平沢進『BEACON』について

 平沢進はLast.fmによるところの過去7年間で一番聴いているアーティストである(二番目がザッパ)。その平沢進が14枚目のアルバム『BEACON』を出したのでその感想を記す。

 白髪の平沢進がカバーに登場するのは初(1st『時空の水』は彫刻のようなもの)。宇宙飛行士のようなドームで頭が覆われているが、宇宙服のように全身が保護服に包まれているわけではない(手にグローブなし)ので、昨今のマスク事情とリンクしているのかもしれない。

 表題作かつ一曲目の『BEACON』は左右に振られたギターリフで始まり、過去作でいうとソロというよりどちらかというと核P-MODEL(以降、核P)に近い。一曲目にアルバムのタイトルトラックが来るのは8th『賢者のプロペラ』(2000)、12th『現象の花の秘密』(2012)以来3回目。一曲目というのはアルバムの世界観を提示する曲であり、ここにアップテンポの曲をぶつけてくる構成(これまでだと 2ndサイエンスの幽霊『世界タービン』、7th 救済の技法『TOWN PHASE-0』、そして前作13thホログラムを登る男『アディオス』)を取っている。

 2曲目『論理的同人の認知的別世界』と4曲目『転倒する男』は曲全体がP-MODEL、初期ソロ作品ぽさを感じセルフパロディの感じがある。論理的~の”オペラ””ロマン”のメロディ、語りが途中で入る(サイエンスの幽霊『コヨーテ』)点や『焼け焦げる』の巻き舌など。初期ソロ作は意図的に『変』な曲を作ろうとしていたきらいがあると個人的に思う。

 "ホログラムの塔を登る"ことから前作の『ホログラムを登る男』、"キミに帰る"から『オーロラ』ともリンクしていそうな3曲目『 消えるTOPIA』は"たった今"の字余り感がひっかかり印象深く残る。

 『現象の花の秘密』や『突弦変異』『変弦自在』(還弦主義)での試みである「有機的な弦楽器と無機的・電子的な音の組み合わせ」の最新版を提示した5曲目『燃える花の隊列』と6曲目『LANDING』。『燃える花の隊列』の「発火する花が咲く圧巻の夜」からは花火を連想した。そこから全編"オペラ調"の発声で歌われている7曲目『COLD SONG』は、本作で最も印象に残った曲。インストの『ZCONITE』を除けば最も短い(3:37)がこのアルバムの中で推すとしたら『COLD SONG』になる。

 幽霊が登場する曲名としては『幽霊船』(現象の花の秘密)以来の8曲目『幽霊列車』(核Pも含めると『幽霊飛行機』以来)はスパニッシュっぽいギターが良い。9曲目『TIMELINEの終わり』は『白虎野』の頃+初期ソロの風味がありつつ、編曲が最新版に更新されている。核Pの『Timelineの東』は『エデンの東』のもじりだと思ったが今回も何か元ネタがあるのか。

 10曲目『ZCONITE』からの11曲目『記憶のBEACON』。表題を含む曲で全体を挟むのは『賢者のプロペラ』以来。複数回聴いているものの全体のテーマというものがあまり感じられない。個人的には『TIMELINEの終わり』で終わっていても違和感はなかったと思う。

まとめ

 前作『ホログラムを登る男』は平沢進をまだ聴いたことがない人に対して最新版の平沢進として勧めることが出来る作品だった。今作『BEACON』は初めて平沢進を聴く人には勧めにくい、かなり尖った作風だと感じる。加えて、各曲の統一感があまり感じられずアルバム単位で聴き直すのが他のアルバムに比べたら厳しい。キャッチーな曲が少ないのも一因。

 一方で、前作『ホログラムを登る男』はあまり”攻めていない”アルバムと感じたのも事実。それまでの集大成を済ませ、今作『BEACON』で新境地に達したともいえる。平沢進しか作れない・歌えない曲の極みであり、これをライブで再現するのはキツそうだがどうなるのか気になる。

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