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都市型集合住宅ビラ・モデルナが目指した、ホテルライクな暮らし。

鼎談
興和商事株式会社 取締役 新槇照代 ×  LAPIN ART 坂本大/関電不動産開発 中平英莉

東京・青山の路地にそびえる高層マンション、ビラ・モデルナは、興和商事株式会社が計画したビラ・シリーズの一つとして坂倉建築研究所の設計により1974年に竣工した、SRG造、地上10階地下2階の建造物です。当時、流行の中心地となりつつあった青山周辺を拠点に働く人々をターゲットに、職住近接の暮らし方を提案しました。ビラ・モデルナが目指したものとは?

興和商事取締役の新槇照代さんに、「わたしの部屋」のディレクションを担当するLAPIN ARTの坂本大さんと関電不動産開発の中平がお話を伺いました。 

仕事と暮らしが一体化した住空間

坂本:ビラ・モデルナのギザギザとした外観、これを見ただけでは居室がどのようになっているのか全く想像がつかないのですが、今日はお部屋を見られるとあってとても楽しみです。そもそも、青山のど真ん中に何故このような構造の建築物を建てたのでしょうか。

新槇:ビラ・モデルナは、ビジネスと住居が一体化した、今でいうSOHOのような住空間を目指していました。リモートワークの先駆けともいえますね。ビジネスを円滑に運び、行動を起こさせるような空間です。

70年代、青山周辺には流行に敏感な若者が集まるようになり、1976年にはファッションビル「青山ベルコモンズ」がオープン。ビラ・モデルナのコンセプトは、都会の真ん中で寝る間も惜しんで魅力的に働く人々が、アクティブに暮らせるミニマルな生活空間でした。

新槇:建物から一歩も出ずに1日を終わることもできるよう、中庭に面した地下1階にはレストランを併設し、打ち合わせに使えるラウンジスペースや、ホテルクオリティのサービスを提供するフロントデスクを設置したのです。まずは、居室を見てみましょう。


視界を遮りながら採光するミニマルデザイン

新槇:ビラ・モデルナで最も多い間取りは、約20㎡のワンルームタイプです。部屋数は162戸あります。

坂本:外から見た時のあのギザギザの部分は、部屋の奥のこのスペースですね。外観の面の一部のように見えていたのは、天井から斜めに張り出した窓だったんですね。

新槇:同じ間取りの部屋がとなりあって、ギザギザした外観を織りなします。上から光が入る設計により、外からの視界を限定しながら採光できるので、カーテンがなくともプライベート感と心地よさの両方が保てるんです。

坂本:窓は決して大きくないですが、上に配置することで余計なものが視界に入ってこないということもありますね。ここから見上げるビラ・モデルナの外観もすごくいい。反対側の棟や、ここへ来るまでに歩いた渡り廊下のディテールもより近くに見えますし、建築やデザイン好きにとっては、たまらない住空間ではないでしょうか。

新槇:かつては、住宅棟と事務所棟に分かれていました。

坂本:作りつけのデスクとライトは当時のままですか?

新槇:そうですね。フローリングは張り替えていますが、部屋の奥の部分は昔のままです。


他に類を見ないデザイン性が心地よさを作る

新槇:ビラ・モデルナでは、水回りのデザインも他に類を見ないものになっています。ビラシリーズの建築デザインは、興和商事の創業者・石田鑑三が世界中を旅して見聞したさまざまなものがインスピレーションになっています。

坂本:こんなシンクは見たことがないですね。三角形にすることで、必要最低限の機能を無理なく備えつつ、この小さなスペースに美しく収まるのですね。

新槇:かつては、シンクの隣に電熱ヒーターもありました。バスユニットは、オリジナルで開発した未来的なデザインで、当時のままが残っています。オプションで、収納できるベッドや家具のユニットも用意されていたんですよ。

坂本:まさに都会の中の都会を意識したワンルームマンションですね。引き算して必要な機能だけに割り切り、ミニマルに徹したところがかっこいい。きっと流行に敏感な住人が続々と集まったのでしょうね。

新槇:1974年の青山は、まだそれほどお洒落な街ではなかったと思うんです。ビラシリーズを計画した石田には、時代の一歩先をいく感覚があったのかもしれません。流行の中心地になるかどうかという時期に、この街のこの場所に、よくぞこれだけの建物を建てたなと感心します。

中平:この建物があることによって人が集まったところもあるかもしれないですね。生活と仕事が近くにある暮らしというのは、ホテルのようでもあります。石田さんが都市生活に向けて提案された新しい価値観によって、時間を効率的に使い余裕のある暮らしができたのではないでしょうか。


ホテルライクな暮らしを実現する

坂本:エントランスの回転ドアにも、ホテルライクな暮らしの提案が垣間見えます。

新槇:床のタイルは、石田が気に入ってイタリアから輸送したものです。建物の内側と中庭の広い範囲で使うほどこだわったようです。ホテルライクといえば、つい2年前まで、フロントで住人の方の鍵や郵便物をお預かりし、その都度、手渡ししていました。

中平:この時代に? 本当ですか? 

新槇:そうなんです。フロントの者との顔の見える親密なやりとりに安心感を抱いて、居心地の良さを感じてくださる方が多かったのでずっと続けていたサービスだったのですが、個人情報の取り扱いやセキュリティなどの問題を考慮して、やむなくストップすることになりました。オートロックや郵便ポストに変えたのですが、長く入居していらっしゃる方は、なんだか寂しいとおっしゃいますね。

ビラ・モデルナの各部屋には、フロントやレストランにつながるインターホンがあったり、共有施設として、洗濯室やダストシュート、コピー室があったり。建物の中で仕事と生活が完結するきめ細やかなサービスが行き届いていました。

坂本:ホスピタリティにあふれた管理体制だったんですね。そういうお話を聞くと、都会の真ん中であっても、住空間というのは、ただ寝に帰る空間ではないのだと実感しますね。


古きをリスペクトし新しきを許容する

坂本:いまラウンジにある木のテーブルは?

新槇:これは、地下1階にあったイタリアンレストランで使われていたものです。レストランの壁にはイタリアで買ったお皿を埋め込み、装飾としていました。

坂本:テーブルを別の用途で使い続けていることをうかがって、興和商事の方々が、建物やものに残された思い出にも価値を見出していらっしゃることを感じました。これだけの歴史とコンセプトがある場所に置かれていたものには、もの以上の価値や尊さがありますね。

中平:そうしたことをとても大事にしている興和商事さんの気持ちが素敵だなと思いました。新槇さんが現在の集合住宅に求めることはなんですか?

新槇:ビラ・モデルナは、今、全て事務所として賃貸しています。この数年は、入居する方の年齢層が若くなって、運営の仕方も変えていく必要があると感じています。フォトジェニックな建物なので、背景として写真を撮りに来る方も稀にいるのですが、フロントの者がお声がけしてご遠慮いただくこともあります。必要な時にはそういったコントロールをして、古き良き建物の雰囲気を維持していきたいと思いますね。

中平:ビラシリーズは、新築と変わらないほどの価値を維持しています。資金力がある若い方の入居も多いのでしょうか。

新槇:区分所有者には、IT関係やクリエイターの方などが多い印象です。古きにこだわるだけでなく、入居者の方が手がけた絵画作品をラウンジに飾るなど、住人の方とともに住みよくする工夫も重ねていけたらと考えています。

おわり

構成・文 衣奈彩子
写真 米谷享

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