私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション56『君(きみ)』
セレクション56『君(きみ)』(315文字)
私は、朝の君を想像する。
窓から差し込む朝日を浴びながら、君は眠りから覚める。
君は起き上がり、その場で軽く伸びをすると、いつもの様にベッドを滑り降りる。
君は朝の決まり事を幾つか作っていた。
例えば、ベッドから降りる時は必ず左足から降りる。
寝室のドアは右手で開ける。
朝食はバゲットのトーストを中心に。
君はまるで神聖な儀式であるかの様に、決まり事を一つひとつ丁寧にこなしていく。
洗顔の前には洗面台に満たした水に顔を沈める。
ストッキングは右足から履く。
出かける前にはリビングのベランダに出て朝の空気を思い切り吸い込む。
儀式をひとつずつ終える毎に、君は少しずつ昼の君に変わっていく。
そんな君が、私はとても美しいと思う。
これが私の、朝の儀式だ。
(315文字)
『君(きーみ)』
[名]
1 一国の君主。天皇。天子。
2 自分が仕えている人。主君。主人。「わが―」
3 人を敬慕・親愛の情をこめていう語。「いとしの―」
4 人名・官名などの下に添えて敬意を表す語。男女ともにいう。
「師の―」「明石の―」〈源・若菜下〉
5 貴人や目上の人をいう語。お方。
「この―をば、私ものに思ほし」〈源・桐壺〉
6 遊女。遊君。
「―達声をあげて…笑ひぬ」〈浮・一代男・五〉
7 古代の姓(かばね)の一。もと皇親系の尊号で、天武天皇の八色(やくさ)の姓制では朝臣(あそみ)姓を与えられる者が多かった。
[代]二人称の人代名詞。
1 多く男が同等または目下の相手に対していう語。「―、一緒に行こう」
2 上代では多く女が男に対して、中古以後はその区別なく、敬愛の意をこめて相手をいう語。あなた。
「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや―が袖振る」〈万・二〇〉
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