列車・駅・一度きりの風景
久しぶりに電車と新幹線を乗り継いで隣県の県北へ取材に行った。
片道3時間。こういう時、高速道路で行くことよりも、私は何の迷いもなく鉄道を選ぶ。
コロナ禍だというのに新幹線の指定席にはわりとお客さんが乗っていたし、乗り換えの人の流れも結構な勢い。
ただ、観光客が減っているからか、県北のKioskは廃業し、新幹線の駅の
飲食店も休業していたり、早々と閉店していたりだった。
在来線に乗っていると、無人駅かと思うような小さな駅から
大勢の高校生が乗って来た。”僻地”と言ってもいいような町に
私立大学の附属高校があるらしく、急に車内は賑やかになった。
日が暮れると、車窓の外には灯りのともった家々が流れ、
ターミナル駅が近づくと高層マンションや街のネオンが華やかだ。
いろいろな家族が見えてきて、少しセンチメンタルな気分になる。
駅の改札やコンコースに、大勢の人が行き交っているのをぼんやりと
見ているのも好きだ。みんなそれぞれ、どこかからどこかへ。
列車の写真を撮ったり、いろいろな路線に乗ったりということは
ないのだけど。駅が好き、人が行き交う駅の風景が好き。
*
”電車”でいつも思い出す若者ふたり。
5年ほど前、仕事を終え家に帰るために発車直前の電車に飛び乗った。
たまたま立ったのは、窓を背にした二人掛けの席の前。
目の前に座っていた女子高生がさっと立ち上がり、笑顔で私に「どうぞ」と席を譲ってくれた。彼女が何のためらいもなく立ち上がったので、私はその勢いに押されて、気がついたら「ありがとう」と座っていた。彼女は私が降りる駅の一つ前で降りて行った。
それから何か月も経たない、仕事帰りの電車。乗り込んで来る人に押されて車内の奥へと入り、4人掛けの席の横の通路に立っていたら、すぐ前に座っている青年がスマホから顔を上げ「座りますか?]と聞いてきた。
私が「あ、大丈夫よ。座ってて。ありがとう。」と言うと、ニコッとして
またスマホを触り始めた。
私に、「まだ席を譲られるほど年寄りじゃないわよ。」などという
ひねくれた考えも抱かせないほど、二人の若者は実に自然に振る舞い、
未だに時々思い出すぐらい爽やかだった。
私は、列車や駅でうまれる一度きりの風景が好きなのだと思う。
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