私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション53『吉(きち)』
セレクション53『吉(きち)』(484文字)
私がいつも通りに巫女姿で売店に居ると、二人の少年が100円玉を差し出してきた。
「ああ、おみくじね」
私はいつも通りの営業スマイルでおみくじの箱を彼等の前に差し出すと、二人は箱を前に顔を見合わせ、順番に一個ずつ取り出した。
「やった!大吉だよ勝ちゃん!」
帽子を被った子が嬉しそうに短パンの子に言うと、短パンの子が頬を膨らませる。
「ふーんだ、お、俺なんてスーパー大吉だもん」
――は?
私の笑顔が一瞬固まる。
何、その田舎の商店みたいなネーミング。
「何だよそれ。じゃあ僕はスーパー大吉ス~リ~イ~っ」
スーパーサイヤ人3かよ。
「ぐっ、卑怯だそれ」
いや言い出しっぺはあんただよ短パン君。
「へへっ、勝った」
腰に手を当てて思い切りのけ反る帽子君。
――っていやそもそもそれ、おみくじだから。
私は深々とため息を吐くと、仕方なく二人に声をかけた。
「なあ、君達」
「なに?おば」
すかさず遮る私。
「お姉ちゃん!……何だか良く分からないけど、終わったら向こうの木の枝におみくじ付けてきな」
「はあいっ」
「ウイッス」
彼らも切り上げ時だったのだろう、私の呆れ声に彼らはびっ、と片手を上げ、元気良く走り去って行った。
(484文字)
『吉(きーち)』
〈キチ〉
めでたい。運がよい。「吉日(きちじつ・きちにち)・吉例/小吉・大吉」
〈キツ〉に同じ。
「吉凶・吉相・吉兆・吉報/不吉」
(大辞林より引用)
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