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胃瘻造設について考える

5年前にともに活動していた仲間と共に医療情報サイトに掲載していただきました。今日はその当時の文章をほぼそのまま投稿しています。


1、胃瘻は望んでいないと思う


新しくできたばかりの介護施設で看護師兼相談業務をしていた時、私は看護師人生の中で忘れられない出来事と遭遇した。その施設は、他と比べて比較的医療依存度が高い人達が多いのが特徴だった。

 入院在院日数がオーバーしそうになると家庭の事情で在宅介護が難しい患者が、「入所者」となって介護施設に移られてきた。

 当時80歳代後半の男性Aさんは、経腸栄養剤(エンシュアリキッド)に増粘剤を加えて摂取できていた。だが、徐々に嚥下機能が低下し誤嚥性肺炎を発症した。医師から意思疎通が図れないAさんの代わりに、長男に胃瘻造設について説明が行われた。胃瘻のメリットとデメリット、胃瘻という手段をとることで生命維持できること、胃瘻があることで施設入所が可能なこと……。話を進めていくなかで、長男の表情が一瞬にして変わったのが分かった。医師は足早に診察を終えて病院へ帰って行った。

 医師の診察が終わり、私は長男に声をかけた。

「先生のお話をどのようにお感じになられましたか?」
「親父はそんなこと(胃瘻)は望んでいないと思う。親父は、腹に穴を開けて管から食事したいなんて思っていないと思う。この年になって 身体を傷つけるのはかわいそうだ」

 長男の怒りと葛藤の矛先が 私に向けられているのが分かった。「納得のいかない治療は受けて欲しくない。その一心で、私は主治医の元を訪ねた。
「Aさんの長男さんが、胃瘻造設について疑問を感じておられます。他の手段はないのでしょうか。もう一度お話しする時間を作って頂けないでしょうか?」
「時間を作ってもいいけど 何度話をしても変わらないと思うよ。だって家で介護できないんでしょ。施設に行くなら胃瘻があったほうが受け入れてくれるし」

 外来受診の日 再度、長男と主治医との面談が行われた。
 
「この年になって管をお腹に入れるなんて、本人にしっかりとした意思があればやらないと思う。他に手段はないのでしょうか」
「食事ができなければ、点滴をしなければいけません。入院するにしても何の治療もしないのに、ずっと入院しておくことは難しい。特別に長期入院というのも難しいのです。在宅介護はどうですか? 在宅介護をするにしても、胃瘻がある方が介護しやすいですよ。まずは胃瘻ができるかどうか検査したいのですが、よろしいですか?」

 医師の答えに 長男は為す術がない様子だった。

 

2,医療の常識


どうしようもない状態に、私は誰かの救いが欲しかった。納得のいく治療をしていただきたいのに、何か不完全燃焼。とても後味が悪い。そして病院師長の元を訪ねる。

 私は、師長に今までの経緯を話した。

「胃瘻を拒否されているのね。でもね 今の医学では(胃瘻は)当たり前のことよね。私の両親が同じ状況になったら 先生にお願いすると思う」

 医学の当たり前って何、医学が中心の治療なの? 私はどうすることもできず落胆した。

 胃瘻造設をめぐり、Aさん家族は話し合った。看護師である県外にいる娘達も集まり、治療の方向性を話し合った。その答えは胃瘻を造設することだった。

 胃瘻造設を終え、Aさんは施設に戻って来られた。面会に来られる長男の表情からは、父が望んでいるであろうことを実行できなかった申し訳なさや、親父らしさが消えた姿に寂しさを感じているのが分かった。

 かつて、延命治療に関して医師に聞いたことがある。

 医師の答えはこうだった。

「医師になる教育の学びは治療をすることだ。看取りのように、見守る治療は職務を放棄したような気がして、罪悪感にとらわれるんだ」

 医師は、医師としてベストを尽くしているのだ。

 医療現場の現状を踏まえ、日本老年医学会は人工栄養などの延命処置を高齢者の治療に用いる際のガイドラインを公表、近年は胃瘻を造設する患者が少しずつ減っているとの報告もある。しかし反対に、経鼻栄養をしている患者は増えているという病院もある。

 

3,終わりに


今は食事が食べられなくなった時の対応は、私が勤務する病院ではほとんどが家族に聞いているのが現状である。治療の選択は、本人の意思によるのが望ましいと思う。今の団塊の世代の方達が高齢者となり介護が必要になったとき、胃瘻の選択という課題は変化しているかもしれない。でも、衰退していく身体を予測して、治療の方向性を家族で話し合っておくのも大切だと感じる。

 これから超高齢化社会となり、病院のお世話になる方も増えてくる。病気があっても、年を重ねて衰退していく身体であっても、それぞれの価値観、人生観、死生観に応じた治療の選択ができる世の中であって欲しいと切に願う。


4,意見は違っていい

今月も親のみとり意見交換会を開催します。意見交換の中で人と違う意見があるかもしれません。
それは当たり前のことです。人と同じ意見である必要はありません。
それぞれの環境や病状などで、一人一人選択が違うのが当たり前です。

参加された方の一つの意見を参考にしたりそれぞれの思いを聞き、共有すru
だけで気持ちが楽になったり安心することもあると思います。


QRコードを読み取り頂くと申し込み出来ます。





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