私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション81『決(けつ)』
セレクション81『決(けつ)』(875文字)
『では、そろそろ決を取りたいと思います』
司会進行役の『僕』が声を上げると、円卓に座る他の『僕』が一斉にわらわら喋り始める。
『だからさ、ここはビシッと男らしくよ』
ヤンキー風の『僕』がヤンキーっぽい口調で話し出すのを、眼鏡をかけた優等生風の『僕』がたしなめる。
『駄目だよ。彼女は人気者なんだ、力技でなんとかなるはずがない』
『ならどうすんだよ!』
風に噛み付くヤンキー風。
そこにチャラ男風の『僕』が髪をいじりながら、『いんじゃねっすか?普通で』 とやる気のなさそうな口調で絡む。
『いやだから普通にできないからこうやって……』
気弱そうな『僕』がツッコむが、気弱なせいか言葉が尻窄まりになる。
『てめえらはだあってろ』
ヤンキー風が二人を恫喝し、二人は黙り込んだ。
『あのさ、コクるのやめね?玉砕するの間違いないし』
オタク風の『僕』がスマホをいじりながらつぶやき、気弱な『僕』がうんうん、と激しくうなずく。
『それも駄目です。せっかく前に進もうと重い腰を上げたのに、やめたらまた引きこもりますよきっと』
優等生風が眼鏡を指で持ち上げながらダメ出しする。
『いんじゃね?別にwww』
オタク風が草を生やす。
『ああもう、どうすんのよ!あと2週間しかないのよ?』
たまり兼ねたオネエ風の『僕』が立ち上がる。
『だから普通に誘えば良いじゃん』
再びチャラ男風がつぶやく。
『だからよ、それが無理だからこうして会議?してんじゃねえか!』
ヤンキー風がキレる。
『しかし、これだけ話し合ってもラチが開かないなら、普通に誘うしかないですね』
優等生風がため息とともにチャラ男に賛同し、
『どうせダメなんだからさwww』
オタク風が再び草を生やす。
『まあ、それもそうか。おい、司会!意見がまとまったぞ』
ヤンキー風に言われ、『僕』は嫌な予感を覚えつつ、改めて口を開いた。
『じゃ、じゃあ多数決を取ります。『普通に声をかけてイブのデートに誘う』に賛成の人』
『僕』の問いに、全員が勢い良く手を挙げた。
目が覚めた僕は、ベッドの上で一人がっくりと肩を落とし、
「だよなあ。やっぱりそれしかないよなあ」
と、ぼやくようにつぶやいた。
(875文字)
『決(けーつ)』
1 とりきめ。定め。決定。「会長が―を下す」
2 可否を決めること。議決。「―を採る」
(大辞林より引用)
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