見出し画像

モダニズム建築の知られざる建築家・進来廉が手がけたM邸の快適。

鼎談


インテリアスタイリスト 川合将人 ×  LAPIN ART 坂本大/関電不動産開発 中平英莉

1950年代にパリに渡り、ル・コルビュジエ、シャルロット・ペリアン、ジャン・プルーヴェといったモダニズムを代表する建築家やデザイナーと協働しながら、個人邸や集合住宅、商業施設に公園など多くの建築を残した進来廉(すずき・れん)氏。彼が1970年代に手がけた住宅が千葉県野田市に今も残っています。
 
その建物を借り受け、デザインやアートの新たな発信の場「BUNDLE GALLERY」としてよみがえらせたインテリアスタイリストの川合将人さんに、「わたしの部屋」のディレクションを担当するLAPIN ARTの坂本大さんと関電不動産開発の中平がお話を伺いました。今回はその前編です。

外と内を緩やかにつなぐ建築の快適さ

坂本:この建物が建てられた背景を教えてください。
 
川合:もともとこの土地にご両親が住んでいらしたオーナーの茂木さんが、1974年に建てた住宅です。奥にご実家である母屋があって、ご結婚を機に新居として同じ敷地内につくりました。海外のコンテンポラリーアートなどに詳しく、お好きだったこともあって、母屋の日本建築とは
全く異なるモダンな住宅を希望されていたところ、その分野に詳しい知人に紹介され、建築家の進来廉さんに設計を依頼したそうです。進来廉さんは、1950年に前川國男建築設計事務所に入所した後、55年にパリに渡り、ル・コルビュジエらと親交を深めた建築家でした。
 
中平:私たちが座っているソファの後ろは壁ですが、その方角に母屋があるんですよね。視線が交差しないよう配慮された設計なのでしょうか。
 
川合:その通りです。母屋は築100年以上の趣のある日本家屋で二階建てです。そちらから見たときの景観を損なわないようにと平屋建てにこだわり、壁と窓の配置に工夫を凝らしています。
 
坂本:窓の上部にスリットがあることで、カーテンを閉めても光が入り込み、夜には自然な暗闇を感じることができそうですね。
 
延床面積132㎡超の平屋造り。リビングは約36㎡で、南側と西側の開口部がピクチャーウインドウとして、四季折々の庭の景色を室内に取り込みます。写真右側の天井に見える鋼材の白い梁は、そのまま屋外へと突き抜け、視線を奥へと誘い空間を広く見せています。

アートを鑑賞するために、壁を多く設ける

中平:オーナーの茂木さんはアートがお好きで、作品を鑑賞することも考えていたから、白壁で天井高のあるリビングになったのでしょうか。
 
川合:「アートや家具が映える建物であること」が茂木さんの希望でした。いま壁に掛けているのは、僕がセレクトした鹿児島県で活動する川井田建晃さんの作品です。この壁の他に3箇所ほど、絵画をかけるためのステンレスのフックが打めこまれています。
 
中平:あらかじめ、飾る場所まで想定していたということですね。
 
川合:ある程度は決めていたのでしょう。他にも「建物の外と内が融合するような雰囲気であること」、「一部をスキップフロアにすること」など具体的に提案されたと聞いています。それを踏まえて進来さんは、空間構成の自由度が高い壁構造を提案し、開放感のある建物になりました。
 
坂本:建物の外と内が融合するという点で、天窓は、真上からではなく横から光が注ぐんですね。光が壁に当たることによって、外光を身体の近くに感じられます。
 
川合:晴天の強い光もあれば、穏やかな柔らかい光もあり、見え方は毎日変わります。曇天でもある程度光が入るので、僕は、あえて照明をつけずに過ごすことも多いですよ。
 
坂本:カーテンレールに照明が埋め込まれているんですね。このように割り切った照明計画は、この時代には珍しかったのではないでしょうか。
 
川合:そうですね。加えて、好みのフロアランプを選んで自由に置けるように、コンセントの配置から綿密に計画したのだと思います。

70年代当時の部材は、いま見ても新しい

坂本:ドアにも特徴がありますね。木目が浮き上がっています。現代では見かけない仕様ですが、素材は何ですか?
 
川合:米松です。木目が深く粗めなところがかっこいいですよね。浮造り(うずくり=木材の表面を何度もこすり木目に凹凸をつけて年輪を浮かび上がらせる仕上げ方法)のような仕様だと思うんですが、詳しいことは分かりません。
 
中平:最初はもっと粗々しい表面だったのかもしれませんね。使ううちに経年して味わいを増していきそうな素材です。
 
川合:驚くのは、この極端な浮造り仕上げの米松の面材が、当時の規格品として流通していたようだということなんです。
 
坂本:そうなんですか。復刻できないのでしょうか。レバーハンドルもいまでは手に入らないデザインですよね。細くてすっきりとしていて。小さめですけど、これくらいの方がかっこいい。こういうの、取り入れてみたいなあ。

ル・コルビュジエや前川國男ゆずりの大扉

川合:玄関ホールとリビングを隔てる大扉も、ドアと同じ米松です。
 
坂本:玄関から入って、こんなダイナミックな大扉に迎えられるなんて圧巻です。一般的なドア幅の1.5倍くらいはありますね。
 
川合:進来廉さんは、パリに渡る直前まで前川國男さんの建築設計事務所で働いていました。こうした大扉は、前川さんが設計した「旧前川邸」にも取り入れられていますよね。コルビュジエもやっていますから、その影響は大きいと思います。
 
坂本:回転扉のような構造なのですか? 
 
川合:回転軸を壁から少しずらしているため、こちら側にもあちら側にも開く構造です。リビング側に開くと、スキップフロアにあるダイニングとこちらを隔てるゆるやかな目隠しのようにもなります。
 
坂本:完全に開けると部屋の開放感が増しますね。
 
川合:窓を開ければ、リビングから玄関まで風が抜けますね。

視界も、風も、遮りすぎないカーテン選び

坂本:風が抜けるといえば、このカーテン! 光を適度に遮りながら、柔らかく風になびく感じがとてもいいですね。
 
川合:外と内がつながるこの部屋の雰囲気を保つのに、カーテン選びはとても重要でした。外から部屋の中が見えない程度の厚みがありながら、光を適度に遮り、一枚でこと足りるものを選び抜きましたね。「Kvadrat(クヴァドラ)」で取り扱いのあるドイツの「SAHCO(サコ)」というメーカーのものです。
 
坂本:床のタイルの黒とのコントラストも効いています。
 
川合:このタイルは玄昌石(げんしょうせき)といって、いわゆるスレートです。窓を挟んで屋外のテラスまでつなげることで、内外が一体となって実際の面積以上に広く開放的に見せる効果を生んでいます。隣りに立派な日本家屋があることもあり、茂木さんは「この家では日本の家の香りをなくしたかった」と考えていたようです。建築家の進来さんは、ヨーロッパで会得した素材使いやディテールへのこだわりを積み重ねることで、その希望を現実にしていったのだと思います。
 
後編に続きます。
 
構成・文 衣奈彩子
写真 米谷享

後編

関連記事

販売中/阿佐ヶ谷ハウス「わたしの部屋」随時内覧のご予約を受付ています

1LDK+N+WIC メゾネットタイプ
専有面積 68.52㎡(約20.72坪) 
ドライエリア面積10.30㎡ サービスバルコニー面積2.40㎡ ポーチ面積4.99㎡

予約方法
メール もしくは ホームページの問い合わせより氏名・緊急連絡先・人数・ご希望の日時を記載の上ご連絡ください。
担当よりメールにてお返事致します。

-----
 SNSアカウントをフォローし記事の更新を知る
 ▶ Instagram
-----
 「わたしの部屋」のプロジェクトコンセプトとメンバーについて知る
 ▶ わたしの部屋ホームページ
-----
 「わたしの部屋」は阿佐ヶ谷ハウスの一室に生まれました/販売中
 ▶ 阿佐ヶ谷ハウスホームページ
-----

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?