大学英語への誘い②言語獲得理論Ⅰ
今回は言語(母語)習得理論Ⅰとして生成文法の言語習得説について少し紹介したいと思います。母語習得や母語獲得など様々な言い方がありますが、私の中では無意識で言語をマスターすることを獲得、意識下で学習することを習得と区別したいと思います。従って母語には「獲得」を使います。
言語にはまだ謎が多く解明されているわけではありません。その中で現在の主流言語学である生成文法ではどのように言語獲得が考えられているのかを説明したいと思います。
言語習得の謎
母語習得(獲得)には多くの謎があり北川・上山(2004: 11)で簡潔にまとめられています。
1. 獲得のスピードが速い:どの言語でも2〜3歳の間にある程度母語を流暢に喋れるようになります。スポーツなどに比べるとマスターするのが速すぎますね。
2. インプットに不備があっても獲得できる:周りからの発話をよく聞くとわかりますが、全てが文法的な文であるとは限りません。単語やおかしな文章もインプットとして入ってきますが、ほぼ全員母語を習得でき、ある表現が自然かどうか判断できてしまいます。
3. 基本的に全員獲得することができる:脳に大きな病気を抱えているなどの状況を除くとほぼ全員が母語を獲得できます。
4. 人間に特徴的である:人間のように複雑な言語を扱える種は他にいない。(チンパンジーなど人間に近い種は手などでの言語を扱えるが、2〜3単語で簡単なものしかできない+多くが欲求などの刺激-反応です。)
5. 人種や民族の壁は存在しない:血縁関係などは母語に関係ないですよね。(両親が日本人でもアメリカで生活すれば英語を母語として獲得できます)
5. 臨界期がある:ある一定の時期までに母語に触れなければ通常の母語獲得はできない
生成文法とは
初めに生成文法とは1950年代に最も有名な言語学者(認知科学など様々な分野の研究者ですが)であるノームチョムスキーによって提唱されました。
生成文法文法では言語は一般認知能力からは独立したものであると考えられています。(認知言語学とは逆の考え方です)
そして言語は統語論(単語の組み合わせ方)と単語で説明できるとし、文の形式に主な焦点が当てられます。
そして言語獲得に関しては、言語生得説を支持します。これに関してもう少し具体的にみてみましょう。
言語生得説
生成文法の言語獲得への仮説は「言語生得説」を支持する立場です。
先程のアイデアのほかに言語獲得に関して重要な考えがあります。
それが言語獲得装置(LAD; Language Acquisition Device)です。
生成文法では生まれつき(生得的に)言語を獲得するための装置であるLADが備わっていると考えます。そしてその核には普遍文法(UG; Universal Grammar)というものがあります。普遍文法とは言語全体に関する知識に関することで個別言語特有の知識とは異なります。
人間はまず言語一般に関する知識を持っていて、生まれてからある言語に触れることでUGから個別言語へと適応させるという立場をとります。
UGの効果
ではUG(普遍文法)によって言語の謎をどのように解決することができるのでしょうか。それぞれについてみていきましょう。
1. 獲得のスピードが速い→もともと言語一般に関する知識(UG)を持っているのだから速いのは当たり前
2. インプットに不備があっても獲得できる→もともとUGがあるのだから少し不備があったとしても獲得可能
3. 基本的に全員獲得することができる→人間誰しもがUGを持っているのだから言語に触れることにより誰でも獲得することができる
4. 人間に特徴的である→UGが人間に特徴的であるから
5. 人種や民族の壁は存在しない→UGは誰もが持っているから
5. 臨界期がある→普遍文法から個別言語へと最終的には変換しなければいけないため
いかがでしょうか。UGによって言語の謎の多くが解決されました。
一見完璧そうなこの理論にも反論は免れません。次に生成文法の言語獲得の考え方への批判をみていきましょう。
生成文法の言語習得説への批判
最も基本的なのはUGが見つかっていないということでしょう。生成文法初期から言われており、多くの研究者が探していますが未だ見つかっていません。つまりまだ仮設の段階にとどまっているのです。しかし、これは決定的な否定とはなりません。まだ見つかっていないだけで存在する可能性はあるからです。
次の批判としては一般認知能力を使うことでも言語習得を説明できるということです。人間の言語に特徴的なことは多いですが、同時に人間の一般認知能力に特徴的なことも多いのです。そのようなことを考えると人間に特徴的な一般認知能力を言語が反映しているため言語も人間に特徴的になるという仮説も十分考えられます。このような考え方は認知言語学で詳しく論じられ、この立場では生得的ではなく人間の学習能力こそ言語獲得に影響を与えるというものです。
つまり
生得的な言語装置(生成文法) vs 人間の学習能力(認知言語学)
です。
まとめ
いかがだったでしょうか。
生成文法は現在主流の言語学理論であり、とても魅力的かつ様々な謎を解決してくれました。今後普遍文法にあたるものが見つかるのか期待して待ちましょう。
最後に認知言語学について少し触れました。これについてはまた他の記事で扱いたいと思います。
ありがとうございました。
<参考文献>
北川善久・上山あゆみ. 2004. 生成文法の考え方:英語学モノグラフシリーズ2. 東京:研究社
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