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70年代の住空間に現代の家具を合わせて、息を吹き込む。

鼎談

インテリアスタイリスト 川合将人 ×  LAPIN ART 坂本大/関電不動産開発 中平英莉 

1950年代にパリに渡り、ル・コルビュジエ、シャルロット・ペリアン、ジャン・プルーヴェといったモダニズムを代表する建築家やデザイナーと協働しながら、個人邸や集合住宅、商業施設に公園など多くの建築を残した進来廉(すずき・れん)氏。彼が1970年代に手がけた住宅が千葉県野田市に今も残っています。
 
その建物を借り受け、デザインやアートの新たな発信の場「BUNDLE GALLERY」としてよみがえらせたインテリアスタイリストの川合将人さんに、「わたしの部屋」のディレクションを担当するLAPIN ARTの坂本大さんと関電不動産開発の中平がお話を伺いました。今回はその後編です。

前編

視界を広げるスキップフロア

坂本:この建物は一軒家でありながら壁が少なく、ダイニングとリビングがワンルームに収まっています。集合住宅の間取りにも通ずるものがあるのではないかと思いました。
 
川合:進来さんは、空間を明確に分割せず一連のものとして捉える視点を持っていたのだと思います。
 
坂本:スキップフロアによる段差が効果的に作用していますね。
 
川合:段差の上と下で空間の見え方が変わりますし、階段部分に腰掛けるなど自由な使い方ができるというのは、僕もここに滞在するようになって実感しています。
 
中平:天井、壁、ドアの天然木が気持ちよく目に入ってきます。
 
川合:この部屋で使う色は、壁の白、天然木の茶、玄昌石の床の黒、暖炉の緑の4色と決めていたらしくて。このカラースキームを考えたのは、施主である茂木さんご自身でした。いまはないですが、玄関ホールや洗面所の収納扉も緑でした。
 
施主の茂木さんがここで生活したのは、最初の2年ほどだけだったそう。母屋があるとはいえ、50年近くほぼ使われなかった建物の存在を、知人を介して知ったインテリアスタイリストの川合将人さんは、この家を借り、必要な修繕を施し、2022年、アートやデザインの発信の場やスタジオとしてよみがえらせました。

庭の緑とリンクするアクセントカラー

坂本:川合さんは、BUNDLE GALLERYとしてこの空間をよみがえらせるのに、どのくらい手を加えたのですか?
 
川合:実をいうと、僕が借りる前に別の方がすでに手を入れてしまっていて。僕は、昔の写真や茂木さんのお話を参考に、それをできる限り元の状態に戻していったんです。
 
中平:暖炉の緑のモザイクも当時のままですか?
 
川合:意匠は当時のままですが、バイオエタノールの暖炉に変えています。この緑のモザイクガラスは、進来さんがヨーロッパで見たものを再現しようと、それに近い材料を日本で探し当てて制作したものだと聞いています。一部がはがれていたんですが「名古屋モザイク」というメーカーにほぼ同じものがあったので、取り寄せて補修しました。
 
中平:同じものを探し出すことができたなんて、建物を大切に残したいという強い気持ちがなければできなかったことだと思います。バスルームのタイルも緑に合わせているんですね。
 
川合:あの色は僕が決めさせていただきました。バスルームやキッチンは昔のものがすっかり取り除かれていたので新規で入れたのですが、その際にも、茂木さんのカラースキームを意識しました。それから、パリ時代に、進来さんがコルビュジエの弟子のギリシャ系フランス人の建築家・ジョルジュ・キャンディリスさんの事務所にいたことを知り、彼がデザインした照明をヴィンテージで探し当て、サンルームやエントランスに設置しています。出来るだけこの家が持つストーリーに繋がるもの選びをしたくて。とても楽しくやりがいのあるプロセスでした。

70年代の空間に最新インテリアを合わせる

川合:リビングのセンターテーブルは、北側の庭で大きくなりすぎてしまって伐採せざるを得なくなった巨木を、茂木さんがテーブルに加工して取っておかれたものです。
 
坂本:そこにもストーリーがあるんですね。家具は、新旧のものを組み合わせていますね。揃え方のセオリーはありますか?
 
川合:ここでは、基本の4色が決まっているので、できるだけそれに即して考えましたね。インテリアスタイリストの仕事でも、カラースキームを作った上でコーディネートすることが多いです。
 
坂本:白、茶、黒、緑、ですね。
 
川合:奥の丸みのあるソファはスウェーデンの建築家、ヨナス・ワゲルがイタリアの「Tacchini(タッキーニ)」という家具ブランドのためにデザインしたものです。手前の箱型のソファも「paradisoterrestre(パラディーソテレストロ)」というイタリアのもの。どちらも僕が敬愛するブランドのシーティングです。
 
中平:川合さんによりこの部屋に質感の違う現代の白がプラスされ、洗練度が増した印象です。
 
川合:縦長の黒い照明は、セルジュ・ムーユです。こうして色の繋がりを作りながら、あくまでも建物の雰囲気を邪魔しないように。心地いい間を取りながら配置することを意識しています。

部屋全体を見渡せる特等席の幸福

川合:スキップフロアのダイニングスペースには、デンマークの「FRAMA(フラマ)」のテーブルを合わせました。
 
坂本:ダイニングは北側のサンルームに面したコンパクトなスペースですが、そこにちょうどいい大きさですね。揃いのチェアの座り心地もよくてリラックスできます。
 
川合:サンルームでくつろぎながらリビングの先の庭のグリーンも見渡せる、この家の特等席です。
 
中平:川合さんがこれまでのお仕事の中で培ったインテリアやデザインの経験や知識が、この家全体を引き立てているということが、とても素敵です。
 
川合:進来廉さんという建築家がいたことも、名だたる建築家やデザイナーと交流し建築を残した経歴も、日本ではあまり知られていません。同じように、知られざるよきデザインの家具やプロダクトは、世界中にまだまだたくさんあります。この場所を拠点に、そういうものを発信して紹介していけたらと思っています。

エクステリアは細部までとことん美しく

坂本:最後にエクステリアです。
 
川合:玄関やガレージ周りの塀が屋根の構造に繋がっているという、珍しい構造です。Rの取り方にコルビュジエの影響が感じられるところもありますよ。ここはリビングの窓と窓の間。雨戸が機能的に収められています。
 
坂本:リビングのコーナーで交わるガラス窓の収まりも、とても美しい。
 
川合:ガラスとガラスが合わさってコーナーになる部分をコーキングだけで合わせているなんて、相当とがった建築だと思います。
 
中平:今ではできないですね。
 
川合:庭には常緑樹もあるので、一年中、必ずどこかに緑があって、リビングの白壁に木の影が落ちます。西日の時間帯には、玄関まで一直線にスリット状の光が入って幻想的な景色を作ることもあったり、それだけでもアートになる。そんな建物に出会えたことが嬉しいですし、大切に生かしていきたいと思っています。
 
 
構成・文 衣奈彩子
写真 米谷享

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専有面積 68.52㎡(約20.72坪) 
ドライエリア面積10.30㎡ サービスバルコニー面積2.40㎡ ポーチ面積4.99㎡

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