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【おしえて!妊娠】 マタ旅してもいいですか?

「旅行に行ってもいいですか?」
このコロナ禍では、あまり聞かれなくなった妊婦さんからの質問。

産婦人科医や助産師が大手を振って、「どうぞ、どうぞ、いってらっしゃい」とはモチロン言わないし、言えない。

妊婦さんにとっては

子どもが生まれたらしばらく旅行に行けない
行くなら今しかない

と、思われているよう。


医療サイドとしては

もしものリスク、わかってる?

と、妊婦さんの気持ちもわかるけど、もしもの時に後悔するのは妊婦さんだし・・・うーん、個人の自由でもあるし・・・と、結局「自己責任で」となるわけ。

妊婦さんと医療側との意識の乖離、これは永遠のテーマであるのかも知れないけれど、助産師ゆかりの話を聞いてから、旅に出るかどうかを考えてみて欲しい。

マタ旅って?

マタ旅とは、マタニティー旅行の略語で、妊娠中に国内、海外問わず旅行へ出かけることを言います。
SNSの普及もあって、マタ旅はママ用語として浸透してきました。

2014年、環境省は温泉利用時の注意基準を見直し、温泉の入浴を避けるべき禁忌症から「妊娠中」を削除しました。これは、妊婦の温泉入浴が悪影響を及ぼすという科学的根拠がないと分かったからです。

これをきっかけに、国内の旅行会社がこぞって「マタ旅温泉パック」なるものを出し、より一層マタ旅が認知されていったのです。


マタ旅はいつなら行ける?

一般的には妊娠16週から28週頃までが良いと言われています。

初期はつわりでそれどころではないだろうし、お腹の赤ちゃんもまだ不安定。28週を過ぎると、お腹も大きくなるし、急な破水や出血などの可能性も否めないからです。

たとえ期間内であるとしても、お腹が張りやすかったり、切迫早産や前置胎盤などの場合は安定期であってもおススメはできません。


私がマタ旅をすすめない理由

妊娠・出産は病気じゃないと言う一方、とってもデリケートなもので、突然何が起こるかわからないという側面があります。妊娠が分かった時から何ひとつ異常なく過ごしてきたからと言って、その後も大丈夫なんて保障はないのです。

遠出の旅行ともなれば、長時間の移動は必至となります。飛行機や新幹線、車などで、長時間同じ姿勢で座り続けていると、脚の静脈に血栓が生じて立ちあがって歩き始めた途端に、血栓が肺に回って血管に詰まり、呼吸困難、死に至ることもあります。これがエコノミークラス症候群です。

特に妊婦さんはお腹が大きくなっているため、脚の血流が普通の人より悪い状況です。飛行機内や新幹線車内は乾燥しているため、血液が濃くなりやすいので、より血栓ができやすい状況下に置かれるのです。

さらに旅先で、いざという状況になった場合、受け入れてくれる病院がすぐに見つかるのかという問題が生じます。
妊娠週数によっては、早産の可能性を考えてNICUのある病院に受け入れてもらわなければなりません。特に医療体制の整っていない離島だったりすると、対応は遅れます。妊娠経過の分からない妊婦さんを受け入れる難しさを考えると、医療側としては非常に困るわけなのです。

まして海外旅行ともなれば、緊急時に現地スタッフとのコミュニケーションに困難をきたすことが予測できますし、より母子への危険度は増します。万が一、緊急で出産ということになれば、早産になるので赤ちゃんはNICU入院、帝王切開であれば手術費などの治療費が数千万円という可能性もあります。赤ちゃんの退院までの滞在費を考えても恐ろしいものです。


実際に、ディズニーリゾートからの妊婦さんの救急搬送も多いと言います。

以前私が働いていた病院には、浦安にある大学病院の医局から医師が来ていたので、良くその手のシビアな話を聞かされました。

もちろん何事もなく、マタ旅を謳歌する妊婦さんもいらっしゃいます。
ですが、「私は大丈夫」という保障はどこにもないし、万が一そうなってしまった時、後悔するのは妊婦さん自身です。
それが分かるだけに、マタ旅をすすめることはできないのです。


「今」しかできないマタ旅

危険だと分かっていても、今しか行けないから旅行したいという心理、
分からなくもない。

「今」楽しんでおかないと、もう自由な日々は二度と帰ってこない。お母さんになることを楽しみにしているけれど、「産んだら自分の人生は終わり」「産んだら母の人生が待っている」と無意識のうちに思ってしまっているのではないでしょうか?

「産んだらお母さんは大変」という漠然としたイメージは、メディアやSNS、友人や母親などから、ネガティブなメッセージとして刷り込まれているのです。

「お母さんなんだから」という呪縛によって行動は制限されるし、「子どものために生きることが当たりまえ」という風潮が今も根強くあります。
その風潮に同調しないと、「母親失格」的な烙印を勝手に外野がおしてしまう・・・なんだか怖くないですか?

だからこそ、そうなる前にマタ旅を楽しみたい!!

そう思っても仕方がないのかも知れません。


マタ旅してもいいですか?

やはり助産師としてはマタ旅をすすめることはできかねます。

だけど、妊婦さんがストレスをため込むのも良くありません。
まして、出産後の産後うつを考えると絶対にダメとも言いづらい。
リスクを考えた上で入念に準備をして出かけるのか、諦めるのか、やっぱり自己判断・自己責任でというしかありません。


日本人の抱く母親像が、妊婦さんを追い詰めているし、社会全体の意識が変わらない限り、批判されてもマタ旅は減らないと思います。

ライフスタイルは欧米化しつつあっても、子育ては女性の役割という風潮は根強く残っています。

産後も気兼ねなく子どもをあずけて旅行ができるような世の中だったら、きっとマタ旅なんて流行らないのでしょうね。

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ライフプランをねっておけば、出産後の役割分担や旅行も計画できると思います。やっぱりパートナーとしっかり話し合って決めることって大切です。


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罫線優しさ系


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パラレルキャリアをもつフリーランス助産師です。歩くパワースポットと呼ばれるくらい幸運体質な私が、妊娠/出産/子育て/女性の健康/の情報発信と日々のくらしのよしなごとをエッセイでつづっています。サポートしていただけたら最高にうれしいです!