私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション65『管(くだ)』
セレクション65『管(くだ)』(355文字)
目の前に、一本の管が浮いている。
下から反対側を覗き込むが、特に何かで吊り下げられている訳でもない。
あなたは何とは無しに右手に顔を向けるが、
管の延びていく先は暗く、どこまで続いているか検討もつかない。
左手も同様だった。
あなたは首を傾げながら、目の前の管を見つめる。
金属とも違う、どちらかと言えば血のように赤く生々しいその表面は、
良く見ると微かに脈打っているようにも見える。
あなたは躊躇しながらも好奇心には勝てず、
そっと指を管に近付ける。
管に指先が触れた瞬間、
触れた所がサーモンピンクに色を変え、
痙攣するように震える。
その様子は、
まるであなたの指を受け入れているように見えた。
震える管に何故か興奮を覚えたあなたは、
右手を大きく開いて、管を一気に掴む。
辺りに響き渡る人外の何かの叫び声に、
あなたの中の何かが、
ぱちん、とはじけた。
(355文字)
『管(くーだ)』
1 細長い円筒形で中が空洞になっているもの。「―を通して水を送る」
2 機(はた)の横糸を巻いて杼(ひ)に入れる道具。
3 糸繰り車の紡錘(つむ)に差して糸を巻きつける軸。
4 「管狐(くだぎつね)」の略。
5 「管の笛」に同じ。
「吹き響(な)せる―の音も」〈万・一九九〉
(大辞林より引用)
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