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二人の(ラドゥー役の)男

ミュージカル『マタ・ハリ』のラドゥー役、加藤和樹さん・田代万里生さん(以下和樹ラドゥー・万里生ラドゥー)の演技の違いについて、書いていきます。
最初に言っておくと、ガウンの話もサスペンダーの話もしません。

諸注意

・2人の違いについて述べていきますが、特に優劣を付けるわけではありません。私は2人のファンクラブに入るほど、どちらの役者さんも大好きです。
・観劇した回数は和樹ラドゥー回を現地で1回、配信で1回の合計2回。万里生ラドゥー回を現地で1回です。間違っている箇所があるかもしれません。

あらすじと言及するシーンについて

あらすじはこちら。公式サイトを見て下さい。

で、どのシーンかというとゾンビ…基、ファンたちの間で「おうちラドゥー」と呼ばれているシーンについてです。見ていない方に向けて簡単に説明しますと

時代は第一次世界大戦の最中。ダンサーであるマタ・ハリは激戦地であるパッシェンデールへ送られた自分の恋人アルマン・ジローを探す為、フランスの軍事諜報部の大佐ジョルジュ・ラドゥーの家へ。
居場所を聞き出せたマタだが、以前から彼女に対しただならぬ感情を抱いていたラドゥーはその情報の対価として身体を要求し、自分を選べと襲い掛かる。
なんとか逃げ出すマタ。その一部始終を妻キャサリンに見られていたことに気付いたラドゥーは…

というこの後のラドゥーの動きについて。キャサリン役は飯野めぐみさんです。

2人のラドゥー

セリフだと

ラドゥー「情報が欲しくて俺を誘惑しに来た。追い返したよ。」
キャサリン「あなたって最低ね。」

誘惑したのはラドゥーであり嘘をついている、且つ妻である自分を裏切っているので、それに対する「最低ね」となります。

この時、2人のラドゥーはどういう演技、そしてキャサリンはどう返しているかというと

①和樹ラドゥーの場合
ラドゥー:上記のセリフを言いながらマタによって高まってしまった情欲そのままにキャサリンを抱こうとする
キャサリン:ラドゥーの手を止め突っぱね、上記のセリフ

②万里生ラドゥーの場合
ラドゥー:カウチに座りやや俯きながら自嘲気味に上記のセリフ
キャサリン:ウイスキー(マタのためにラドゥーがグラスに注いだもの)をラドゥーに掛け、上記のセリフ

このようにかなり違いがあるように思います。この後ラドゥー邸のセットが下手側に捌けていき、マタの歌『ほしいものは』と続きます。

ドラマティック型とリアリスティック型

実はフォロワーさんのツイートで、和樹ラドゥーの回にセットが捌けていくタイミングで一部の男性の観客から笑いが起きた、というツイートを見ました。決して馬鹿にしたとかそういう意味の笑いではないと思うのですが、そこで私は
「この一連の流れって、かなり現実離れした展開なのでは?」
と思ったのです。

話は逸れますが、某俳優さんがバラエティー番組に出たときに
「(舞台やテレビドラマ関わらず)芝居の世界ではよくある動きだけど、普通に生活していたらやらないことは自分の演技ではやらない」
と言っていたことがありました。
例えば「一方的に相手に切られた電話の『ツーツー』に対する『もしもし?もしもし!?』」
確かに、今まで生きてきて切られた電話に話しかけたことなんて無いと思うんですよ。「あ…」くらいなら声出ちゃうかもしれませんが。
でも芝居の世界だったらありなんです。電話を切られた側は焦っている印象を観客や視聴者に与えることが出来るし、切った側の人物には冷たい印象や仲違いをしたような様子を伝えることが出来る。多分これが演出をつけるという作業なんだと思いました。

もし自分が嘘をつく時や誤魔化す時って、例えば相手から目を逸らす・汗が出る・早口になる等、いつもと違う様子が出てしまうと思うんです。
万里生ラドゥーの「やや俯きながら(キャサリンから目を逸らす)自嘲気味に」という一連の動きはこれに近いような、普通に生活していたら出てしまう動作なんだろうと考えました。

では和樹ラドゥーはどうか。
私は性自認も身体的にも女性なので本当にそうなのかはわかりませんが、「高まってしまった情欲そのままに別の女性にぶつける」
というのは、ややファンタジーに近いのかなと。
ただし、この動作によってラドゥーの雄々しさだったり男の色気だったり、所謂「雄み」を観客に印象付けられるように思います。

私はこのファンタジーに近いけど舞台映えする演技のやり方をドラマティック型、印象強さにはやや欠けるけど実生活に近い演技をリアリスティック型と呼ぶことにしました。
※この2つは固有名詞とかではなく、Google翻訳を使って出てきた単語を引用しただけなので、他により合った表現があれば教えて下さい。

ちなみに万里生ラドゥーへのキャサリンの「ウイスキーを掛ける」という対応はドラマティック型だと思います。

どっちも好きだよ!という結論

いや、本当に。これはどっちが正解とかそういうのではなく、人それぞれのだと思います。甘党か辛党みたいな。
あとは演出家の方向性。こういう、複数キャストで全然違う動きをする作品って役者本人の解釈なのか演出家が別々に付けているのかどっちなんだろうってよく思います。

今回めでたくDVDが発売されるので(ここから予約できます笑)、届いたら見比べてみようと思います。
早くオタクたちと「食事でもしながら話せばいい…」が出来るようにならないかなぁ。

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