私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション64『癖(くせ)』
セレクション64『癖(くせ)』(405文字)
ある日、私が一人ファミレスで晩飯を食べていた時の事。
背後の家族連れの席から、母親らしき声が聞こえてきた。
「ほら!また悪い癖!やめなさい!」
ややヒステリックにも聞こえる母親の声を煩いと感じたが、しつけは大事だよなと自分に納得させて再び自分の料理に箸をつける。
「ゆうや!何度も言ってるでしょ?!」
ゆうやくん、か。大変だな……
と、ご飯を咀嚼しつつ苦笑いする私。
「だから!ハンバーグを啜らないの!」
……は?
私はぴたり、と動きを止めて、自分の料理をみる。
そこには熱い鉄板皿の上でじゅうじゅうと旨そうな音を立てるハンバーグステーキの姿が在った。
「それに!ほら!」
いや、ハンバーグを啜るって……啜る?!
「食べる時は、テーブルの上で三点倒立しちゃダメだって!」
『なにい?!』
その瞬間。
店に居た全員が一斉に立ち上がり、ゆうやくんを見た。
間違いなく。
ゆうやくんはテーブルの上で三点倒立しながら、
必至の形相でハンバーグ皿を啜っていた。
(405文字)
『癖(くーせ)』
《「曲(くせ)」と同語源》
1 無意識に出てしまうような、偏った好みや傾向。習慣化している、あまり好ましくない言行。「爪をかむ―」「なくて七―」「怠け―(ぐせ)がつく」
2 習慣。ならわし。「早起きの―をつける」
3 一般的でない、そのもの特有の性質・傾向。「―のある味」「―のある文章」
4 折れ曲がったりしわになったりしたまま、元に戻りにくくなっていること。「髪の―をとる」「着物の畳み―(ぐせ)」→癖に →その癖
(大辞林より引用)
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