対話を通して見えたもの。「社会に参加する」ということについて
はじめに
僕にとって”社会に参加する”とはなんだろう。
そんなことを考えさせられる2日間だった。
1/18~1/19に、「三三三市 おっ玉手箱!」というイベントでBooked読書会イベントを開催した。
Bookedは「本を読まずに参加できる」というコンセプトの読書会で、これまで永田町Gridをメインに活動している。
今回は季刊誌『BIOCITY』とコラボして、2020年1月刊行の81号「社会を変えるクリエイティブソリューションズの現場」の出版を記念し、著者のstudio-Lさんを招いてトークショーを行った。
そのイベントで交わされた話がとても刺激的だったので、印象に残ったことを書き起こそうと思った。
イベントの概要について
BIOCITYとは「環境から地域創造を考える総合雑誌」。アートやデザイン、教育など多様な視点から地域創生や環境問題について先進的な事例などを紹介している。
最新の81号のテーマは「社会を変えるクリエイティブソリューションズの現場」。studio-Lさんがアメリカの東海岸を視察し、地域課題をクリエイティビティで解決した事例を紹介している。
イベントは大きく2部構成。
第一部はトークショー。
ゲストスピーカーを交えて記事にまつわるお話や意見をいただいた。
第二部はワークショップと交流会。
参加者とゲストスピーカーを交えて、第一部にまつわる質疑応答だったり、特に深掘りしたいテーマについて全体でディスカッションをした。
今回取り上げたのは2つの記事。
1.学校教員の学びを支援:ブルックリン公立図書館の取り組み
2.学ぶ環境を全力で支えるNYのコミュニティスクール
18日に1つめの記事、19日に2つめの記事について、studio-Lさんやゲストの方々を交えてトークセッションをしてもらった。
イベント1日目:ブルックリン公立図書館
まず1日目。ゲストは以下の3名の方々。
太田未来さん(studio-L)
高山由貴子さん(東京都立中央図書館)
長名大地さん(東京国立近代美術館)
記事について、studio-Lの太田さんが解説してくれた。
ブルックリン公立図書館では、子ども向けの教育支援として様々な講座をしていたり、保護者に対する子どもとの遊び方講座だったり、ベビーシッターに対するワークショップだったりを開催している。
そんな中で、特に2014年から開催されているティーチャー・ラボという事例についてメインに紹介されている。
そこでは、先生向けに図書館の使い方だけでなく、SNSの使い方や教材として適切な資料のググり方などの情報リテラシーを身につけてもらうなどの取り組みをしている。
上記のように、図書館という場所で、様々な市民たちの学びと体験が提供されている。従来の図書館からイメージされる役割からはだいぶ離れた事例。
また、国内でのstudio-Lさんの類似の取り組みとして、記事内にも出てくる「アンフォーレ」も紹介された。
そうした話を踏まえ、高山さん(東京都立中央図書館)と長名さん(東京国立近代美術館)を交えて、国内の図書館は何ができるのか、その可能性について話をしてもらった。
イベント2日目:コミュニティスクール
2日目は、ゲストは以下の2名の方々。
出野紀子(studio-L)
藤元由記子さん(BIOCITY編集長)
記事について、出野さんが解説してくれた。
コミュニティスクールとは、公立の学校であり、コミュニティ内外の組織や団体と組んで運営されていることが特徴。
そこでは単なる学校としての機能を超えて、市民生活を支える場所となっている。
アメリカでは連邦が示す貧困の基準を下回る子どもは2割に上ると言われているが、出野さんによると、実質的な生活コストなどを鑑みると、約4割が低所得の世帯に暮らしていると考えられるらしい。
コミュニティスクールでは、そうした環境にある教育を受けられない子どもを救うことで、地域の活性化に貢献しようとしている。
しかし、学校だけが変わっても、そうした地域の活性化への貢献は小さい。だからこそ、学校に通う生徒の親や卒業生に対しても生活を助け、地域市民全体が自立した生活を送れるように支援している。
例えば、英語が母語ではない家庭がいたら、英語の講座を保護者にも開催したり、法律の相談を受けたり、学校にある洗濯機(企業から寄付されたもの)のを無料で使えたりする。
いわゆる学校に期待される役割を超え、多様なサービスが支給されている。そして、それを主導するのは行政ではなく、先生たちであり、支援する企業や地域コミュニティであるというのは印象的だった。
ディスカッションを通して思ったこと
両日とも、トークが終わったらディスカッションを参加者全体で行った。
様々なディスカッションを通して、1日目と2日目に共通した疑問は以下だった。
なぜ、日本でこうした取り組みが生まれないんだろう?
なぜ、アメリカではこうした取り組みが生まれたんだろう?
これについてディスカッションの中で、個人的に、3つのレイヤーで日本とアメリカ東海岸との差があるんじゃないかということを感じた。
1.社会の差
2.組織の差
3.個人の差
それぞれ以下で見ていく。
1.社会の差
これは、社会問題の見えやすさという違い。例えば、アメリカだと多様な人種がいて、格差の問題や差別の問題などが目に見えてわかる。
一方で、日本では相対的貧困が7人に1人と言われるくらい、貧困が社会問題になっている。給食だけで食いつないでいる子どもなどもいる。しかし、そうした人を明確に区別できるか、というと難しい。
こうした問題が見えづらい構造が、日本の大きな特徴なのではないか、と話があり、なるほどと思った。
2.組織の差
2つの記事の話を通して、アウトリーチという言葉が共通項だと感じた。アウトリーチは、「これまでサービスが及ばなかった人に対してサービスを広げていくこと」。
ブルックリン公立図書館しかり、コミュニティスクールしかり、取り組んでいるサービスが、僕らの想起するサービスの枠にとどまらないとても幅広いものだった。
そうした新規の活動を生み出せる組織のあり方や価値観が、こうした取り組みを推進する力になっているのではないかということだ。
3.個人の差
こうした問題がある上で、「自分たちこそがそうした問題を解決しなければならない!」という義務感がとても向こうの人たちは強いらしい。
自分たちの地域の課題を、どこかの誰かが解決してくれるという姿勢で待つのではなく、自ら動かないと変わらないという焦燥感があるとのこと。
例えば、コミュニティスクールでは先生たちが行政に対して自分たちの活動予算をもらうためにプレゼンをしに行ったりするらしい。その行動力はただただ驚かされた。
これら3つの差が、対話を通して見えた日本とアメリカ東海岸との差だ。
おわりに
こうした対話を通して、運営で振り返った時に、日本財団が2019年11月30日に出した、18歳意識調査が話題になった。
この調査は、インド、インドネシア、韓国、ベトナム、中国、イギリス、アメリカ、ドイツ、そして日本の17~19歳、各1000人を対象に、「国や社会に対する意識」を聞いたもの。
そこで衝撃的な数字が出たことで大きく話題になっていたことを記憶している人も少なくないだろう。
日本が異常な値を出していることが確認できると思う。
たとえば、「自分で国や社会を変えられると思う」という問いに対して「はい」と答えた割合は18.3%(アメリカは65.7%)、「自分の国の将来は良くなる」と答えたのはわずか9.6%(中国は96.2%)だ。
僕が今高校生だったとして、同じ問いを出されたら、「はい」と答えられるかというと自信がない。この数字は大人にもそのまま当てはめられてしまうのではないか、そんな気がしてしまう。
こうしたマインドの差は、少なからずこうした先進的な取り組みが生まれるかどうかの背景として影響を及ぼしているだろうと思う。希望や自己効力感がなければ、自分から動いて社会を変えようとする行動は生まれない。
こうしたデータは衝撃的だが、悲観ばかりをしてはいけないと、イベントを通して感じた。
stuidio-Lさんは、地域に入り込み、その地域課題を住民の人と一緒に考え、解決する支援をしている。実際に地域住民と社会を変えている。
そんな活動を実際にしている人から話を聞いて僕は希望を持てたし、何か自分たちにもできることがあるはずだと信じることができた。
stuidio-Lさんには以下のような合言葉があるらしい。
この合言葉の後半、「参加無くして未来なし」。僕にはとても心に響いた言葉だった。
このままみんなが希望を失い、社会への参加が失われてしまえば、僕らのいる日本は未来を失ってしまう。そんな瀬戸際にいるのではないかと感じた。
studio-Lさんのように、実際に社会を変える取り組みをしている人たちがいる中で、僕らはどう社会に参加することができるのか。
これを問われる2日間だったなと思う。
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このイベントを開催するにあたって、おなじく会場でイベントを開催していた無限未来さんにキーワードとなる2つの文字をリクエストして書いてもらった。
「環」と「集」。「環」はBIOCITYのテーマでもある環境から。「集」はstudio-Lさんの活動内容から。
「環」には循環するという意味もある。今回のイベントで人が「集」まり、つながり、巡っていく。人の輪が広がり、大きくなっていく。そんなことが起きるといいなという願いも込めて。
今回のような場を今後も創っていくことで、多くの人がつながり、意見を交わし、やがて希望につながっていく流れが生み出せるといいなと思った。
それが僕にとって、社会に参加するための最初の一歩なのかもしれない。
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