思い出の豆花
仕事がつらくなって、3ヶ月ほど休んだことがある。
その時、ほぼ毎週行っていた店がある。
そこは、手作り餃子と中国・台湾スイーツをテイクアウトできる店だ。
入って左手には観葉植物が置かれ、右側には、餃子や白玉団子の入った冷蔵庫、壁は深い青色。
テーブルはたったの2席だけれど、イートインもできた。
店長は、中国語を話せる日本人で、中国語を勉強中の私は時々簡単な単語などを教えてもらっていた。長身で、右手の甲の真ん中にほくろがあった。
休職中は、時間が有り余っていて、それに対しても罪悪感があって、それでも布団から出ることができず、苦しかった。
起き上がる理由として、今日はあのお店に行く、というのを作った。
病気療養中の休職なので、外に出るのがはばかられた。誰かと会うのも気が引けて、友達からの食事の誘いも断っていた。
唯一出かけていた場所が、台湾スイーツが食べられるその餃子屋さんだった。人に見られないように、平日の午後、早い時間に行った。
平日なので、お店はすいていて、私はたいていイートインで豆花を食べた。
豆花というのは、豆乳を固めて作られる台湾スイーツで、トッピングでサツマイモ団子やタロイモ団子、小豆や緑豆など、体に良いものを選ぶことができた。
私がよく選ぶのは、サツマイモ団子、タピオカ、緑豆だった。
黒糖シロップの甘さが、私を癒してくれた。
3ヶ月がたって仕事に復帰することを決めた日、私は店長さんに「仕事に復帰するので、がんばって、と言ってほしい。」という図々しいお願いをした。
その日、店長さんは、豆花の具材を全種類載せてくれた。
体の中に、点滴のように、エネルギーが入ってくるのがわかった。
食べ終わった頃、ちょうど他のお客さんが入ってきた。私は立ち上がり、持ち帰りの水餃子をもらった。袋に入った品物を渡しながら、店長さんは小さな声で「がんばって」と中国語で言ってくれた。
それ以来、自分なりに仕事はやれている。
・・・という、思い出の豆花。
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