私的国語辞典_表紙絵2

私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション71『鍬(くわ)』

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セレクション71『鍬(くわ)』(416文字)


真夏の照り付ける陽射しの下に、一人の少年が立ち尽くしていた。
熱い陽射しに肌がじりじりと焼かれ、狭い額には玉のような汗を吹き出させ、手に持った鍬を杖がわりにして立ち、疲労感からか、虚ろな表情でぼんやりと辺りを見回していた。
彼の目の前には、地平線の彼方まで荒野が広がっている。

一度はこの国の頂点へと上り詰めた父親から受け継いだ全財産と引き替えに、彼が手に入れたこの広大な土地。
誰が見てもうんざりとするようなこの荒野を、彼は一人でを振るい、出てきた瓦礫を一輪車で運び、自分の腕程もある木の根を一日掛かりで抜き取り、またで土をおこし続けていた。

彼は噴き出す汗を首に巻いたタオルで拭うと、再び鍬を上に振り上げる。
始めた当初から比べるとずい分と腰の入れ方が上手くなったものの、徐々に蓄積されてきている疲労によって、持ち上がった鍬の高さが毎回少しずつ低くなっているのがわかる。
それでも彼は、一気に鍬を振りおろした。
未来に向かって、まっすぐに。

(416文字)


『鍬(くーわ)』
 農具の一。刃のついた平たい鉄の板に柄をつけたもの。田畑を掘り起こしたり、ならしたりする。風呂鍬(ふろぐわ)と金鍬(かなぐわ)に大別される。

(大辞林より引用)

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