私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション75『怪我(けが)』
セレクション75『怪我(けが)』(399文字)
「わあい、雪だよほら」
公園に広がるまっさらな雪を見て、カラフルな防寒着を着た明美がおおはしゃぎで駆け出していく。
「ほら、そんなに急ぐと、転んで怪我するよ」
私が慌てて叫ぶと、明美が「わかったあ」と叫び返すが、その速度を緩める様子はない。
(まったく、変なとこばかりあなたに似るんだから)
私は公園の中央広場で雪をかき集める明美の小さな手を見て苦笑し、ふい、と空を見上げる。
(あなたがいなくなって、これで2回目の初雪だよ)
見上げた空は、昨夜の降雪が嘘だったかのように、見事に晴れ渡っている。
それこそ、泣きたくなるくらいに。
私は込み上げる想いをぐっ、と堪え、静かに微笑む。
(明美も私も元気だからね、あなたはそこから大好きな雪でも眺めてなさい――)
その時。
空から白いものが舞い降り、私の頬に柔らかく触れた。
一瞬頬に感じる冷たさがなぜかとても懐かしく感じ、私は快晴の空を見上げたまま、自分の頬にそっと手をあてた。
(399文字)
『怪我(けーが)』
[名](スル)
《「怪我」は当て字で、動詞「けがる」の語幹からかという》
1 あやまってからだに傷を負うこと。また、その傷。負傷。
2 思わぬ過ち。過失。損失。「慣れないことに手を出して―をする」
3 思いがけない事態。不測の結果。
「―と申しながら、面目もござない」〈咄・きのふはけふ・上〉
(大辞林より引用)
ここから先は
0字
¥ 100
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?