私的国語辞典_表紙絵2

私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション54『絹(きぬ)』



前項目次次項


セレクション54『絹(きぬ)』(650文字)




「……暇だな」 
『暇ですか?』 

ふと呟いた俺に、アイシアが即座に返答してくる。 

「いや、ただの独り言だから、気にすんな」 

俺はシートを倒し、目の前のコンソールに脚を乗せる。 

『マスター、前からお願いしてますが、私の……』 
「わあってるよ、オートパイロットにしろ、ってんだろ。はいはい」 

俺は仕方なく起き上がり、コンソールの右側にあるスイッチをオート側に切り替える。 

『OK、ただ今より本船はオートパイロットに切り替わります』 

スピーカーからアイシアの事務的な流れる。 

「全く、最新鋭の船ってのは、やたら小煩いもんだな」 
『当たり前です、』 

アイシアが呆れ声で切り返してきた。
さすが最新鋭のAIだな、人の神経を逆なでするのが上手いね。 

『今回の積み荷はあの『絹』ですからね。何か有ったら、天文学的な賠償金を請求されますよ』 


『絹』とは、開拓時代より前、遥か太古の昔に高級品として扱われた生地だ。 
今では生地の素になる『カイコ』とか言う虫が居ないため、製法だけが遺されていたのだが、先日銀河系の隅っこで宛てもなく漂っていた古代の脱出カプセルから一束だけ発見されたのだ。 

『久しぶりの大きい仕事なんですから、ミスは出来ませんよ』 
「ああもう、わかったって。俺を誰だと……」 

そう言って俺が起き上がって目の前のモニターを睨みつけた瞬間、艦内に警告音が響き渡った。 

『艦内後方の保管庫のセンサーに反応あり。侵入者です』 
「保管庫?わかった」 

俺は脇に置いていたレイガンをつかみ取り、シートから飛び出した。 

(625文字) 


『絹(きーぬ)』
 1 蚕の繭からとった繊維。
 2 絹糸で織った織物。絹織物。

(大辞林より引用)

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?