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私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション61『九九(くく)』



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セレクション61『九九(くく)』(710文字)



                                                                       

「にしち~」 
「じゅうし!」 

ある夕方の住宅街を、小学生の男の子と女の子が並んで歩いていた。 
どうやら九九を順番に言い合っているようだ。 

「にはちっ」 
「じゅうろく!にく~」 
「うまいっ」 
「それはおにく!」 

あ、ボケた。 

「ははっ。さんいちっ」 
「さん!さんに~」 
「ろくっ。さざんっ」 
「くわた~」 
「それはバンドっ」 
「さんし~」 
「でっぱっ」 
「それはさんま~」 

おいおい、九九どころか、ボケてすらない。 

「さんごっ」 
「夏休みに見たよ~」 
「ええ?すっげー」 

いやいや。 

「さぶろく~」 
「じゅうはちっ。さんしちっ」 
「にじゅういち~。さんぱぁ」 
「にじゅうしっ。さんくっ」 
「にじゅう……しち?」 
「ぴんぽーん」 
「やった!しいち~」 
「よんっ。しにっ」 
「はち~。しさん」 
「うちいっぱいあるんだって」 
「え?しさん?」 

資産かよ。 
子供の前で何の話してるんだか。 

「ししっ」 
「うししっ」 
「うししししっ」 

笑ってるよこの子ら。 

「しご~」 
「ちょおやばい」 
「なに~?」 
「しご~」 

死語かよ。 
チョーヤバいな。 

「しろくっ」 
「にじゅうし~。ししち~」 
「にじゅうはちっ。しわ……」 

と、突然男の子が立ち止まる。 

「さんじゅうに~……ってどしたの?」 
「しわ……」 

男の子が真っ直ぐに前を指差す。 

「え?……あ、おばあちゃんだ。ヤッホー」 
「あ、二人ともお帰り……どしたの、達也くんは」 

女性が覗き込む。 

「しわ!」 
「うっ」 
「しわっ!」 
「うっ」 
「さんじゅうにっ!」 
「くどいわこの子はっ!」 
「びええん」 
「はっ、しまったつい」 
「今のはたっちゃんが悪いよお」 
「びええん」 
「ああごめんね達也くん。よしよし」 
「しくしく」 
「よしよし……って桜、お前は何をニヤニヤしてるのかな?」 
「ふふふ。さんじゅうろくっ」 

オチがそれかい。 

(710文字)

『九九(くーく)』
 1から9までの数を互いに掛け合わせた数の一覧表。また、その唱え方。「一一(いんいち)が一」から「九九(くく)、八一」まで。

(大辞林より引用)

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