一カ月間今までに買ったサイケアルバムを振り返る⑲ ジャックスの世界/ジャックス
前回に引き続き、日本のバンドからの選出。
今回はジャックスの1stアルバムである「ジャックスの世界」。ジャックスは1960年代に結成されたバンドで、当時グループサウンズやフォークが流行の中、日本独自のロックを始めた最初期のバンドの一つである。その独自の世界観は当時は評価されず、ものの数年で解散してしまったが後年になって評価されるようになった。
驚くべき点はその発表年の早さである。今作は1968年発売であり、昨今で日本語ロックを確立したとして評価されているはっぴいえんどの「風街ろまん」が発売されたのが1971年ということを考えると、その早さがよくわかる。ビートルズでいうなら、シングルはHey Jude、アルバムならホワイトアルバムを出していた頃だ。
私が知ったきっかけはまたもゆらゆら帝国のルーツ巡りの一環から見つけたであった。好きなバンドからルーツを辿っていくと、面白い発見ばかり見つかるのでやめられない。
曲ごとの感想
01.マリアンヌ
物々しい雰囲気のドラムから始まる。このイントロから今作のただならぬ力を感じさせる。正に嵐の中にいるような冷たい演奏が凄まじく、歌詞に合わせて演奏が激しくなっていくのも表現力の高さを感じさせられる。そして、裏でジャジーな演奏を繰り広げるリズム隊も肝である。二枚目のシングルとしても発売されていた。
02.時計をとめて
一転してギターのアルペジオと鉄琴のみの静かな曲になる。ボーカルの掠れ気味の歌唱がとても切ない。
03.からっぽの世界
ジャックスのデビューシングルとなった曲。しかし歌詞にある「おし」という単語が差別用語にあたるとして放送禁止曲になってしまった曲でもある。遠くにいるようなぼやけたギターの音が特徴的な、静かながら歌詞のように深い海の底にいるようなダークな曲で、死後の世界を表現したような独特の歌詞が素晴らしい。笛の音も遠い世界にいるような寂しさを感じさせる。
04.われた鏡の中から
メロディがはっきりとしていて歌謡曲らしさを感じる。今作では珍しく妙に熱のあるボーカルの歌唱が歌謡曲ぽくて、少々時代を感じてしまう。
05.裏切りの季節
ボーカルの鬼気迫る歌唱が素晴らしい曲。ファズによるギターソロが短いながら激しくて中々好き。
06.ラブ・ジェネレーション
前曲に続いてファズを交えたサイケな演奏の曲で、特にギターソロは更にサイケな激しさに。若者の苦悩を痛烈に表現した歌詞が良い。3拍子、4拍子のリズムを何度も行き来する構成が特殊だ。
07.薔薇卍
かなりブルース色が濃い曲で、今作では唯一ベースの谷野ひとしによって書かれた曲。アルバムの中ではこの曲と次曲は早川以外のメンバーによる作曲ということもあってほかの曲と比べ、やや雰囲気が変わっている。
08.どこへ
こちらもブルースを感じさせる曲。スライドギターによって更にブルージーかつ脱力感ある雰囲気だ。歌はドラムの木田も歌っており、どこかセクシーなムード。
09.遠い海へ旅に出た私の恋人
静かな演奏の暗く悲しげな曲。正直演奏や雰囲気からからっぽの世界と被っているように感じてしまう。
10.つめたい空から500マイル
オルガンの演奏とボーカルのみのシンプルな曲。この歌と語りはリードギターの水橋春夫によるもの。正にタイトルのように広く冷たい空の下に独りぼっちで置き去りにされたような寂しさを感じるラスト。
今回聴いて改めて良いと思った曲
06.ラブ・ジェネレーション
サイケと歌謡曲が上手く合わさった名曲。リズムが何度も変わる構成の複雑さも良い。
まとめ
1968年というかなり早い時代に、これほどまでに独自の世界観と表現力を持ったバンドがいたことが本当にすごいと初見の時に感じたが、その驚きは今回でも色褪せなかった。サイケのサウンドに歌謡曲の要素が合わさることにより、独特の湿っぽくてダークな雰囲気が海外の本元のサイケとは違った感触の作品を生み出した。作詞においてもその唯一無二の世界観が、更に絶望の底のような暗さを雰囲気づけている。
後続への影響力もすさまじく、特に「マリアンヌ(この曲はメンバーによる作詞ではないが...)」「からっぽの世界」など、その特異的で暗さを感じさせる世界観は、まさに私が知るきっかけとなったゆらゆら帝国や、前回紹介したかかしなども、ジャックスの影響を感じさせる。日本語ロックを開拓した功績も大きいが、もう一つの功績として日本でのサイケロックの一つの完成形を作ったとも言えるのではないだろうか。
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