村氏の愛用している言葉は「一隅を照らす」だ。最澄の言葉で、各自がそれぞれの場で最善を尽くせば、自分も、周りの人も輝くとの意味が込められている。この講演の最後にも中村氏がこの言葉について語った。

世界中を救うことはできない、身の回りからだと。どこでもいいから深いところに入れ、そこにはことごとく真実があるという言葉がありますけれども、我々は、ついですね、いろんな情報にあふれておって、あれもある、これもある、それぞれに大事なんですけれども、つい浅く広く表面的に流れやすいという中で、一つのことをじっと追いかけて真実を見きわめる、そこから何か真理が見えてきて、世界中を照らすことはできない、我々が生きている世界というのはそんなに広くないですね、・・・

広く浅く食い散らかしてきた私には、耳の痛い言葉だけれども、テレビもネットも切って、自分の五感に耳を澄ますことが必要だと思う。般若心経はその五感も苦しみの原因だと言うけれど、妄想を真実だと信じて取り込むってそれ以前の話。

人々がこの仕組みを意識しない限り、何度でも同じことが仕掛けられる。そして、悲しい思いをする人が量産される。

どうすればいいんだ?

アフガニスタンが世界中から蹂躙されても、中村氏は、「パンと水が大事、何事もなかったように仕事を続けた」と言う。

自分の身の回りでできることを、地味にやっていくしかないのだろうね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?