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19曲目: 皆川おさむ「黒ネコのタンゴ」とピック弾きベースについて、など

曲名: 黒ネコのタンゴ
アーティスト: 皆川おさむ
作詞: Mario Pagano、Armando Soricillo、Francesco Saverio Maresca
作曲: Mario Pagano
日本語詞: 見尾田みずほ
編曲: 小森昭宏
初出盤の発売年: 1969年
収録CD:『青春歌年鑑 ’70 Best 30』[SRCL 4904]
曲のキー: Bm(ロ短調)

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一昨年(2021年)だったか、大阪の天神橋筋商店街にある古本屋で『太陽がくれた歌声 ~ひばり児童合唱団物語・皆川和子の生涯~』という本を見つけた。
背表紙に書かれた著者名に心当たりがあったので、棚から抜き出して少し立ち読みした後、安価だったこともあり買うことにして家でじっくり読んでみた。

著者である皆川おさむは、やはり「黒ネコのタンゴ」を歌った本人だったが、ひばり児童合唱団の創設者(=皆川和子)の甥っ子さんだったというのは知らなかった。彼がこの歌を歌うことになったのも、それと関係していたようだ。なるほど。

本には、歌の録音が1969年7月20日に行われたと書かれてある。ちょうど録音スタジオにあったテレビでアポロ11号の月面着陸の様子を見ていたそうだ。そりゃ忘れられんわ。
(細かいことを言えば、時差があるはずだから、実際に歌入れが行われたのは翌21日の午前だったかもしれない。)

当時、彼は扁桃炎を拗らせたか何かで、ずっと声の調子がよくなかったらしい。
確かにところどころ声が裏返っているが、筆者は「そもそもキーが高すぎなんじゃね?」と思っていた。(本を読んだ今でもそう考えている。)
まあ、良い方に解釈すれば、出し切れていない声がこの童謡にちょっぴりソウルっぽさを感じさせる一因にもなっている。

童謡とは言っても、歌詞は子供向けとは思えない。別に下ネタの婉曲表現ではないし、同時期にヒットした「老人と子どものポルカ」みたいなメッセージ色が強いわけでもない。夜型の気まぐれな黒いメス猫?に対して、気を付けるよう忠告する、という歌だ。ニャ~オ。

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この曲で筆者が一番注意して聞いてしまうのが、ベースである。
ピックで弾いていると思われるサウンドだが、残念ながら、こういった古い歌謡曲の伴奏者は不明なことが多い。
筆者は当時のスタジオ・ミュージシャン、江藤勲が弾いているのではないかと勝手に推測しているのだが、ベース・マガジンによる追悼特集(2015年7月号)にもこの曲はリストに上がっておらず、誰がプレイしたのかは謎のままのようだ。

ご存知の方も多いかと思うが、ピックとは弦楽器をはじくツメのことである。オニギリ型などの小片をつまんで弾くタイプ(フラットピック)と、琴のように親指に付けて弾くタイプ(サムピック)があって、ベース弾きは前者が多いが、後者も60年代のイギリスのベーシストに意外と多くいる(ウィンウッド兄弟やチャス・チャンドラーなど)。

近年はスラップと呼ばれる(昔はチョッパーと言った)、弦を叩いたり少し引っ張ってベンベンバチバチいわせる奏法が流行っているので、昔よりピック使いは減ったかもしれないが、今でも独学やギターからの転向者などにピック弾きの人が多いように思う。

海外ならポール・マッカートニーが有名だが、スタジオ・ミュージシャンでも結構いる。
カーペンターズの音源で聞こえるベース(多くはジョー・オズボーンが弾いている)はほぼピック弾きの音と断言してもいいのではないか。

「黒ネコのタンゴ」に話を戻すと、普通もう少し音質を甘めにするような気がするが、この曲では硬質な音色で、いかにもピックを使って弾きましたというトーンになっている。筆者は特にエンディングのベースの音が大好きだ。

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ヴァース部分のリズムは2拍4拍のバックビートではなく、2拍めと3拍めのウラにアクセントが来る。ビーチ・ボーイズ「Don't Worry Baby」やバーズ「Mr. Tambourine Man」などで聞けるアレと同じ。

短い間奏を奏でているのは、ハープシコードだろうか?
60年代の曲では、まだ時々フィーチャーされていることがあるのだが、最近の曲では耳にすることがなくなった。筆者の考える時間軸では、ボブ・ディランの「Lily Of The West」のメチャ弾きが最後のような気がする。(単に忘れているだけかも?)

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この曲から30年後に流行った曲が「だんご3兄弟」というのも面白い。童謡とタンゴのリズムは相性がいいのだろうか?

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