私的国語辞典_表紙絵2

私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション66『口(くち)』


前項目次次項


セレクション66『口(くち)』(409文字)


                                                                                                                                       

「ねえ、この袋の口、開けてくれない?」 

リビングでパソコンを弄っていた私に、キッチンに居た彼女が声をかけてきた。
 見ると、手にスナック菓子の袋のようなものを持っている。 

「これ、何も描かれてないけど」

 私は袋を手に取りながら、彼女に問う。 

「開けてみれば解るよ」

 彼女はそう言って、着けていたエプロンで濡れた手を拭く。 

「ふうん、どれ」

 私は袋の継ぎ目を摘み、一気に力を入れたが、 口が開く様子はない。

 「ん、堅いな」

 私は摘む位置を少しずつずらして力を入れていきながら、彼女に声をかける。
 彼女の返事はない。
 見上げると、そこに彼女は居なかった。 

「何だよ、もう」

 辺りを包む暗闇の中、私はため息とともに袋に力を入れた。 

……暗闇?

 その瞬間、乾いた糊の引きはがされる音と共に、袋があっさりと開く。 
私は中身を確認しようと、中を覗き込んだ。 


そこには、血に染まった彼女の顔があった。 
茫然とする私に、袋の中の彼女がニンマリと笑う。 


「ね、解ったでしょ?」 

(409文字)

『口(くーち)』
[名]1 動物の消化器系の開口部で、食物を取り入れる器官。人間では顔面の下部にあって、口唇・口蓋(こうがい)・口底に囲まれ、中に歯・舌などがある。発声にも関係する。口腔(こうこう)。「食べ物を―に入れる」「―をつぐむ」
2 《1に似ているところから》㋐人や物の出入りするところ。「通用―」「改札―」「粟田(あわた)―」
㋑容器の中身を出し入れするところ。「缶の―を開ける」
㋒物の、外部に開いたところ。すきま。穴。「傷―(きずぐち)」「ふすまの破れ―」
3 就職や縁組みなどの落ち着く先。「事務員の―がある」
4 物事を分類したときの、同じ種類に入るものの一つ。また、その種類。たぐい。「彼は相当いける―だ」「甘―」

㋐物事の初めの部分。または、まだ始まったばかりのこと。発端(ほったん)。「宵の―」「序の―」
㋑物の端(はし)。ふち。先端。「切り―」
㋒雅楽の一曲や義太夫節の一段を細分したときの最初の部分。
6 《1が飲食の器官であるところから》㋐食べ物の好み。味覚。「―が肥えている」
㋑生活のために食料を必要とする人数。「―を減らす」
㋒食べる量。
「三度の―を詰められるほど辛いことはなく」〈秋声・縮図〉
7 《1が言語器官であるところから》㋐口に出して言うこと。ものの言い方。「―を慎む」「―が悪い」
㋑世間の評判。うわさ。「人の―が気になる」
㋒口出しをすること。または、その意見。
「『お止しなさい』と女は叱咤る様に男の―を制えた」〈魯庵・くれの廿八日〉
㋓話す能力。「―が達者だ」
㋔客の呼び出しがかかること。また、友人などの誘いがあること。→口が掛(か)かる →口を掛(か)ける
㋕意向。意見。
「この男の―を窺(うかが)ひ」〈浮・永代蔵・一〉
㋖歌などの詠みぶり。
「おのおの初心講へも推参すると聞いたが、殊の外―がよいと仰せらるる程に」〈虎明狂・皹〉
8 馬の口につける縄。口取り縄。
「―引きける男…聖(ひじり)の馬を堀へ落としてげり」〈徒然・一〇六〉
9 直径。さしわたし。
「―六尺の銅(あかがね)の柱を」〈平家・五〉
[接尾]助数詞。1 刀剣などを数えるのに用いる。「脇差し数―」
2 ものを食べる回数をいうのに用いる。「ひと―食べる」
3 寄付や出費などの分担の単位として用いる。「ひと―一万円の寄付金」
[補説]「口を濁す」という言い方について→言葉を濁す[補説]

(大辞林より引用)

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?