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18曲目: Elvis Costello And The Attractions「The Only Flame In Town」と和歌の技法について、など

曲名: The Only Flame In Town
アーティスト: Elvis Costello And The Attractions
作詞・作曲: Elvis Costello
初出盤の発売年: 1984年
収録CD:『グッバイ・クルエル・ワールド』[VICP-62857]
同盤での邦題: ジ・オンリー・フレイム・イン・タウン
曲のキー: E(ホ長調)

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2023年2月にエルヴィス・コステロがニューヨークで10公演を行った。弾き語りだったり、ゲストが加わったり、The Imposters(自分のバンド)がバックを務めたり、といった日替わりメニューのライヴだったようで(1986年を思い出す)、10公演のセットリストがマトリックス表の形式で掲載されているのを見たが、思わず笑ってしまった。

http://www.elviscostello.info/wiki/index.php/100_Songs_and_More

それによると、1公演平均25曲くらい歌っているが、1曲を除いてほぼ全曲が1回限りの演奏なので、マトリックス表が縦長の巻子本状態というか、マトリックス表にする必然性がまったく失われている。(笑)

演奏された曲(「のべ」ではなく種類で)は、全部で240曲くらいになるだろうか。持ち歌が1000曲以上あったと言われる、今は亡きスヌークス・イーグリンに次ぐ(?)膨大なレパートリーである。

終わりの方の公演では、わざとルールを破って2回演奏したものも数曲あるが、全10公演で毎回演奏された1曲というのが、「Alison」などの定番人気曲とかではなく、ニック・ロウ作の「(What's So Funny ’Bout) Peace, Love And Understanding」であった(まあ、これも多くの人にエルヴィスの自作曲と思われているほど定番人気曲ではあるが)。
しかも、この曲に日替わりゲストが参加する関係で、アレンジもその都度変わるという、なかなかに壮絶なものだ。

いくつかYouTubeで見てみたが、どの曲も歌詞や譜面などを見ている感じではない。まったく恐るべき記憶力である。
筆者自身を比較対象にするなんてエルヴィスには失礼な話だが、昔20分くらいのオープンマイクのミニライヴに参加するのでさえ、5曲程度の歌を覚えられなかった者にとっては、羨ましい限り。

マトリックス表の上に、エルヴィスのどのアルバムから何曲チョイスされたかを示す表が掲載されている。
やはり初期からの選曲が多くなりがちなのは納得なのだが、筆者が好きな『パンチ・ザ・クロック』とか『グッバイ・クルエル・ワールド』あたりは本人が気に入っていないせいか、取り上げられる曲数が少ないのは残念だ。

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エルヴィス・コステロの曲は難解だと言われる。シュールすぎて理解不能という意味ではそうかもしれないが、どういう技法が使用されているか、それなりに分かるものもあると思う。

特に初期の曲に使用されているテクニックは、興味深いことに日本の和歌と共通する点が多い。たとえば、
・掛詞(ダブル・ミーニング)
・縁語(関連する語句)
・本歌取り(引用)
などがそうである。

ちなみに、英詩にはあまりなさそうな和歌の技法ですぐ思いつくものは、
・縦読み(英詞では押韻や時に頭韻などを用いて、音で合わせる)
・枕詞や序詞(英詞に類するものがあるか不明)
あたりだろうか。

以前はエルヴィス・コステロの公式サイトに歌詞も掲載されていたのだが、いつの間にか引っ込めてしまったらしい。
「The Only Flame In Town」の歌詞は『グッバイ・クルエル・ワールド』CDにも掲載されているし(国内盤・輸入盤とも)、前述のサイト内にある歌詞ページにも掲載されているので、それらを参照していただければ。

http://www.elviscostello.info/wiki/index.php/The_Only_Flame_In_Town

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まず、タイトルの「The Only Flame In Town」にポイントが2点。このフレーズ自体がthe only game in townという慣用句(意味は調べてください)のモジリになっていること、「flame」はジャズのスタンダード「My Old Flame」を匂わせたものになっていること、である。
「flame」の意味は「炎」だけど、「My Old Flame」の歌詞においては「恋人」の比喩になっており(普通の辞書には出てこない)、「The Only Flame In Town」においても「flame」が掛詞として引き継がれている。
つまり、メインの意味としては「恋人」だけれども、「炎」絡みの語句が散りばめられており、「すぐカッカする人」の意味にも思えてくるのである。

♪僕の心をグチャグチャにした娘がいてね
♪その娘が「グッド・ナイト」とか「ゴッド・ブレス(※1)」って言うのを聞いたことがないんだ
♪彼女だけが街でただ一人の『flame』ってわけじゃないんだけど

(※1:これも別れの挨拶。コステロ本人もライヴの終わりでよく口にする。)

♪二人でいる時は揉めたりなんてしない
♪僕はボヤッとしてる(※2)からね、ここにはモラルがあるんだ
♪彼女だけが街でただ一人の『flame』ってわけじゃない

(※2:miles awayは文字通りだと「何マイルも離れている」だが、これも慣用句。)

♪彼女が街でただ一人の『flame』ってわけじゃない
♪僕がこの松明を持ってウロついてる(※3)って彼女が考えてるなら、大間違いだよ

(※3:torch=松明はもちろんflameの縁語だが、さらにcarry a torchは「片思いする」を意味する慣用句。ちなみに「トーチ・ソング」も同じ語源から来ていると思う。)

♪男がマッチ(※4)を擦って、女の顔を照らす(※5)
♪僕たちもマッチを擦って
♪何もかも焼き尽くす(※6)べきだったね
♪君だけが街で唯一の『flame』ってわけじゃないけど

(※4~6:match、lit、burnもflameの縁語。)

♪でも君は心変わりが激しくて
♪僕の心をまっ黒焦げ(※7)にしちゃった
♪日々が過ぎていくとともに
♪君はやさしくなくなり、すぐカッカする(※8)ようになっていくね
♪君だけが街で唯一の『flame』ってわけじゃないけど

(※7:cinderもflameの縁語。)
(※8:tinderはflameの縁語なだけでなく、cinderと押韻し、その前のtenderと酷似した音になっている。)

♪火中(※9)に君の顔を見た気がしたけど
♪思い出すのがすごく難しい
♪猛火(※10)でさえ冷やせば残り火(※11)になるんだ
♪君だけが街で唯一の『flame』ってわけじゃないけど

(※9~11:fire、inferno、emberもflameの縁語。「インフェルノ」は70年代の洋画やディスコを通っている人にはお馴染みの単語。)

「難解な歌詞」というと、すぐ「裏の意味」とか「隠された意図」みたいな謎解き分析になりがちだが、筆者はそちら方面にはあまり関心がない。

この歌を作ったきっかけとして、当時の私生活とかが関係しているのかもしれないが、それを知らなければこの歌は理解できない、というものでもなかろうと思う。

同様に、「なぜ途中で人称がsheからyouに変化するのか(ディランの「Just Like A Woman」みたい)とか、突然出てくるheは何者だ、といったことは考えない。無理に解釈しても仕方ない気がする。

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音楽面としては、ホール&オーツのダリル・ホールがハモリのヴォーカルで参加している。
そういえば、この曲のヴィデオでも客演していて、テレビのバラエティみたいなノリで演じていたっけ。

鍵盤のスティーヴ・ナイーヴもこの時期はヘアスタイルを五分刈りだか五厘刈りだかにしていて、モーリス・ワーム(Maurice Worm)と名乗っていた。事情はまったく知らない。
この曲の2:40を過ぎたあたりで、バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」のパロディみたいなフレーズが出てきて、思わず笑ってしまう。ヤンチャな人だ。


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