私的国語辞典~二文字言葉とその例文~ セレクション30『あるぞうさんのおはなし』
セレクション30『あるぞうさんのおはなし』(『おや』『檻』『折る』『俺』『オン』)
あるはれた日にぞうさんがのしのしとさんぽしていると、うさぎさんがこまりがおで木を見上げてました。
「おや、なにをしてるんだい?」
ぞうさんが聞くと、うさぎさんは、
「木の上においしそうな実があるんだけど、取れないの」
と、かなしそうに答えます。
ぞうさんが見上げると、
なるほど、おいしそうな実がいっぱいなっていました。
「おやおや。ようし、取ってあげよう」
ぞうさんはそう言って、長いお鼻で実をそっとつかみ、そのままうさぎさんにあげました。
「わあ!ありがとう!」
うさぎさんはうれしそうになんどもあたまを下げると、実をだいじそうにもってぴょんぴょんとんでいきました。
ぞうさんがうさぎさんとさよならしてどんどん先に行くと、今度は小さな檻にかわいいこざるさんが閉じ込められてるのを見つけました。
「おやこざるさん、どうしてこんな狭い所に入ってるの?」
ぞうさんがきくと、こざるさんは、
「わるい人たちに捕まったの。逃げられないの。お母さんとはなれちゃったの」
と、泣き出しました。
ぞうさんはわるい人たちなんて怖くありません。
「おやおや。ようし、こんな檻、こわしてあげる。すみっこでじっとしてて」
ぞうさんはそう言うと、檻の上半分に長いおはなをまき付けます。
みしみし、ばああん!
檻は簡単に壊れてしまいました。
「わあ、ありがとう!」
こざるさんはうれしそうにぴょんぴょんとびはねると、ぞうさんにぴょこん、とおじぎをして、走り去ってしまいました。
ぞうさんはそれからも、おさんぽの途中で出会った動物たちを助けていきました。
たとえ牙が傷ついても、
足の裏にトゲが刺さって血を流しても、
つかれて倒れそうになっても、
それでも動物たちを助けていきました。
しかし、そんな無理は長く続きません。
ある時、鹿の群れの為に大きな岩をどかしてあげたせいで、牙をぽきり、と折ることになったのです。
実はぞうさんの牙は、折れてしまうと力が出なくなり、やがて死んでしまうほどに大事な物でした。
そんな事など知る事のない鹿さんたちは象さんに何度もお礼を言って立ち去ります。 さて、象さんはこの後、どうしたでしょう?
※
「どうしたでしょうか……って、そりゃ牙を治しに行ったんじゃないか?」
ぶっきらぼうな俺の返事に、彼女は薄く笑って首を振る。
「ううん、治そうとはしなかったの。
ねえ知ってる?
象はね、自分の死期が近い事を知ると、必ずある場所へ向かうの」
それなら俺も知ってる。
「象の墓場だろ?象も本能でしか知らないと言う」
俺の答えに彼女は小さく頷く。
「そう。だからその象さんも、牙をその場に残して、ほかの象がしたのと同じように、微笑みながら墓場へ向かったの」
そう言って微笑む彼女が、俺にはとても眩しく、悲しく、はかなげに見えた。
なんだこの話は。
確か彼女が子供の頃に良く読んでくれた絵本の話じゃなかったのか。
「……また随分と悲しい話だな」
俺がなんとかそれだけ答えると、彼女はまたいつもの悲しげな笑みを浮かべる。
「私、この話は幸せな話だと思うんだ」
その言葉に思わず目を見張る俺。
「そりゃ、そいつは幸せかも知れんがな、遺されたものはどうする?」
俺は彼女を見つめる。
彼女がその象と同じように生きている事を知ってるだけに、なおの事自分の気持ちを伝えなければならないと感じていた。
「良いか、俺は許さない。愛する者がそんな事になったなら、全力でなんとかする。誰も俺の前では死なせないぞ」
俺の奥底に在った何かのスイッチがオンになったかのように、俺は自分の思いを一気に吐き出し、彼女を見て……
そこで初めて、彼女が静かに涙を流している事に気付いた。
「ありがとう。
でも、忘れないで。
この話は、沢山の動物達や自分の家族に感謝しながら墓場で眠りにつく所で終わるの。
家族や伴侶を愛していたし、助けた動物達を恨んでもいなかったの。
……それだけはお願い、忘れないで」
彼女の有無を言わせない口調に俺はため息を吐くと、肩をすくめて苦笑した。
「まったく、こんなに頑固だとは思わなかったよ」
俺の返事の軽さに、彼女がくすり、と笑い、俺も小さく吹き出した。
『おや(おーや)』
[感]意外なことにであったときなどに発する語。
「―、まだ起きていたの」「―、まあ」
『檻(おーり)』
《「居(お)り」からという》
猛獣や罪人が逃げないように入れておく、鉄格子などを使った頑丈な囲い、または室。
『折る(おーる)』
[動ラ五(四)]
1 棒状・板状のものを鋭角的に曲げる。また、そのようにして切り離す。「指を―・って数える」「枝を―・る」
2 紙や布などの平面状のものを畳んで重ねる。「新聞紙を二つに―・る」
3 紙や布などを畳み重ねて物の形を作る。「千羽鶴を―・る」
4 (「筆をおる」などの形で)文筆の業をやめる。
5 頑固な気持ちを弱める。くじく。「鼻柱を―・る」「我(が)を―・る」
6 (「骨をおる」などの形で)あるもののために苦労する。「友人の職探しに骨を―・る」
7 波が幾重にも重なって砕ける。「今日もかも沖つ玉藻は白波の八重―・るが上に乱れてあるらむ」〈万・一一六八〉
『俺(おーれ)』
[代]一人称の人代名詞。元来、男女の別なく用いたが、現代では、男子が同輩または目下に対して用いる。「―と貴様の仲」
『オン(おーん)』
[名](スル)
1 スイッチが入った状態。機械などが作動中の状態。⇔オフ。
2 ゴルフで、ボールがグリーンにのること。「第2打で―する」
3 《「オンタイム」の略》仕事中であること。「―とオフを切り替える」⇔オフ。
4 他の外来語の上に付いて、上にある、接している、その状態にあるなどの意を表す。「―ザロック」「―ライン」
[補説]3は日本語での用法。
(大辞林より引用)
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