Funding Rateの解像度を上げる
仮想通貨botter Advent Calendar 2023の9日目の記事です。
記事内容とヘッダー画像には全く関連性がありません。
はじめに
こんにちは、むじネコ@muzinecoです。
みなさん、Funding Rateですよ、Funding Rate。略してFR。金利。
いい言葉ですよね。こう、「楽して金もらえる!」っていう雰囲気のある感じがとても魅力的です。実態は全然そんな感じではないんですが。
かつては古の強botterである某A氏が、価格変動リスクなしでFRを取りにいく無料noteを書き、一部の人から反発を受けて有料設定した結果、どこぞの誰かがそれをまるっとパクっただけの記事を情報商材として高額販売するみたいな出来事がありました。確か2021年前半くらいの記憶です。嫌な事件ですね・・・
現在の相場観は2021年ほどではないにせよ、それなりに盛り上がってきています。いくつかのアルトコインでは2021年バブル並と言ってよいほどの高FRが発生することもありまして、いやーいい相場になってきましたね。
そんなFRですが、一般的な理解は、
「相場が過熱してくると先物側で一生懸命ロングされるせいで現物価格より高くなって、それがプラスFRになる」
くらいなものだと思っています。全然合ってるんですが、もう少し正確に理解したいよなという気持ちはまぁまぁある。他の人の知らない知識はエッジ。そんな思いで本年のbotter Advent Calendarではこの記事を執筆しています。
①Funding Rateってなに
今さらですが一応。
2023年現在で最も出来高のある暗号通貨商品といえば無期限先物。主要な取引所には必ずあると言っても差し支えなく、暗号通貨をレバレッジ取引するならこれ!っていう感じです。(と言っても日本には存在せず、海外取引所にしかないのがとても悲しいですが・・・FTX事件さえなければ・・・)
Funding Rateは無期限先物を成り立たせるうえで不可欠な仕組みであり、先物価格を現物価格が乖離しないように連動させるものです。
乖離した場合、乖離している方向のポジションを持っている人が、逆のポジションを持っている人に対して、一定時間間隔でポジション金額に応じた金額を支払います。これによって乖離が大きくなり過ぎないように保たれているわけですね。
そのような仕組みがない取引所では、大きな乖離が恒常化しうることになります。そう、Bitflyer BTC-FX、お前のことやぞ。
「でもさあ、"現物価格と乖離しないように"って言ったって、現物価格だって色んな取引所でそれなりに違うわけじゃん?どの価格に合わせるわけ?」
という問題がありますが、これについては「インデックス価格」という概念を用いることが主流だと思います。
②インデックス価格ってなに
現物価格は取引所によって異なるので、色んな取引所から現物価格を取得して、平準化したものを基準価格にしよう。これがインデックス価格の概念です。
色んな取引所と言っても、弱小取引所では出来高も少なく価格も操作し放題ですので、そんな取引所から価格を取得する意味はあまりないです。
ある程度は出来高があって信頼できる取引所から取得するのが一般的ですね。概ねランキング上位の取引所で構成されていると考えて差し支えないと思います。
価格取得先には、「リアルタイム比重」や「Weight」のような概念があります。言葉が違いますが同じ概念です。単純に取得した価格の平均値を取るのではなく、重みづけした加重平均をもってインデックス価格とする、ということです。
Bybitは特に重みづけが頻繁に変わるので意識したいところ。
・出来高が多い取引所ほど重みづけが強くなる
・極端に他の取引所と異なる価格を付けた取引所は重みづけが弱くなる。あるいは一時的に構成から外れる
といった傾向があります。
ルールが記載されているドキュメントもありますが、うーん。このルールがどこまで厳密に運用されているかはちょっと判断できないところです。
https://www.bybit.com/ja-JP/help-center/article/Index-Price-Calculation
OKXの重みづけは単純平均で固定に見えますが、変わった前例ってあるんでしょうか。僕は変わったところを見たことがないんですが、まぁ、仕組みとして存在する以上、リスクはありうると思っておくべきでしょうね。
他の取引所は、そもそも重みづけと言う概念が無かったりします。また、インデックス参照先を公開してない取引所もありますね。
何で公開してないんだ。良くないと思うんですが、まぁ何を必要とするかは人それぞれなのかもしれません・・・俺たちは雰囲気でインデックス価格を認識している・・・
また、インデックス参照先の価格って何を指すの?という話もあります。最終約定価格なのかなぁと感じることが多いですが、ドキュメントに記載がない場合が多く、あまりスタンダードな定義はない認識です。
dYdXは、「最終取引価格、ベストアスク、ベストビッドの中央値」であると明記されています。FTXも確かそうだったはずです。
こんな感じで、無期限先物の価格とインデックス価格との乖離が計算できるので、それを元にFRを計算します。
一般的には、FR期間中に毎分価格乖離を取得してその平均を取り、これを「プレミアムインデックス」と呼びます(以下、説明中ではPIと省略します)。
③プレミアムインデックスってなに
そもそもまだ、無期限先物側の価格決定ロジックを説明してませんね。
OKXのように単純にベストアスクとベストビッドの仲値のところもあるんですが・・・
Bybitなどは、インパクト価格という概念を使います。
この概念の背景としては、無期限先物側の価格はベストアスクとベストビッドの仲値でいいのか?っていうことなんですね。
OKXはそれで良しとしていますが、厳密に考えるとベスト価格の枚数がめっちゃ少なくて、まともな枚数の板がベスト価格からまぁまぁ遠ければ、ベスト価格って不適切じゃない?というわけです。
そこで、ベスト価格から一定枚数までの平均約定価格を使おう!ってわけですね、なるほど。
一定枚数と言うのは、「インパクト証拠金想定元本(Impact Margin Notional)」という言葉(取引所によって微妙に表記ゆれあり)で定義されています。
例えばbybitのBTCUSDTの場合"20"となっており、つまりベスト価格から20枚までの平均約定価格をもって、ビッド価格、アスク価格とするという事ですね。
BTCの20枚と言うのは記事執筆時点で88万ドルほど。そこそこまともな数量だなという気がしますが、例えばHNTなんかは"21"となっており、これは時価で120ドル程度です。めちゃめちゃ少ないですよね。
草コイン含めて銘柄全体にフィットするのはなかなか難しく、一部コインにはめちゃピーキーな仕組みになっているわけです。こういった要素が一部アルトに対して極端なFRを付ける一要素となっている可能性があります。
dYdXなんかも似たような概念が存在しますが、こちらは500ドルというベース量を、Initial Margin Fractionで割った数量で決まります。
Initial Margin Fractionとは、初期証拠金率、つまりレバレッジ倍率の逆数みたいなものです。
通貨ペアにより0.05~1程度の値をとります。例えばBTC-USDは0.05(レバ20倍)、MATIC-USDは0.1(レバ10倍)、YFI-USDは0.5(レバ2倍)。
つまり、BTC-USDは10000ドル、MATIC-USDは5000ドル、YFI-USDは1000ドル、という事なので、比較的少額ですね。これくらいだとほぼベスト価格と同じになる場合が多そうです。
それを元にプレミアムインデックスを求めます。式は以下。
PI= [max(0, インパクト価格(ビッド) - インデックス価格) - max(0, インデックス価格 - インパクト価格(アスク))] / インデックス価格
うーん・・・難しいので1つ1つやりますか・・・
①max(0, インパクト価格(ビッド) - インデックス価格)
第一項は、上乖離してると正の値になるということです。
無期限先物のビッド側だけを見てインデックス価格より上かを判断しており、ビッドの方が上なら正、そうでなければ0の値を取ります。
②max(0, インデックス価格 - インパクト価格(アスク))
第二項は、下乖離してると正の値になるということです。
無期限先物のアスク側だけを見てインデックス価格より下かを判断しており、アスクの方が下なら正、そうでなければ0の値を取ります。
③[max(0, インパクト価格(ビッド) - インデックス価格) - max(0, インデックス価格 - インパクト価格(アスク))]
①と②の差を取ったものです。
・上乖離なら①>0、②=0となるため、正の値を取ります。
・下乖離なら①=0、②>0となるため、負の値を取ります。
・どちらでもなければ(※)、①=0、②=0となり0となります。
(※)つまりインデックス価格がビッドとアスクの間の場合
PIは③をインデックス価格で割ったものです。乖離を価格で割っているので、概ね乖離率と呼べるような概念です。
こうして求めたPIから、FRを求めるのですが・・・
ちょっとこのままの式では、PIが2箇所出てきて説明しづらいので、以下の等価な式に変形します。
FR=clamp(金利, PI+0.05%, PI-0.05%) ※clampとは中央値のこと
うーん、「0.05%」「金利」という謎の項目がありますね・・・
金利とは
ほとんどの場合、金利=0.01%と考えて差し支えありません。この金利は固定値になっており、よく見るデフォルトのFR0.01%のことです。これはトークン借入金利とドル借入金利の差、と説明づけられることが多いようです。
トークン借入金利:0.01%/8h (= 年利10.95%相当)
ドル借入金利 :0.02%/8h (= 年利21.9%相当)
金利=ドル借入金利 - トークン借入金利 = 0.01%/8h(= 年利10.95%相当)
ドルの金利の方が高いのは、ステーブルコインを貸し借りする金利と、BTCなどのトークンを貸し借りするコストを比較すると、イメージがつきやすいかと思います。一般的にはステーブルコインの金利の方が高いですよね。
これはデフォルト金利だと、ショートすると0.01%/8h付与されることを意味します。ショートとはつまり、トークンを借りて売ることでドルを買うポジションと同義なので、それに相当する金利差が付与されているという事ですね。
大体どこの取引所も上記を固定値としています。冷静に考えるとすごい基準だなという気がしますが、大体どこの取引所もBitmexをパクってそうしただけだと思うので、まぁそういうもんなんだなと受け止めれば良いと思います。
ここでは8h単位で書きましたが、1h毎にFRが発生する取引所(現在はdYdXくらいか?)だと0.00125%/1hとして扱われます。8分割しただけで考え方は同じです。
ちなみにbybitのUSDC/USDTみたいなステーブルペアだと、金利は0%になります。トークン側もドルなので、差し引き0になる、という意味ではもっともな考え方ではあります。binanceはそうしていないので、取引所ごとの考えの違いはありそうですね。
また、例外として、OKXでは金利=0.01%という考え方がなく、金利=0として扱われています。
0.05%とは
この数字自体は謎なんですが、0.05%程度の小さな乖離の場合は、FRは0.01%にする!という意図で決められた閾値のようです。
上述の式、
FR=clamp(金利, PI+0.05%, PI-0.05%)
において、実際は以下のような扱いになります。
①PI < -0.04%の場合、つまり下に大きく乖離している場合
FR = PI + 0.05%
②PI > 0.06%の場合、つまり上に大きく乖離している場合
FR = PI - 0.05%
③0.06% > PI > -0.04%の場合、つまり上下にあまり乖離していない場合
FR = 0.01%
となります。0.05%という補正項があるので、上下どちらかにある程度大きく乖離しないと、デフォルト値0.01%になるということですね。
ちなみにこの0.05%という閾値は、OKXやdYdXなどの取引所には存在しません。つまり、
FR = PI + 0.00125%(金利) ※dYdXの場合
FR = PI ※OKXの場合
の形を取ります。
デフォルト金利に固定される力がなく、価格乖離に対して敏感にFRが反応するということになりますね。
ここまででやっとFRが求まりました。
④FRは実際はどうやって適用されるの
期間
2023年11月現在は、8時間単位でFRが発生する取引所が主流になっています。dYdXなんかは、1時間単位で発生ですね。FTXも1時間単位のFRが発生していました。
ただしこの期間はしばしば変更されることがあります。
価格が急騰or急落し、極端な価格乖離が発生する局面では、8hとなっているFRが4h,2hなどのより短いスパンに変更される場合があります。何らかのファンダにより価格が急に動いたアルトコインにしばしば見られる現象です。これは極端な乖離を是正するための一時的な処理になることが多いです。
鉄火場では、これに振り回されて嘆くTLの声がたくさん聞こえてきます。
付与量
PIを元に計算されることからわかるように、ちょうど期間中乖離していた分だけ補正するような形で付与(徴収)されます。1期間中1%乖離したら概ね1%付与(徴収)される、みたいなイメージでいいと思います。
FTXではこれが1期間ではなく24時間になっていたため、他の取引所と同じくらいの乖離でも、FRの数値は小さくなります。その分、乖離自体が大きくなるという形で裁定される傾向がありました。
付与タイミング
取引所の仕様により、計算期間の直後にFRが発生し資金の付与(徴収)が発生するところと、1期間遅れで発生するところがあります。
これは例えば9時-17時の乖離により計算されたFRが、
・直後の17時に発生するのか
・翌1時に発生するのか
というような違いとなって現れます。
直後に発生する取引所が多いと思いますが、OKXやBITMEXが1期間遅れで発生する仕様となっていますね。個人的にはわかりづらいなあと感じますし、既に乖離が収まってるのに前期間の乖離をベースにFR発生するのはどうなの?と思うので、あまり好きではないです。
FR上限
上述の式で求められるFRですが、上限が定められていることが多いです。
±0.375%, ±0.75%, ±1.5%, ±3%, などがよくある上限です。
流動性が低い草コインほど大きな上限が設定されていることが多いですね。細かい内訳は取引所によるとしか言えないので割愛します。
この上限はしばしば変更されることがあります。予測FRが上限に張り付くような極端な乖離状況になった場合に、上限が緩和されてもっと極端なFRがつく、という変更がほとんどですね。
じゃあ上限の意味がないじゃないか!と言われそうですが、ほんとにそう。上限でも何でもないなぁという印象です。
さらにほとんどの場合は上限が変更されるタイミングの通知などなく、突然変更されます。システムルール上の機械的な変更には見えないので、たぶん取引所の裏側にFR変更指示おじさんがいるのでしょう。
FRが上限に張り付くような極端な相場では、歪みが発生することも多く、僕もポジションを取ることもしばしばなのですが、このおじさんのせいで歓喜と悲哀の声がTLにもたらされることになります。
僕は大抵、「おじさん!ゆっくり寝てろ!!仕事すんな!!!」と思いながらポジションを取ることが多いと思います。おじさんが仕事すると阿鼻叫喚。
上限および変更おじさんが存在しない取引所は、現存で知る限りはdYdXくらいでしょうか。FTXも存在していませんでした。こうしてみると、dYdXの仕組みとFTXの仕組みは結構共通するところが多いですね。
有名無実のFR上限などないほうが分かりやすいと僕は思うんですが…そういう仕様になっているので仕方ありません。誰かの飯のタネになっている可能性はありますね。
⑤この知識をどうやって活用するの
この先は各自で研究になりますが、結局は他の人よりFRについて解像度高く捉えるということが重要で、それによって見えてくるものがあると思います。
・見た目上は同じFR=0.01%でも、内情はPI=-0.04%の場合とPI=0.06%の場合があり得ます。例えば現物ヘッジショートを組む場合、前者と後者では現物価格に対して最大0.1%のパフォーマンス差が発生するでしょう。
・見た目上は同じFR上限張り付きでも、内情はPIがFR上限を少し超える程度なのか、FR上限を大きく超える水準なのか、の違いがあり得ます。上限変更時のパフォーマンスや、乖離が落ち着いてきた場面でのFRの上限からの剥がれやすさに影響が発生する可能性があります。
・FR計算期間中の一時的な極端な乖離が、その期間のFR決定における大きな要因になっている可能性があります。予測FRがプラスだからと言って安易にショートすると、既に乖離自体はマイナスの水準となっている可能性があります。
・・・などなど。
⑥おわりに
よく考えるとこのテーマあんまりbotter関係なくない?