私的国語辞典_表紙絵2

私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション25『奥(おく)』



前項目次次項


セレクション25『奥(おく)』


                                                                                                                                        

彼女から突然電話があったのは、引越し記念の写メを何枚か送ってきた直後だった。
「なんだ、声聞きた……」
『――なんか居るの』
私のふざけた調子を遮るように、彼女の震える声が聞こえてくる。
「なんか?」
『うん、奥の部屋』
確か新しい部屋は1DKで、ダイニングの奥は和室だったはず。
「まさか。気のせいさ」
私の慰めに彼女が声を押し殺して叫ぶ。
『だって見てたよ!ちっちゃな……』

その時だ。
電話越しに彼女の絶叫が聞こえ、電話がいきなり切られたのは。






何が起こったのかは今でも解らない。














彼女が見つからないうちは解らないままだろう。
(255文字)

『奥(おーく)』
 1 入り口・表から中のほうへ深く入った所。「洞窟の―」「引き出しの―を探す」
 2
  ㋐家屋の、入り口から内へ深く入った所。家族が起居する部屋。また、奥座敷。「主人は―にいます」「客を―へ通す」
  ㋑江戸時代、将軍・大名などの城館で、妻妾(さいしょう)の住む所。「大(おお)―」
 3
  ㋐表面に現れない深い所。内部。「言葉の―に隠された本音」
  ㋑心の底。内奥(ないおう)。「心の―を明かす」
  ㋒容易には知りえない深い意味。物事の神髄までの距離。「―が深い研究」
  ㋓芸や学問などの極致として会得されるもの。奥義。秘奥。「茶道の―を極める」
 4 行く末。将来。
  「伊香保ろの沿ひの榛原(はりはら)ねもころに―をなかねそまさかし良かば」〈万・三四一〇〉
 5 物事の終わりのほう。特に、書物・手紙・巻物などの末尾。
  「―より端へ読み、端より―へ読みけれども」〈平家・三〉
 6 《2㋑から》身分の高い人が自分の妻をいう語。また、貴人の妻の敬称。奥方。夫人。→奥さん →奥様
  「この―の姿を見るに」〈浮・一代女・一〉
 《「道の奥」の意》奥州。みちのく。
  「風流の初(はじ)めや―の田植うた」〈奥の細道〉

(大辞林より引用)

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?