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サイケアルバム探訪⑤ Bwana/Bwana

お久しぶりです。
私はとても気分屋なので、備忘録ついでに始めていたnoteも気が付けば1年以上触ることを忘れていました。
これからもこのレベルで気まぐれでやっていると思います。

このアルバムについて

2年前にブラジル音楽の魅力に憑りつかれてからというもの、更にワールドミュージックを掘り進めるようになっていた。ブラジルサイケからボサノヴァなど普通のブラジル音楽にはまり、アフロサイケにはまったらハイライフにはまり、今年に入ってからようやくサルサやキューバなどのラテン音楽にたどり着いた。その中で出会ったのがこのアルバムだった。

このBwanaというバンドは今となっては非常に情報が少なく、日本ではレアグルーヴ流行の中で発見されたのか00年代に輸入国内盤で「灼熱の嵐」という邦題(かっこ良すぎ!!!)でリリースされた以降は特に何という事もなく過ぎ去られた作品のような感じ。
今作は1972年にUSのレーベルにてリリースされたこのバンドの唯一作で、ニカラグア出身のラテンファンクバンド…くらいしか情報がない。

このいかにもラテン的センスの可愛いキャラクターのジャケットを見かけて、CDを買って聴いてみたらこれが凄くかっこよかった。
サンタナなどのラテンロックブームで現れたバンドの中の一つなんだろうけど、ラテン+ファンク+サイケロックというなんとも暑苦しい組み合わせの音楽性から繰り出される熱気むんむんの演奏の数々は聴いているこちらにも十分すぎるほどに熱気が伝わってきたし、凄く圧倒された。

曲ごとの感想

1 Tema de Bwana

スペイン語がわからない自分でも流石にこれは「ブワナのテーマ」だとわかるタイトル。
イントロからオルガンによる仰々しいイントロから始まり、ウォーキングベースとキーボードによる緊張感溢れるパートで進んでいく。この曲はとにかくベースがかっこいい。

中盤ではまさかのテンポアップ!焦燥感溢れる暑苦しい演奏の中、満を持して現れたギターがとにかく弾き倒す。もう暑苦しいったらありゃしない。
更に中盤ではこれぞラテンロック的なパーカッションソロ。汗を振り乱しボカボカとコンガを叩いているメンバーの風景がこちらにまで伝わってくる。
後半ではギターはワウの音になりよりファンキーに。続いてはティンバレスのソロ。代わる代わる訪れるソロパートの展開が正にバンドを紹介する一曲目として相応しい。

インストだからこその緊張感が伝わってくる素晴らしい一曲。曲調も相まってまるでスパイ映画のサントラかのよう。

2 La Patada

ギターによるカッティングから始まり、サイケデリックなどろどろとしたファズギターのフレーズがかっこよすぎる一曲。
中盤ではキーボードによるフレーズに導かれて怒涛の後半パートに突入する。タムによる重低音のきいたリズムがいよいよ何かが始まる!という高揚感を醸し出す。そしてなだれ込むようなギターリフで進んでいき、全部かき乱して終わる。いや~何もかもかっこいい。

3 La Jurumba

能天気なキーボードのフレーズがいいラテンサイケ的な一曲。
ようやくボーカルが入ったと思えばほとんどが一つのフレーズのリフレインで、ほぼこの曲もインスト的な内容。
後半ではパーカッションに煽られてテンポが速くなる。この曲はパーカッションが要な感じがする。
と思えば前半にフレーズに唐突に戻って終わる。かっこいいけどなんとも不思議な曲調だ。

4 Chapumbambe

今作のハイライトその1がこの曲!この曲は本当に初聴きで好きになってしまった。
イントロから特徴的なドラムブレイクで始まり、そのままのテンポでぬるっと始まる。怪しげなキーボードとギターによるリフとともに繰り返される「Chapumbambe~」のコーラスがとにかくサイケ的ドラッギーさが出ており素晴らしい。

そして一回終わったと見せかけてから始まるパーカッション乱打からのテンポアップして始まるジャムセッションパートは正に聴いてるこちらにも緊張が伝わってくるかのような迫力ある名演。ザラザラのファズギターが現れ、各パートが縦横無尽に演奏する様子は聴きながらどきどきが止まらない。
そして何事もなかったかのように序盤のテーマに戻り、アウトロでは不気味なディレイとギターの音で終わる。
怒涛に次ぐ展開にかき乱されたかと思えばあっさりと終わってしまうのが正に嵐のよう。本作を象徴する曲の一つで間違いない。

5 Motemba

スローなテンポからこちらもぬるりと始まる湿度の高い曲。
この曲もギターとキーボードによるリフが特徴的で、この曲も早々にテンポが速くなり暴走し始める。
チャカチャ、チャカチャ…と鳴らされるこれまた特徴的なギターのカッティングリフにつられ粘っこいジャムが始まる。本作に収録されている曲のほとんどが歌詞がほとんどなく、タイトルのリフレインのみというパターンが多いのだが、とにかくリフのキャッチーさとジャムパートの迫力で全て黙らされる。

6 Todos Es Real

イントロのサイケデリックなオルガンがたまらない一曲。
この曲は先の2曲と逆パターンで最初と最後のパートが速く、間のパートで少しテンポが落ちる構成だが、テンポが落ちるパートではここに来て本作初のちゃんとした「歌」が入る。
哀愁に満ちたメロディーがなんともラテン的でとてもかっこいい。
ギターもこの曲では泣きのギターと言わんばかりのブルージーなフレーズが使われており、リズム隊も歌を立てるかのようにメリハリのあるフレーズを入れてくる。とりわけ今作の中でもロック色が強い曲になっている。

7 Lolita

今作のハイライトその2。演奏時間なんと13分!本作はCD収録時間で約45分くらいなので、本作の約1/3を占める長さを誇る超大作がラスト。

序盤は前曲に引き続き歌のパートがあり、準備運動かのようなゆるい演奏で進んでいく。この緩さもサイケっぽくっていいなあ。
そしてこの歌パートは2分早々で終わり、想像通り超長いジャムセッションパートが幕を開ける。

長さを決めずに演奏しているのか、各人がとにかく自由に演奏を繰り広げるのだが、これが不思議なことに散漫にならずまとまっている感じがあり、このアルバムを締めくくる長いエンドロールのようにすら感じる。
ソロパートはとにかく狂い弾くギター、キーボードに気を取られるが、この曲の間奏はパーカッション群がとにかくあり得ないくらい叩きまくっている。LRの端から、これ見よがしに「ボコボコボコボコ」と乱打が聴こえてきてこれが間奏を更に盛り上がらせる。それだけでなく終始各パートが複雑にパン振りされており、右から左から弾き倒しては消え、弾き倒しては消え、カオスなラテンロックを過剰なまでに浴びせてくる。
そしてここまでの混沌をまとめあげているのがベースであり、後半ではたまにソロのようなプレイを魅せるものの基本的にベースのみが黙々と一定のフレーズを弾き続けている。

そして、最後はどう締めるんだ..?と緊張を噛みしめているとなんとフェードアウトであっさりと消えていく…。ここまで期待させておいてあんまりだとなるくらい、続きをもっと聴かせてほしくなるくらいあまりにも呆気なく今作は終わる。

まとめ

最初は全7曲でなんか少ないなと思ったが蓋を開けたらほとんどが長尺の曲で、どの曲でも凄まじいテクニックの演奏を魅せつけられるというラテンやサイケのパワーが十二分に詰まっている傑作だった。
メインフレーズからテンポが速くなりまたメインにもどるという構成が多いなというのはこの記事をまとめながら聴いていた時に思ってしまったが、それさえどうでもよくなるくらい演奏力と熱量でねじ伏せられる。

ラテン音楽のパーカッションの多彩さとリズムの複雑さにファンク的な正確なリズム感とタイトな演奏、サイケロックの怪しさとルーズさが融合し、今作でしか味わえない空気感が生まれてとんでもない名作が出来上がってしまった。
このバンドが他にもアルバムをもし出していたら是非聴いてみたい。いや、この1枚で完結してしまったからここまでの魅力が詰め込まれたのか。今となっては誰もわからない…。

因みに今作はサブスクでも配信されているが、CD版とは明らかに違ったリミックスが施されており、サブスクではその異様なリミックスをされた音源しか聴くことができない。
具体的には全体的に低音部がめちゃくちゃ持ち上げられ、よく言えば現代風のミックスになり、悪く言えば元のミックスのバランスからは大きく離れた内容となってしまっている。
また、「Chapumbambe」は後半がカットされ8分から4分に短縮されていたり、「Motemba」は何故か原曲から半音下げられているなど明らかに改悪では?といった編集もされており、サブスクではこの傑作の全貌を綺麗に知ることができない。私は絶対CD版、オリジナル版の方が好みなのでできればそちらで聴くことをお勧めしたい。

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